25.追跡者
店の戸締りをして裏口から出て鍵を閉めると盛大な溜息をつく、アルシエルとフェイルのせいで、今日も今日とて散々だった……。
疲れた体を引きずるように歩みを進めていると、ふと、背後から視線を感じた。途端に先ほどまでの怠さが消え去り、背後の気配へと意識を集中させる。しかし、気取られない方がよいか……。
そう思い直接自宅へは向かわず。スラム街でも人がにぎわう繁華街へと歩みを進める。そして、酔っ払いの集団に突っ込んで紛れた瞬間、素早く路地へと身を隠して屋上へと上がると自分を探っていた人物を探す。案の定、見失って慌てている様子のスラムには少々似つかわしくない、サマージャケットを羽織った身綺麗な男が目に入る。
「あいつか……」
一見、スラム街に迷い込んだ観光客のように見えるがどう見てもつけ方が素人ではない。誰かに雇われて私を殺しにでも来たのだろうか?
その男が辺りを見回しながら路地に入った瞬間、屋上から飛び降りてその男の背後に積まれていた酒瓶のケースの上に降り立つと、振り返ろうとした男の後頭部に銃を突きつける。
「動くな、私に何の用だ。
言い訳は通用しないと思え、頭に風穴開けられたくなきゃ簡潔に答えな」
そう冷たく言い放つと、男は悔しげに呻き敵意はないと両手を上げる。
「……流石は坊ちゃんをたった一人で救ってくださった方だ。
お見それいたしました」
30代前後の男は、慌てる様子もなく淡々と話す。話の内容的に、あの二人のどっちかのお目付け役と見た。そう思いながら目的を言えと言わんばかりに、銃を頭に押し付ける。
「そう慌てないでください。
貴方をつけていたのは謝罪いたします。
どのような方かを見極めたかっただけなのです。本当の目的は貴方にお渡しするようにと、坊ちゃんより贈り物をお預かりしているのです」
確かに、男の手には白い小さめの紙袋がぶら下がっている。
「はぁ……。坊ちゃんとは?」
深いため息をついて聞けば、男は何でもないように
「アルシエル様の事です」
「またかっ……」
思わず本音が漏れる。再び深いため息をついて銃を下ろす。すると、男もふぅっと息を吐くと
「振り返ってもよろしいでしょうか?」
と、聞いてきたので「好きにしろ」と返せば素直に振り返る男は、いかにもと言わんばかりの張り付けたような笑みを浮かべていた。うわぁーと、声に出さなかった私は大人だと思う。
黙ってれば涼やかな糸目の清楚系なイケメンだと思うが、笑顔がうさんくさっ、そのすました顔で何人殺してきたんだお前?と聞きたくなるほどだ。これ以上関わりたくない。さっさと帰ろ!そう思い酒瓶のケースから飛び降りると、スタスタと歩き出す。
「お待ちください。こちらをお忘れですよ。
アルシエル様が貴方の為に、貴重な時間を割いて選ばれたものです。
地面に這いつくばりながらアルシエル様に感謝し尽くしてください」
最後の言葉にコイツ……っと嫌悪感を露わにしながら振り返れば
「なかなか良い表情をなされますね。
アルシエル様に媚びる意地汚い陸の女と思っておりましたが、まぁ、悪くない「何様……」」
アルシエルに仕えているのだから、コイツも人魚なんだろう。顔が良いのも納得だ。そして、意地汚い陸の女って、もう間違いなく人間じゃないわコイツ……。
「これは申し遅れました。
私、アルシエル様にお仕えしておりますレイビスと申します。
以後お見知りおきを」
恭しく腰を折り頭を下げるも、目を見開いてこちらを見つめる金色の目は鋭く、こちらを射抜かんばかりに細められている。
敵意むき出しじゃん……。私が言い寄ってるわけじゃないのに!!!理不尽だっ!




