黒い石
「もうさがっていいわ。カイル」
豪奢な扇子で口元を隠しながら姫は言う。この国一番の美女とうたわれる彼女はそう呼ばれるに
ふさわしい、赤く大きなルビーのような美しい瞳をこちらに向けながら言った。第一王女のセリアナ様。俺は城で彼女の護衛をしながら城の内門のリーダーをやっている。
「かしこまりました」
立ち上がり恭しく一礼。数歩下がって、もう一度礼。俺はそのまま御前を辞して、自分のもう一つの持ち場に戻った。長い廊下で思うのはシルヴィのこと。姫君も綺麗だが、シルヴィには負ける…と思うのは惚れた弱みか。
シルヴィがいなくなって二週間がたった。さすがに頭も冷えてきたが、シルヴィを思う心は変わらなかった。王城で働いているほかの女も見ているが、どうしてもシルヴィが忘れられない。そしてやはり、彼女が惚れたという男が憎かった。
最近自分の優しい心がなくなってきているような気がするのを、自分でも感じる。王族には敵が多い。その護衛をしているといやでも誰かを殺さなくてはいけなくなるが、最近は前まであったはずの相手を弔う気持ちがなくなってきた。自分でもどうかと思うが、シルヴィに振られて自暴自棄気味なんだと思う。
しかしここは悪魔の国だ。残虐さこそ悪魔の最大の武器。日に日に殺し方が残酷になっていく俺は姫様に褒められ、今度護衛隊長にしてあげるといわれた。姫様にそんな権限はないが、王様に口利きをしてくれるならかなりの確率で昇進できるだろう。そうしたらあの儀式への出席も叶うかもしれない。
そんなことを考えていると、部下のいる警護室が見えてきた。部下はここで城の内門の中に入る者のチェックをしている。ここの扉は個人魔力判定の石がついているので、中に入ったことのある人とない人の魔力を見分けることができる。だから警護場所としては比較的楽な場所だ。部下は眠たそうな目をこすりこすり、人によって色の変わる石を眺めていた。
俺はそいつに時間だから次のものに変わるよう言い、不審者はいなかったという報告を聞くと、警護室に備え付けられている自分のロッカーに警護帽をしまった。帰る支度をして扉を通る。
「カイルさん、いつもこんな色でしたっけ?」
後ろから次の当番のつぶやきが聞こえる。石を見た。今まで通ると赤く燃えていた石が、今は黒く淀んでいる。
「魔力の色が変わった…」
こんなことはめったにないことだった。不審者を告げるブザーは鳴らなかったのでそのまま帰ったが、気になる。家に帰り、月夜が置いといてくれたハンバーグを食べながら本を開く。題名は『魔力判定石について』。目次で色についてのページを探す。そこに書いてあった言葉に、俺はさっきの色が見間違いであってほしいと強く願った。
―魔力の色が変わることはよくあることだ。魔力の色は持ち主の性格に由来する。性格が明るくなれば魔力の色も明るくなる。…… そして黒い魔力は、そのものが暗い心にとらわれ、人を愛することができなくなったことを意味する―
じゃあ、俺のこの想いは…
今までのシルヴィを愛した自分が否定され、悲しくなるはずだった。だが心は湖のように穏やかなままで、目からは涙の一粒だって流れてはくれなかった。
氷華です。
久しぶりのカイルさん視点
セリアナ様は白いほっぺに赤い目で色っぽい感じ、と私の心の中では決まってますw




