21.人魚再び2
「なっ……なんでここにいるの…アルシエル……」
そう言うと同時に、私の事を探っていたという奴を思い出す。お前だったか…と思わずにはいられない。昨日とは打って変わって冷静な表情のアルシエルだったが、徐々に口角が上がっていっている。嬉しさが隠し切れない、犬かお前は……。
「僕の名前、覚えてくれてたんですね。
嬉しいです、ルイゼ」
心底嬉しそうに微笑む美少年に白目をむきそうになりながらも、一応用件を聞く。
「なんか用?」
確認作業は諦めて、アルシエルを見れば笑顔が引っ込み、急にばつの悪そうな顔になる。
「その…突然押しかけて申し訳ありません。
ただその…昨日の事を謝りたくて、落ち着いてあの日の話とかお礼をちゃんとしたくて、ご迷惑…とは思ったんですけど……」
なんて顔に出やすい子! 追い返したいのは山々だがこちらも勝手につけられた印を外してもらわなきゃならない。まぁ、外してもらった後はフェイルの猛攻にあいそうだが、悩みごとは少ない方が良い。
「はぁーーー」と特大のため息を吐き出す。
「あんたさ……ちょっと扉の外にかかってる札を閉店に変えといてくんない?
お茶の用意するから、そこの長椅子座って待ってて」
そう言って、店の右手にある調合の間、客を待たせる用の茶色く古びた長椅子を指させば、みるみる嬉しそうな顔に戻っていくアルシエルは「はいっ!」と元気良く返事をした。
距離を詰められぬよう2人の間に置いた盆の上には、ゆらゆらと湯気が立ち上るアツアツのお茶が置かれている。どちらも手を付けずに、長椅子に腰掛け店の反対側の壁を見つめたまま、昔話に花を咲かせる。と言ってもお互いの思い出などあの日だけだが、アルシエルが故郷に戻ってこっぴどく両親と兄と姉たちに叱られ、それから1年間は兄弟の付き添いがないと遠出をさせてもらえないくらい過保護にされた話、家族が私にお礼をしようと探してくれていた話など、話は尽きず不本意ながら楽しいと思えるくらい談笑は続いた。
不思議なものだ。あの日、会話らしい会話もしてないし、顔を合わせた時間は1時間にも満たない。馬が合う、とはこういう事なのかもしれない。などと頭の隅で考える。すっかり湯呑のお茶が冷めきった頃、不意に訪れる静寂。どちらから話す気配のない状況に、正面を向いたまま背もたれに体を預ける。
何楽しんでんだ私……。いや、話を切り出すタイミングを窺っていただけだ。そんな言い訳を自分にしつつ、この少年の昔話を聞いて仲良しこよししてては、いっこうに私のことなど忘れてはくれないだろう。「はぁー」っとため息を吐いて一思いにこの少年の未練を断ち切らなければ……。
「昔のお礼なんて必要ない。アレは事の成り行きでしかないんだ。君が恩義に感じることなんて何一つない。けど……今日、君が来てくれて良かったよ。ほんとはずっと気になってたんだ。ちゃんと故郷に帰れたのかなーってさ、うっかりまた人間に捕まってんじゃないかってさ、でも元気そうでよかった……。
それと……聞きたかったんだよねー。
この薬指について!」
そう言って左手を上げると、隣のアルシエルがビクリと肩を揺らす。




