キュイとの夕食!
「……じゃあなんだ。お前、普通に寝ただけなのか?」
「うん。いつも、魔力に気を使って寝る。でもヒト型だったから、ちょっと失敗した。」
チーズを切り分けながらキュイが言う。チェダーチーズが気に入ったと見えて、さっきからチーズを切ってはパンに乗せて食べている。
「でもガティスターなんでしょ? あ、様とか付けたほうがいい……ですか?」
僕の言葉を聞いたキュイがぶんぶんと首を振る。右手に持っているパンにのったチーズが飛んでいきそうな勢いだ。
「おれ、そういうの、きらいで。それでディザと喧嘩して、ここまできたのに。ここで敬語は、やだ。」
そういいつつ、パンを齧って満足げな表情だ。カイルがキュイのチーズを取り上げる。
「おい、お前食いすぎだろ。俺の分がなくなるじゃねぇか。」
そういってカイルは残り半分くらいあったチーズを丸ごと齧り始めた。右手にチーズ、左手にパン、取り皿の上にはハムという贅沢な布陣だ。
え ちょっとズルくない? 僕もチーズ食べたかったんだけど。
「ちょっとカイル! 僕の分は?」
「は? あると思うか?」
馬鹿にしたように鼻で笑いながらカイルが言う。どや顔のままチーズを齧り、むせた。
「いまの、うち。」
カイルがゲホゲホせき込んでいるうちに、キュイがするりとカイルの手からチーズを抜き取る。ちょっと考えてからカイルの齧りあとをナイフで丁寧に切り落とし、残りをスライスし始めた。
「はい、月夜。チーズ。」
スライスしたチーズを切っていたナイフでぶっさして、僕のほうにむけるキュイ。
なかなかに切れ味のいいナイフが、チーズを貫いてこちら側に少し見えている。ち
危ないんだけど。……まあ手で取ればいいか。
顔の15センチくらい前にあるチーズに向かって手を伸ばす。
「ありがと……ってちょっと。ほんとに危ないから。」
手でそれをつまみ取ろうとした僕を躱して、キュイは僕の口にチーズを突っ込もうとする。ナイフの先っちょはもう僕の口の目の前。少しでも近づいたら口を切りそうだ。
「月夜。食べないの?」
はりねずみの時と同じ、キラキラした目で僕にチーズの刺さったナイフを向けるキュイ。水を飲んで落ち着いたカイルがからかう。
「月夜! ほら、キュイがくれてるんだから素直に食えよ。……かぐやの前に男にあーんされるとか……ふはっ。意味わかんねぇ」
最後のほうはもうカイルも爆笑寸前だ。そっぽを向いて、肩を震わせている。
笑うんじゃねぇよ。カイル。またむせても知らないからな。
「普通に手に乗せてよ。ナイフ危ないから。」
キョトンとしたキュイが、ああそっかと頷く。
よし、わかってくれたか。じゃあ手に……
「じゃあこれならいいね。」
そういって魔法でチーズを僕の口まで持ってきた。黒い魔力が少しだけ出てきて、チーズを浮かせている。
あの、どうしても食べさせたいんですか? これ摘まんだら怒る?
もうカイルは隣の椅子をたたいて大爆笑している。
しょうがないから口を開けると、ちょっぴりの苦い魔力と一緒に美味しいチーズが口の中に転がり込んできた。
「おいしい?」
キュイが聞く。
そりゃあ、美味しいでしょうよ。僕が買ってきたチーズなんだから。
パンを齧りつつ頷くと、キュイがとてもうれしそうに笑った。
それを見てまたカイルが噴き出す。
頭に来た僕はフッと息をはいて、なれない魔法でスープを宙に浮かせた。細い縄のように変形させ、カイルの空いた口に思いっきり流し込む。
「つき、、、ごふっ がっ ふ…ゴホゴホゴホ!」
カイルが口の端からスープをたらしながら苦しそうにせき込む。
あ、思ったよりかわいそうな感じになっちゃった。
半分くらいこぼしていたので、今度はフッとナフキンを口元にもっていき、拭く。
魔力の操縦が難しくてたまに鼻を思いっきり潰してしまった。
これ毎日やってたら魔法上手くなるかなぁ。
余計なことを考えたらさらに操縦に失敗して、カイルの頭をスープで濡れたナフキンでくしゃくしゃにかき回してしまった。
「あ、月夜。へたくそ。」
ずずずとスープを飲みながらキュイがつぶやく。
ナフキンをごみ箱に捨てると、咳がおさまったカイルがぎろりとこちらを向いた。目の中でぐるぐると魔力が渦巻いている。
……ちょっと、やりすぎた。
カイルが息を吹きかけようとした瞬間、キュイの魔力が僕とカイルの体に絡みつき、動けなくなる。
カイルは口を尖らせたまま固まっている。
「喧嘩は、だめだよ。家が、壊れるし。」
そういって綺麗に食べ終わったお皿の前で、最後の一杯とばかりにキュイは炭酸をごくごくと飲み干した。
いや、もとはと言えばキュイのせいだからね?
氷華です
次はセリアナ様…の予定
メリークリスマス!




