登校初日
「……お姉ちゃん?あっ、起きたの!」
朝、目を覚ますとアクアちゃんが私に馬乗りになっていた。そして、アクアちゃんは私が起きたのを見ると部屋から出て行った。たぶん、フィオラさんのところにでも行くのだろう。
まだ6時なのにも関わらず外は明るくて、ぽかぽかと照らしていた。
ベッドから起き上がると、しわができないように布団を綺麗にすると、その上におととい新調した真新しい制服を取り出した。
本当は昨日、学校に行くとなっていたのだが、フィオラさんの旦那さんが私の体調を気遣ってくれて一日だけ休息をとることになったのだった。
慎重に制服を紙袋から取り出し、私は着替え始めた。鏡を見ると新しい制服はまだ私の体になじんでいなくて、浮いて見えた。そして、昨日アクアちゃんに教わったリボンの付け方を思い出しながらつけてみた。
うっ、リボンが私の首に食い込んどる。そういえば、これ調節せなあかんかったんやっけ……だからか。
リボンをつけ終わると、新しい学校鞄にフィオラさんに買ってもらった最低限の筆記用具を入れ、部屋を出た。
「ピー!」
あっ、カピ……流石にもってはいけん。ごめん。
「今日は学校っていうもんに行ってくるからお留守番やで。ごめんな」
カピはわからなかったのか、私と部屋をでて、リビングへ駆けて行った。
「カピ?」
「……もぐもぐ」
私が駆けて行ったカピを追いかけて行ったら、カピは大人しくフィオラさんにもらったご飯を食べていた。そして、まだカピにご飯をあげていなかったことに今気が付いた。
カピ、ほんまにごめん。私、あほな飼い主やわ。
「おはようございます、結衣さん」
後ろを振り向くと私と同じ制服姿のコハクさんが立っていた。コハクさんの制服の色は紺青でとても似合っていた。ただいつもと違ったのは寝癖がいつもに増して激しかったことだった。
「おはようございます、今日はよろしくお願いします」
学校まで案内してくれることになっていた私はコハクさんに頭を下げた。コハクさんはそんな頭を下げられるほどではないですよと言って朝ごはんをたべるため、食卓に着いた。
私は台所に立っているフィオラさんの方に朝ごはんの手伝いをしようと思った。
「あら、結衣ちゃん手伝ってくれるの?じゃああそこに置いてあるパンを持ってきてくれるかな」
「はい、わかりました」
フィオラさんが指をさしたパンを食卓の上に持っていくと、座っていたコハクさんと目が合った。
始めて上からコハクさんを見たかもしれん。まつ毛、意外に長い。女の子みたいや。でもやっぱりかっこええな。
「結衣さん、どうかしましたか?」
じろじろと見ていた私はコハクさんに指摘されてとても恥ずかしくなった。
「す、すみません。あまりにかっこよかったもので」
「……あ、ありがとうございます」
うわぁ……何やっとるん私。正直に言いすぎた。もっと恥ずかしいこと言ったような気がする。
それはそうとコハクさん、若干顔が赤くなっとるけど部屋、暑いんかな。
「コハクさん部屋、暑いですか?」
「えっ……いや大丈夫です。結衣さん、食べたら行きましょうか」
コハクさんは私にそういうと、食べ終わった食器を台所の方に持って行った。その横顔は少しほっとしたようながっかりしたような表情をしていた。
私、なんかしたかな。
そんなことを想いながら私は朝ごはんのパンとクリームシチュー的なスープを食べた。そのスープは私が今まで食べてきたものの中で一番おいしいものだった。そこでも私がいた世界との違いを感じた。こっちの世界では新鮮な食べ物がみんな食べれて、餓死する人が一人もいないということだった。
朝ごはんを食べ終え、食器をヴァシェレガァルに入れると私は玄関に向かった。そこには学校指定の靴を履いて壁にもたれかかって待っているコハクさんとアクアちゃんがいた。
「やっと来たぁ!」
「待たせてしまって、すみません」
「いえいえ、大丈夫です。では、行きましょうか。あっ、結衣さん……ハンクも一緒なのですが大丈夫ですか?」
「全然いいですよ」
「そうですか……」
「お兄ちゃん……」
ハンク君か、別にいいけどなんできいたんかな?なんか都合が悪いことでもあるんかな?
