31.悪魔の六大貴族
嫌な夢を見た。目が覚めてすぐに、夢のことを思い出す。ずいぶん前から、あの日の夢なんて見てなかったのに……。ため息をついて、ボーっとした頭のまま体を起こす。
そこでふと、違和感に気づく。いつもよりベッドが柔らかく、シーツも滑らかで石鹸の良い香りがする。
「ん?」
そこではっきりと覚醒した頭で、ようやくここが自分の部屋ではないことに気づいた。自分の部屋がまるごと収まりそうな広い部屋は薄暗く、この部屋が貴族か大金持ちか何かの部屋だと一目でわかるレベルで、豪華な調度品がそこかしこに置かれている。
シルバーと金の細工が施されたチェストやクローゼット、置かれている絵画も額縁だけでも、相当な金額になるだろう。自分が寝ているベッドも、深紅の高級なベルベットの布地に黄金の糸で花々が刺繍されているとてつもなく豪華な天蓋ベッドだ。私が伯爵令嬢だった時ですら、両親のベッドも私のベッドもこんなに豪華じゃなかった。
思い出せ!!! 私は何でこんなところで寝ている!? 服装を見れば、いつものヨレたTシャツに短パン姿、要は寝巻きのまま……。
そうだ。朝起きたら様子のおかしいクロックがいて、魔法を使われて引き寄せられて気づいたら……。
「もしかして、転移魔法……」
転移魔法は超絶高度な魔法と聞いている。使えるのは妖精の王族と悪魔のなかでもごく一部、王と6人の大貴族の悪魔だけ……。
「はっ!?」
悪魔の六大貴族!? まて、まって、クロッケン・バハード!? どこかで聞いたことあると思ったけど、六大貴族にそんな名前いなかったか!? 頭を抱えていると、コンコンコンとドアの方からノックの音が響き渡る。思わず、びくりと肩を揺らしつつも
「はいっ……」と、返事をする。寝たふりかまそうかと思ったが、状況把握したい。ベッドに寝かせていた相手を、次の瞬間殺すなんてことはしないだろうと……いや、悪魔の習性なんてわからんし!!!!
そうこうしている間に扉がガチャリと開く、クロックが入ってくるのかと思っていたが、ドアから入ってきたのは真っ黒なメイド服を着た物悲しげな表情の綺麗な女性、と言ってもどう見ても人ではない。頭から二本の黒く、鋭い角が伸びている。しかも、身長は180cmはありそうな高身長だ。スーパーモデルですかっ!?
「失礼いたします。
お目覚めになられたようで安心いたしました、ルイーゼ様、転移酔いで意識が数週間戻らない人間もおりますので、旦那様も大変心配しておられました」
静かな声で淡々と話すその女性を、食い入るように見てしまう。なんだろ、引き寄せられるような何とも言えない雰囲気を持っている。
「私の名は、リュジュと申します。
旦那様より、ルイーゼ様の身の回りのお世話をするように仰せつかっております」
そう言うと、恭しく首を垂れる悪魔の言葉に、まてまてまて!!と脳をフル回転させる。私の身の回りの世話!? 旦那様!? まさかそれって、やっぱり!? いや、確証が必要だ!!
「あっ、あの……」
「何でございましょう?」
可愛らしく小首をかしげるリュジュに、もはや状況説明を求めるほかあるまい。
「私……何でここにいるんでしょう?
旦那様っていったいどなたのことですか……」
そう伝えると、リュジュが一瞬ポカンとした表情で瞬きを繰り返すが、すぐに姿勢を正して元の表情に戻る。
「大変失礼いたしましたルイーゼ様、私、バハード家に代々仕えておりますメイドでございます。
現在の御当主はクロッケン・バハード様であらせられます。
ルイーゼ様が現在おられるのは、悪魔の国アンダーヘルにありますバハード家の屋敷、旦那様からはルイーゼ様は契約者であり、いずれ妻になるお方だと聞いております」
「……契約した覚えも、妻になる覚えもないのですが……」
聞いたけど余計に混乱しただけだった!!!! どゆこと!? なんで妻!? 私をここに置く言い訳に使ったのか!? いや、だが、とりあえずここがクロックの家ってことはわかったよ、あとあいつが大悪魔の六大貴族の1人ってことも!! だけど、どゆこと!?




