28.苛立ちの理由
「そんな怒りなさんなぁー、怒りてぇーのは俺の方なのによぉー?」
口ではそう言っているが、声のトーンは先ほどと一緒。それがどうにも不気味に感じる。
「はっ? なんで、腑抜けたから?」
「それはどぉーでもいいけどよぉー、なんでお前……俺を呼ばない?」
クロックから発されたとは到底思えないような低い声でそう言った瞬間、クロックが一瞬で移動して目の前に立ちはだかる。真っ黒なデカい影に覆われたような気がして、恐怖から思わず一歩下がれば、逃がさないと言わんばかりに両肩をガシリと掴まれた。
この枯れ枝みたいな手のどこにそんな力があるんだと思うほどに、強い力で掴まれて痛みで声が出る。
しかし、そんなことはお構いなしにクロックの顔が目の前に迫る。目を見て話せと言わんばかりに……
「痛っ! 悪魔に願いを叶えてもらった後の対価が怖すぎて気軽に呼べるかっ!! 目玉よこせとか言われたらたまったもんじゃない!!」
キレながら、クロックの手から逃れようと「ぐぬぬぬぬっ!!」と女とは思えぬような声を出しながら脱出を試みるがビクともしない。が、先程よりも力が弱まり痛みは消えるが、離す気は無いようで掴まれたままだ。
「………なるほど、それが理由で俺を呼ばなかったわけだ。それは俺の落ち度だ。なら、対価は必要ないと言えば、お前は俺を呼ぶのだろ?」
普段の独特な話し方とは全く異なり、淡々と話すクロック。一体何!? 何が起きてる? 目の前にいるのは本当にクロックなのか!? パニックになりそうなのを何とか押しとどめて、平静を装う。
「対価がないなら一考の余地はあるけど、殺しはなしでっ…いっ!?」
すると再び肩を掴む力が強くなる。
「痛っ! クロック!」
離して! と言おうとしたところで、右肩から手が離れたかと思えば、そのまま勢いよく右手首を掴み上げられ、目線の高さに手をかざす。妖精の契りの指輪が視界に入る。掴まれて再び痛みに呻くも、クロックは意に介さない。
「あの二人を殺したくないと? お前は、あの二人を疎ましく思っているのではないのか? それとも、言い寄られてその気になったのか? あのガキどもの妻になるつもりか?」
「思ってない! んな事!!!」
「なら何故だ!!」
何でこんなにクロックはキレてるのか理解できない。そんなに殺しがしたいのか?ともかく理由!! 殺しはやり過ぎなんて言葉じゃ今のクロックは収まらないだろう。
「そっ、そんなの決まってるでしょ!
今ここであの二人が殺されたら、誰がどう見ても私が疑われるでしょうがっ!!
絶対嫌だ! 逃げ隠れ生活するなんて!! ゼ――――ったいに、い・や・だっ!!
のんべんだらりと生活したいの!!」
半ばやけくそで叫べば、クロックに掴まれていた手の力が弱まる。すると、掴んだ手はそのままに、クロックが盛大な溜息を吐いた。
「はぁーーーー、そうだ。お前はそういう女だった……」




