367:眠る者と目覚める者
ここまでがエンディングとなります。
次回は真エンディングを予定しておりますので、後数話ですがお付き合い頂けると嬉しいです。
次回かその次で最終話をになると思います。
年内の確約は今回まで! 後は状況次第です! では、お出掛けしてきます。
『聖王国』の異教徒が捧げた祈りが、男神とのパイプを繋ぐ。
アキラの流した魔力が、男神の意識を覚醒へと導く。
メルナールの祈りの言葉が、そのチャンネルを閉じた。
しかし確実に男神の存在は、この世界に大きな爪痕を残すことになった。
アキラが救った12人は、いわゆる意味のない代償行為になるはずだった。
ところが失われた筈の部位が、瑞穂を形成する血肉へと変化する。
ミーシャの心臓を始めとして、『耳・心・足・肌・舌・声・脳・腕・血液・意思・頭』と、それは人を形成するのに必要な部位でもあった。全てを取り戻す事など出来はしない。それでも早いうちに、心臓と心を取り戻した事が大きかった。
最後にアキラが失った魔法は、『召喚魔法』だった。
眠りについたアキラに残されているのは、『水属性魔法』だ。
それは現実世界に戻ってきても変化はなかった。
「うん、今日も元気だね」
「アキラ兄さまは大丈夫なの?」
「ロロンくん。アキラくんは、ちょっと頑張り過ぎたんだよ。だから少しくらいの寝坊は、許してあげてくれないかな?」
「分かりました! リュージさん」
「そうですよ、ロロン坊ちゃま。だから真面目に、勉学に励んでください」
口を尖らせたロロンは、今日も明るく学園に通う。
あれからすぐにローランドを含めた報告会が行われ、それから防衛戦もすぐに収束を迎えた。
無人となったノルド男爵領は、いったん王家直轄領になるだろう。
戻ってきたメンバーは、大きな役割を担っている。だからアキラの家に行く機会は、少なくならざるを得なかった。
ザクスとソフィアが一緒に来た際は、アキラは『眠っているだけ』という診断がされた。
かつてソフィアが患った病に似ていて、いつ目覚めるかは分からないけど、ただちに命に影響を与えるものではないらしい。
「アキラくん……。瑞穂ちゃんとは会えたのかな?」
静かに眠りについているアキラが答えることはない。
時が来たら……。その時は、そう遠くない気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『召喚魔法』――普通の世界なら、契約をした魔物・神獣・聖獣・精霊などを現世に顕現し、使役する魔法のはずだ。
それがこの世界では、地球から持ち込まれる『物』を引き寄せるだけの魔法になった。
瑞穂は『魂の時計』と共にあった。それはアキラと共にあったと言っても過言ではない。
アキラが最後に願った想いに、男神と女神は応える形となった。
そして地球の神と二神は、正式に世界を分岐させることに成功した。
その結果、地球の晃は多くの力を失い、ただの一般人として歩むことになった。
では分岐後の、この世界のアキラは……。
ゴトッ……。とある空間で物が落ちる音がした。
「いたっ……」
周囲を見回してみると、豪華な応接セットが見える。
さっきまでいたホストクラブを思わせる……、ホストクラブ?
混濁する意識を整え、まずは状況を整理してみる。
……服装は何故か私服だ。これは最後に、晃に会った時の格好だったかな?
「晃?」
大きなソファーに座って考え込む。
私はなんで、晃と離れてまで洋服に拘っていたのだろうか?
きっと隣にいられる何かが欲しかった。それが私の存在価値になると思っていたから。
ここは何処だろう? 囚われているという感じではないから、誰かが来るか少し待ってみようと思った。
ソファーで丸くなって眠りにつく。時間が経過しても、なかなか部屋に変化は起きなかった。
徐々にお腹が空いてくる。仕方がないので、部屋を散策することにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その部屋は、この屋敷の中で『開かずの間』だった。
アキラが失ったはずの魔法は、その効果を持続させているものもあった。
『さくら院』と『ラース村』のルート、この屋敷と『アーノルド領の実家』のルート。
それはいつ解消されるかは分からない。そして『ルーム』の魔法が続く、この部屋も閉ざされているはずだった。
ドアに架かっている『CLOSE』という文字が、カタカタカタと揺れて『OPEN』に変わる。
何故かギィィィィと音がして、一人の女性がそーっと顔を覗かせてこっそり出てきた。
「ごめんくださーい」
まるで相手に聞かせる音量ではない声で、女性はそーっとドアを全開まであけた。
印象は『今の部屋とは違いすぎる洋館』かな?