「行ってきます!」
「フィオラさん、行ってきます」
「学校、行ってくるの!!」
私とコハクさんとアクアちゃんは大きな声で台所にいるフィオラさんに聞こえるように言って、外に出た。
外の風景、まだ慣れへんなぁ。いつになったら慣れるんやろうか?
「おう、コハク!」
「あぁ……ハンク」
「あっ、結衣さんおはようございます!」
「おはようございます、ハンク君」
ハンク君は元気よく玄関から出てきた私たちに挨拶をしてくれた。コハクさんはなんだか落ち込んでいる様子で一体なんでこうなったのかが私にはわからなかった。そして、ハンク君は耳を真っ赤にして立ち尽くしていた。
「ハンク!!」
ばしっ!
「痛っ!」
アクアちゃんは棒立ちのハンク君に名前を大声で言って、走っていったかと思うと頭に思いっきりチョップをしていた。
「なに、見惚れてぼっと突っ立っているの!お姉ちゃんはアクアのなの!」
ハンク君、大丈夫かな。だいぶまともに食らっとったよね。
「ハンク君、大丈夫ですか?」
私はそう頭を抱えて若干俯いているハンク君に覗き込むようにして聞いた。
ハンク君はたちまち顔を真っ赤に染め上げると、私から一瞬で距離を置いた。頭からは湯気が出てきそうなほどそこの空間だけ暑かった。
ほんまに大丈夫なんかな。頭から湯気が出てるようにも見れるし……アクアちゃん、恐るべし。
「結衣さん、あいつのことはほっといて、先急ぎましょう。初日から遅刻は嫌でしょうし」
「でも、ハンク君は?」
「あいつは、大丈夫ですよ。遅刻の常習犯ですから」
「それはウソだぁ!!」
「遅刻するのはほんとなの」
アクアちゃんはコハクさんと私の間に入ると、にこにこと嬉しそうにハンク君をけなした。ハンク君は必死に弁解していたが、やはりそこは2対1なので勝ち目はなく、学校に着いた頃にはもう元気がなかった。
あれだけ言われとったらな……そりゃ元気もなくなるわ。
「とりあえず、結衣さんは先生のところに行きましょうか」
「ぼ、俺も一緒に……」
「ダメなの!ハンクはアクアと一緒に教室に行くの!」
ハンク君は私と一緒について行きたがっていたけど、アクアちゃんによって教室の方へと引っ張られて行った。
「では、行きましょうか。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
あっ、いつの間にか肩があがっとった……気づかんかった。よう見とるな。
「気が付きませんでした。ありがとうございます」
コハクさんは私に今まで見たことのない眩しい笑顔を一瞬見せると私を案内するように前の方をずんずんと歩いて行った。ずんずんとは言っても、私が歩いてついていける速さにしてくれていたみたいで、何も気にせずに後ろを歩けた。
「ここです。流石にここから、僕が入るのは無理なので、頑張って下さい。また、会いましょう」
コハクさんは私に木できた大きなドアの前まで行くとそう言って、自分のクラスへと走っていった。
時間、ギリギリだったっぽいのに迷惑かけちゃったな。
私は走り去っていくコハクさんを見送ると、木できたドアを再び見つめた。そして、よしっ!と気合を入れるとそのドアをたたいた。
「はい!どうぞ、入ってください」
「失礼します。編入性のあ、ジェムケーブ・結衣です」
麻井結衣と言おうとして、学校に登録するために名前をコハクさんの家族の名前にしたことを忘れていた。うっかりミスをしまいそうになったところを何とか持ちこたえた。名前の方は、他にもそういう人がいるみたいで、大丈夫らしい。
「結衣ちゃんね、話は聞いているわ。今日からあなたのクラスの担任のオルコット・青菜です。同じ名前の種類同士仲良くしましょうね。あっ、これが今日から使う教科書ね。学力は分からないからとりあえず普通のを選択したけど、もっと難しいのとか、簡単なのとかがよかったら気軽に言ってね」
「ありがとうございます!」
「さっそく、クラスメイトに会いに行きましょうか!」
オルコット先生は私に束になっていた教科書を手渡すと、私を外に出るように促した。そして、私はオルコット先生の後に続くように初めての教室へ足を踏み入れた。
桜梨です!
ついに学校へ結衣ちゃんが登校です。
次も結衣目線です。




