紫
ゆらゆらと、紫紺の瞳が揺れる。男…青年は闇の街を一人歩いていた。暗く、悪魔ばかりの道を鼻歌でも歌いそうなほど軽やかに、彼は歩いていく。
石畳を歩く彼のベルトにかかった大きいキーリングには鍵がたくさんかかっている。大きいの、小さいの、丸いの、四角いの…そしてしっかりとした質感の古ぼけた鍵はそのなかでもひときわ目立っていた。
肩まであるぼさぼさの髪を耳にかけると、彼の右耳にかかった耳飾りのコバルトグリーンの小さな石が煌めいた。
歩いているうちに、小さな図書館の前で彼は女の人に会う。長く黒い髪をもった、月夜を愛してやまない彼女に。彼は口元に甘い微笑を浮かべながら彼女に尋ねる。
「綺麗なお姉さん。ここはどこでしょうか」
「…誰かしら。あなた」
「俺は…そうですね。『誰』でしょう。いつも5号と呼ばれているもので。名前はないです。お姉さんは?」
「私はシルヴィ。…そう、名前がないの。じゃあリラでいいんじゃない?瞳の色が紫だし」
「ありがとうございます。シルヴィさん。では俺の事はリラとお呼びください」
「そうするわ…こうやって人と話すのは久しぶりね。いつもあの人を見つめてるから」
「想い人ですか?残念です。美しい貴女を称えようと思っていたところだったのに」
「ごめんなさいね。あいにく私は彼が大好きなの…振り向いてはもらえなさそうだけど。そう、ここがどこかだったわね。ここは闇の世界の首都よ。」
「教えてくれてありがとうごさいます。…お礼に俺が慰めて差し上げましょうか?」
「いらないわ。そういうの。彼が好きだって言ったでしょう」
「そうですか…それでは俺は失礼します。この町の事を知らなくちゃいけない。」
「そう。じゃあ、ね。リラ。あなたはきっと私に似てるわ。」
「それは光栄です…それでは」
「ええ」
彼はまた歩き出す。道中彼が悪魔に襲われることはなかった。彼は十分な魔力を持ち合わせていたから。そこんじょこらの悪魔になんて、負けないような魔力を。
アンティーク調の耳飾りのコバルトグリーンが瞬き、着信を知らせる。
「もしもし、先輩ですか?ようやく首都までたどり着きましたよ。ここで10日間ですよね。そうしたら光の世界に渡って…え。先輩が来るんですか?ああ、白の通路を通った人を戻しに…はい、はい。わかりました。見つけたら言います。あ、そういえば俺今日からリラなんで。そう呼んでください。え?漢字?紫って書けばいいんじゃないですか?…はい。それでは」
石に触れていた右手をおろし、彼はあたりを見渡した。先輩の探す人を見つけなくては。誰かに聞くのが一番だろう。
「また女の子に聞こうかな…さっきのシルヴィさんに聞いておけばよかった。」
彼が探すのは、黒い髪に灰色の目をした男。魔力が低く、悪魔ではなく煙の世界からの人間だということだった。
少し歩くと果物を扱う店が見えた。売り子をしているのは、黄色い目をした悪魔の女の子。きっと両親のお手伝いをしているのだろう。彼は聞き込みをするべく、彼女に近づいていく。
「こんにちは、お嬢さん。俺は今、人を探していてね…」
女の子の頬が赤くなる。彼の綺麗な声、綺麗な顔、優しい笑み…段々熱くなってくる自分のほっぺたを両手で隠しながら女の子は答える。
「そんな感じのお兄さんなら、この前…」
情報を聞き終わったリラは、微笑む
「ありがとう。お嬢さん。」
湯気が出そうなほど真っ赤な女の子をそのままに、リラは歩いて行った。きっと、その男はまたすぐにこの辺りに現れる。
「俺が見つけれたら、この世界渡りの修行も短くなるかな…」
彼が、一生忘れられない女の子に出会うまで、あともう少し。
氷華です
新キャラを出してしまいました。
リラ君です。どうぞよろしく
次は月夜とカイルの日常(?)編です




