第165話 冷えない箱
木材を二枚、並べる。
同じ厚み。
同じ長さ。
エレノアは片方を叩く。
乾いた音。
もう一枚も叩く。
少し低い。
ラグナが首を傾げる。
「違うのか」
「密度」
エレノアは片方を選ぶ。
「こっち」
ネファルが低く言う。
「断熱か」
エレノアは答えない。
板を組み始める。
外箱。
その内側に、もう一層。
空間を作る。
完全には埋めない。
隙間を残す。
ルミナが光る。
「なに作るの?」
「冷やす箱」
ラグナが笑う。
「火なしでか?」
「うん」
⸻
錬金皿を取り出す。
水を少量。
そこに粉末を落とす。
反応は穏やか。
蒸気がわずかに立つ。
ネファルが言う。
「揮発を使うのか」
エレノアは頷く。
「水が飛ぶとき、熱を奪う」
ラグナが眉をひそめる。
「面倒だな」
「火も面倒」
小さく返す。
ラグナは何も言わない。
⸻
二重壁の隙間に、布を入れる。
その布に錬金液を染み込ませる。
完全に密閉しない。
通気孔を小さく開ける。
ミラが覗き込む。
「乾くと終わり?」
「うん」
「補充すればいい」
ミラは少し考える。
「土の壺も使えるかも」
「湿りを保てる」
エレノアは顔を上げる。
「やってみる?」
ミラは頷く。
⸻
試作箱に野菜を入れる。
ただの葉物。
蓋を閉める。
時間が経つ。
大きな変化はない。
だが。
ルミナが言う。
「中、ちょっとだけ涼しい」
ラグナが鼻を鳴らす。
「誤差だ」
ネファルが静かに言う。
「誤差は積もる」
エレノアは蓋を開ける。
葉は萎れていない。
外より、少しだけ冷たい。
「まだ足りない」
ミラが腕を組む。
「でも死んでない」
エレノアは小さく頷く。
外では、風が抜ける。
強くはない。
ただ、一定。
ヴェルナシアの気配はない。
だが。
風は通る。
通気孔がわずかに鳴る。
ネファルが低く言う。
「風を借りるか?」
エレノアは首を振る。
「まだ」
「これは、構造」
ラグナが笑う。
「氷でもいれば楽だな」
エレノアは箱を撫でる。
未完成。
だが、可能性はある。
地脈を削らない。
魔力を吸わない。
それでも。
少しだけ冷える。
外で風が鳴る。
通気孔が、わずかに揺れる。
ほんの一瞬。
箱の中の空気が動いた。
ルミナが小さく光る。
「……今、ちょっと冷えた」
エレノアは顔を上げる。
何も見えない。
ただ、風がある。
まだ、足りない。
だが。
道は、ある。
エレノアは布をもう一枚、切り出した。




