王への報告 セリアナ視点
「……これで以上です。」
玉座に座るはこの世界の王。私のお義父様。私はこの美しい人の子供だ。と言っても私は養子だからそんなに年も違わないのだけど。まだ若い王は綺麗な額に少し皺を寄せて考え込む。
「そうか。ありがとうセリアナ。あの方は王宮にお連れできそうか?」
涼やかな声を凛と通らせて、お義父様は私に尋ねる。深い緑の瞳にひたと見つめられ、どきりとする。感情を押し殺し、いつもと変わらぬ声で答える。
「……いえ すぐに消えてしまわれたので、難しそうです。」
「そうか。今回は悪かったな、セリアナ。いきなり行ってこいなどと命じたりして。あの方を半端なヤツが出迎える訳にはいかなかったんだ。本当は俺がいければよかったんだが……けがはしていないか?」
「はい。しておりません。」
「そうか。それならいいんだ。」
もう戻ってもいいぞ。そう優しく微笑まれて、私は顔を俯けて王の間から退出する。私と入れ違いに何人かのお義父様の側仕えが礼をして中に入っていく。すぐに私の護衛と侍女が後ろについてきた。
お義父様は私の報告の時はいつも人払いをして、二人で話してくれる。最初なぜか聞いたとき、父親のはずなのにいつも一緒に居れないからな。と笑いかけてくれた。夜ご飯も、ひとりは退屈だろうと3日にいっぺんくらいは仕事を終わらせて一緒に食べてくれる。セリアナが王女になったのは俺のせいだから、がお義父様の口癖だ。
「姫様。つきましたよ。」
「ありがとうべリア。これが終わったら今日は終わりかしら。」
「はい。姫様の好きなクッキーと紅茶をご用意して待っております。」
侍女のべリアは、頑張ってくださいませとにっこりして出て行った。護衛の……今日は誰だったかしら。カイルとケインしか覚えてないからほかの人だったらわからないわ。
ちらりと護衛のほうを見ると、私に気づいてパチンとウィンクをしたケインが見えた。ケインは私の勉強の邪魔にならないようにドアのすぐ横に立っている。
「姫様。今日は政治について学んでもらいます。姫様はいずれ女王様となられる身。たくさんの事を覚えて未来に備えてくださいませ。」
「わかってるわジェライド。早く始めましょう。」
教師のジェライドの授業は楽しい。政策について口論し、新たな知識を得る。有意義な時間だ。
2時間ほどして授業は終わる。
「姫様。本日はこれで終わりでございます。お疲れさまでした。」
授業が終わったら今日はもうすることはない。まっすぐに自分の部屋まで戻る。
「姫様! お茶の準備ができましたよ~」
べリアが約束通りお茶の準備をしていてくれた。
「ありがとうべリア!」
ケインに椅子を引いてもらい、座る。用が終わったケインには部屋の外に出るように言って、さあ、お茶の時間の始まりだ。
「べリアべリア! 今日ね。お義父様に、けがはないか、って心配してもらったのよ!こんなに強い娘にも気遣いを忘れないお義父様、素敵だわ!」
「おお! それはようございましたねぇ。それで今日は王の間から出てすぐからそわそわしてらしたんですね。」
にこにこしながらお茶をつぐべリア。
私は強い。魔法も剣術も体術も。
それは私もほかの人も認めている。
私は臣籍降下した王族の子だった。王族は総じて魔力が高いが、私の父親はそこまででもなかった。しかし生まれた私はこの世界で2番目の魔力量を持った悪魔だった。この悪魔の国では強いものこそ王にふさわしいということになっている。魔力量だけが強さではないが、これは大きい。1番の魔力量を持つのはもちろん私のお義父様だ。
そして私は結婚しないと宣言したお義父様の後を継ぐためにお義父様の養子になった。もう両親には会えない。お義父様はそれを申し訳なく思っているようだが、私はそれほどでもないのだ。
「はぁ…… なんでお義父様ってあんなにかっこいいんだろう。ねえべリア。なんでお義父様が結婚しないのか知ってる?」
「ほんとに姫様は王が好きですね…… 私もなぜだかは知りませんが、好きな女性が死んでしまったからだというのが一時期噂として流れましたね。」
「ふぅん。」
テーブルにこてんとうつぶせになる。ここには今までずっと仕えてくれているべリアしかいない。たまにはお姫様をちょっぴり緩めないとやってられない。
好きな人が死んじゃった、かぁ。そうだとしたらほんとにその人の事好きだったんだなぁ。だってその人以外は見れないってことでしょ?
私の中で少し、黒い感情が首をもたげた。
いいな、その女の人。ずるい。
私がもやもやしてるとべリアがため息を一つついて話し始めた。
「姫様。一応言っておきますがこの前ダーバン伯爵とリオラント侯爵のご子息からの求婚が来ていましたよ。王は姫様の好きな人と結婚させると言っているので大丈夫ですが……そろそろ婚約したほうがよろしいですよ? 王が俺のせいかもしれないと少し悲しんでおられました。」
「お義父様が!? ……でもお義父様のお願いでもそれだけはなかなか聞けないわ。もういっそお義父様が結婚してほしい人と結婚させてもらおうかしら。」
私がつぶやくとべリアが苦笑する。
「姫様。それでは王が悲しみますよ。せめて幸せな結婚をして欲しいと言っていましたから。平民でも構わないそうです。セリアナを愛してくれるなら、どうにかして俺の可愛いセリアナと釣り合いの取れる地位にして見せると息巻いておられました。」
俺の、可愛い、セリアナだって!? それは聞き捨てならない!
私はべリアをガクガクと揺さぶる。きっと私の目は今マジだろう。
「べリア!! なんでそれを早く言わなかったの!? 俺の可愛いセリアナ!? そんなことお義父様が言ってたなんて初耳よ!? あああ! なんてかっこいいの? もう親子でも充分だわ!」
なんてかっこいいお義父様かしら! 思わず叫んじゃったじゃない!
「ひひひめさまあああ。わああたしが、悪かった、ですぅううう。揺さぶるのおおお、やめて、くださいいい。」
べリアの目がぐるぐるしている。あら、やりすぎたわと手を離すとべリアは机に手をついてはあはあと息を整えた。若干涙目になっている。
「姫様の、王への想いを、なめて、た。」
べリアは反省しているようなので私は紅茶の最後の一口を飲む。今日はおいしいアールグレイだった。
氷華です
初のセリアナ様視点 迷走しました




