キュイとの夕食
「あー……キュイ?」
「なに?」
「おお…… まじか」
僕の横にはヒト型になったキュイ。そしてキュイの目の前にはカイル。でかい男三人で食卓をかこっている。
誰も何もしゃべらない。
「あの、カイル? これからもキュイを飼ってもいい? たまにヒトの姿になるかもしれないけど。」
お伺いを立ててみると、カイルがすごく嫌そうな顔で振り返った。
「飼うっていう表現やめろ。でもまぁ、これまでも一緒にいたし、大丈夫だろ。」
「ほんと? やった。よかったね、キュイ。」
「うん……。よろしく。カイル。」
キュイがふわっと笑う。眠そうな細い目がもっと細くなった。カイルがにやっと笑って、キュイの肩をばんばん叩く。ふらふらしながらもキュイは嬉しそうだ。
よかったよかった。
「よし、飯食べようぜ」
「「はーい」」
今日のご飯はステーキとミネストローネとパンだ。キュイが好きそうな野菜と、カイルの好きな肉を出してみた。キュイがおいしそうにパンを食べている。口いっぱいに頬張って幸せそうだ。
「なあ、キュイ。お前魔法使えんのか?」
「使える。」
「キュイの魔法量はすごいよ。僕が倒れそうになるくらいだから。ねえカイル、そこの塩取って。」
「まじか。塩?何にかけるんだ?」
「肉」
「しょっぱくね? ほれ」
「ありがとう。」
いつものように会話をしながら食べていると、隣からフォークの音が聞こえなくなっていた。振り向いてみると、ミネストローネのお皿に手を添えたままキュイがこっくりこっくりしていた。
え、今寝るの? スースー言ってるけど、もしかしてほんとにしっかり寝ちゃってる?
「うわ、キュイ起きてよ。スープに頭突っ込むよ。」
キュイは眠ったままだ。
話しかけても起きないので揺さぶってやろうとするが、パンの置き場所がない。わたわたとしていると肉を飲み込んだカイルがキュイを思いっきり揺らした。
「起きろ! 寝んじゃねぇよ!」
頭がガクガクしているのにキュイは一向に起きない。何か、おかしい。
もうどうでもよくなってパンを机の上に置くと、軽く頬を叩く。起きない。
「どうなってんだこいつ。ベッドに運ぶか?」
「うん。僕のベッドに寝かせといてよ。僕今日はソファで寝る。」
「おう。」
僕がキュイを支えている間にカイルが机のこっち側にまわってキュイを担ぐ。僕は先回りしてドアを開けておいた。
カイルがぽいっとベッドにキュイを放り込む。キュイの大きいからだがベッドにドサンと落ちる。結構な衝撃だったはずなのに、起きない。
「……やばくねぇか、こいつ。」
カイルがちょっと気味が悪いものを見るような目で、放り投げられ着地したその体勢のまま動かないキュイを眺める。
まあこんだけ起きなかったら、こんな目もしたくなるだろう。僕もちょっと怖くなってきた。
「うん。なんか、うーん。なんていえばいいんだろう、どことなく不安になる感じがするよね。」
顔を見る限りでは普通に寝ているようにしか見えないが、漏れ出ている魔力が背筋ざわざわと泡立たせる。
黒くて、何も理由なんてないのに絶望しそうになるような、そんな魔力だ。
「ちょっと僕悪寒がするんだけど。」
ずっとキュイを見ていたら本格的に鳥肌が立ってきた。体中の毛が逆立っている。
「俺も、ちょっとぞわぞわしてきた。月夜。ほんとにこれ、家においといて大丈夫か?」
いつも強気なカイルも、今日はちょっと頼りない顔になっている。
「いや、でもこのまま放りだすわけにはいかないでしょ?」
本音を言えば、このままどこかに捨ててきてしまいたい要求に駆られている。だけどキュイをほおりだしてしまったら、あんな寂しそうに一緒にいていいか聞いてきたキュイに悪い。独りぼっちは誰でも寂しいだろう。
カイルは相変わらず頼りない、不安そうな顔をしている。
「そう、か? 俺は捨ててきてもいい気が…… ああ、やめよう。なんか頭おかしくなってる。とりあえずこの部屋を出よう。」
「うん。」
そろりそろりと部屋を出て、ドアをぴっちり閉める。食べかけの夕食がのったダイニングテーブルまで戻ると、どっと疲れが出てきた。思わずどさんと椅子に座り込む。僕よりはましだったけど、カイルも似たような感じになっていた。
「つか、れた……」
椅子の背もたれに思いっきり寄りかかる。少し息も上がっているし、もう椅子から一歩も動きたくないくらいには疲れていた。
「俺も…… こんなに疲れたの初めてだ。精神ががりがり削られてった。」
二人で大きなため息をつき、キュイが起きるまでできることもないので途中かけだった夕食を再開する。さっきよりもお腹が空いている。これじゃあパンが足りないかも。
フランスパンがあと一切れだったので残りを取りに行こうとキッチンに向かう。戸棚からパンを探す。
あと黒いパンしかないなぁ。明日買いに行くつもりだったからちょっとしかないし。まあしょうがないか。
黒いパンを出して、切り分けようとナイフを出したとき
「うぁ!? おい月夜! こっち来い! なんか変なのが…」
慌ててナイフを置いて駆けつけると、カイルの目の前に黒い影。もわもわと宙に浮いて、伸びたり縮んだりを繰り返している。
そしてここからも、キュイの程ではないが、怪しい魔力。
「え…… なにこれ。カイルやっつけれないの?」
「いや無理だろ。 ……一応燃やしてみるか?」
そういってカイルが恐る恐る赤い魔法陣を黒い靄の下に展開させる。
黒い靄はそこから動かない。
ちゃんと靄の下に魔法陣があるのを確認して、カイルが魔力解放の合図の短い吐息をフッとはく。ボワッ
ちょうど靄を包めるくらいの大きい炎が噴き出る。
5秒くらいたっても黒い靄は赤々と燃える炎の中で不気味に揺らめいている。
「……俺、今魔力あんまりないからもうやめるぞ?」
「あ、ごめん。そうだね。無理そうだし。」
カイルがチッチッと舌を鳴らすと、魔法陣が消えて、炎も消えた。
心なしか靄は大きくなったように見える。
「どうしよう、か。」
「どうすっかなぁ。」
完全にお手上げ状態だ。
「もう普通にご飯食べる? 黒いパン切ってくるよ。」
「おう。」
しょうがないのでリビングの違和感丸出しの靄は置いといて、食事を再開する。今日のご飯はよく中断されるなぁ。
ちょっと酸っぱい黒いパンを齧っていると、靄のほうから小さくなにか音が聞こえた。
振り返る。さっきと同じ靄しかない。
「ねえカイル。今なんか言った?」
「俺もそれ、月夜に聞こうと思ってた。」
「……じゃあ誰?」
「さあな。」
『さあ。誰だろうね。』
氷華です
遅くなりました…




