19.不法侵入者2
クロックに言われて思いめぐらせるが
「……パッとは思いつかないな、誰に頼まれたんだかね……。
こんな仕事してたら思いつかないじゃなくて、思い当たり過ぎるの間違いかも」
そう言って冷蔵庫に歩み寄ると、炭酸水を取り出して瓶のふたを開けて口をつける。炭酸を飲みながら、不意にアルシエルを思い出す。あの学校は金持ち学校だ。フェイルの話から諦めてないとすれば、探られる可能性はあるか……。もしくは、うちのアルシエル坊ちゃんに近づく悪い虫を排除するためとか……。
「あんだ?やっぱ思い当たる奴でもいんのかぁ?」
マジマジとこちらを見つめていたクロックに問われて
「あぁー、やっぱり思い当たる奴が多すぎるなって思っただけ」
そういって瓶のふたを閉めようとすると、クロックが私を指さす。
「ヒャヒャっ!人魚の口づけまでつけられてやがるっ!」
その言葉に思わず瓶を落としそうになる。フェイルが言っていた、これは人間には見えないと
「なっ、なんでわかんの!?クロック人間じゃないの!?」
「俺が人間なんていつ言ったぁー?」
「え゛ぇっーーー!!?」
「ヒャヒャッ!なるほどなぁーなるほどなぁー、ルイゼ…おまぇー、異種族からするとお前の傍は心地よいんだ。
お前は執着されやすいタイプの人間だ…俺もお前に執着してる一人だぁ、けど、俺はそこらの奴らより長生きだからなぁー冷静でいられる。……けどよ、その両手の薬指に跡を残したそいつ等は違うらしいな?」
ヒタヒタと足音を立てながらクロックがこちらに歩み寄ってくる。若干の恐怖を覚えるがすぐさまそれを押しとどめて、なんでもないように炭酸水を冷蔵庫にしまう。
「ルイゼ」
すぐ真後ろで聞こえたいつもと違うトーンのクロックの言葉にゆっくりと振り返れば、思った以上に目の前にあったクロックの顔に思わず驚く
「お前、やっぱり腑抜けちまったなぁー?
まぁー、いいけどよぉー。
その両の手の薬指の印の主2匹、そいつらに本当に困ったら俺に言いな……俺が印の主を消してやるよぉ?」
そう言って首をかしげるクロックに驚きつつも
「消すとは物騒な……。だいたいアンタ情報屋でしょ……」
「ヒヒッ…俺だってやるときゃやるさ、普段は自分でやらねぇ―が、こう見えて俺は結構強いぜぇー?」
そう言われて目の前のクロックの目を見据える。
「なんか…すんごいスプラッタな殺し方しそうだわ…」
うわぁ…想像できるわ…。と思っているとクロックが突然仰け反って笑い出す
「ヒャヒャヒャヒャ!やっぱりな!ヒャヒャヒャ!ルイゼは俺を飽きさせないなぁー!お気に入りの人間だぁー」
「言い方…それで、クロックの種族はなんなのさ?」
「ヒャヒャ、そいつはあとで教えてやらぁー」
「後でっていつさ!ケチめ!」
「ヒャヒャヒャー!はぁー面白かったぁ、俺はそろそろ帰る。
用事を思い出したからなぁー」
急に熱が冷めたように冷静に戻るクロックの温度差にあきれつつも、それもいつもの事なので「はいはい」と気のない返事で返せば、ヒタヒタと部屋を出ていくクロックを見送るべく自分も玄関へと向かう。
「あぁー忘れるところだった。
こいつをお前にやるよぉ」
そう言うと手のひらサイズの羊皮紙を私に手渡す。そこには赤色で魔法陣が描かれているが……これって血では?なんかちょっとどす黒いと言うかなんというか…絶句しながらそれを眺めていると
「印の主二人を消してほしくなったらその魔法陣にお前の血を垂らして、俺の名前を呼びなぁ?
そしたら、お前の元に来て願いを叶えてやるよぉ?
俺の本当の名はクロッケン・バハードだぁヒヒッ」
その呼び出し方を聞いて思い当たるただ一つの種族に思わず顔を上げれば、クロックの姿は消えていた。先ほどまで聞こえていなかったスラムの騒がしい雑踏が急に聞こえ始める。呆気に取られてドアを開けたまま立ち尽くし、再び羊皮紙を見つめる
「あっ…悪魔………ってこと……!?」