知らない間に連れて来られたこの場所は、まるで夢の中にいるようだった。
夢の中なら、好きな人に会いたい。来年のクリスマスは、晃に目一杯甘えようとずっと考えていた。
「誰かいますかー?」
正面に階段が見えて、右を見ると外に出られそうな扉があった。
晃が見ていた話でダンジョンを探索するのに、『○手の法則』というものがあった気がする。
右側に出ると外に出てしまいそうなので、『左手の法則』で行こうと決めた。
人の気配がない屋敷。それは違和感しかない、珍しい場所だった。
「幽霊屋敷とかじゃないですよねー……」
誰も答えてくれないのは理解しつつ、隣の部屋へ続くドアの取っ手を握る。
普通に開ければ、きっと音はしないだろう。何故こういう時は音がなるのだろう?
でも動かなければ、ここが何処かは分からない。
夢ならば、多少大胆な行動をしても大丈夫……だよね?
ドアを開いた先には、誰かが眠っていた。
それは見なくても分かる、とても懐かしい相手だった。
「なーんだ。やっぱり、いるじゃない」
そうは言っても、穏やかに眠っている晃を起こすのは忍びない。
瑞穂はベッドの淵を借り、両腕を枕に晃が目覚めるまで待つことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここはGR農場の食堂。そこに関係者とシードルが集まっていた。
「メルナール、大丈夫なの?」
「えぇ、マザー。貴女ほどではないわ」
「それで、男神さまは……」
「きっとアキラくんみたいに、眠りについているでしょうね。そしてアキラくんが目覚めた時……」
「それは予言なの?」
「いいえ。もう、その力はないわ」
マザーとメルナールの言葉に、リュージとザクスはほっと胸をなで下ろす。
何がどこまでの被害かは、正直確認が出来ていない。
それにしても、ロメロ・レイルド・ミーシャは良くやってくれた。
男神の痕跡は残っていなく、後日噴水を確かめた際には、きちんと女神さま像が出たらしい。
ガレリアとエントを中心に、噴水の修復活動は進んでいる。
もちろん協会関係者も関わっており、王家を中心に噴水周りと各所で炊き出しが行われていた。
「これは個人的感想なのですが……」
徐にシードルは二本の糸を取り出した。一本は赤い糸、一本は青い糸。
アンジェラが赤い糸を取ってピンと伸ばす、もう一本はその夫であるザクスがピンと広げた。
もう一組はシードルが持っている。そして説明を始めた。
「普通、男女が出会って結ばれると、こう互い違いになって太い糸になります」
「まあ、素敵な考えね」
「マザー。ここは茶化さないでください」
「分かったわ、続けて」
「では、お二人で糸を重ねてください」
「こうか?」
最初、アンジェラがピンと縦方向に伸ばし、ザクスが横方向に広げてお互いの糸を交わらせた。
これではすぐに離れることになり、「二人は結ばれなかった」と言うと、周りからは笑いが巻き起こった。
今度はアンジェラが広げた糸に、ザクスが内側から糸を潜らせて引っ張ることにした。
シードルはそのままの姿勢で静止させ、二人に腕の位置を指示して交わっている部分をハサミで断ち切った。
「なるほど」
「これでは二人は、離れられないわね」
「ええ。何てったって、二つが結ばれているもの」
切ったはずのハサミには細工がしてあった。
不恰好ながら、赤い糸と青い糸は半分の長さになってしまったが、それは一本の糸として繋がった。
事情を聞いたシードルが導き出した答えは、だいたい正解として認められた。
二人は切っても切り離せない間柄になった。だからアキラはミズホに会えたんだと思う。
「その方が、ミズホさんなんですね……」
寂し気なミーシャの声に、マザーとメルナールは交互にミーシャを抱きしめる。
それは失恋の再確認でもあり、アキラが幸せになったという嬉しい知らせでもあった。
「アキラお兄さまは、何時ごろ目覚めるのでしょうか?」
「俺には伝えたいことがあるんだ!」
「そうだね。今日かもしれないし、十年後かもしれない」
「リュージさんは、起きて欲しくないんですか?」
シードルの言葉に、リュージはそっと首を横に振った。
確かにアキラが戻ってくれば、それは幸せな結末を迎えたんだと確認することが出来る。
それと同時に今後起こりうる様々な災厄について、思い知らされる可能性も予感していた。
複雑な気持ちでいるリュージは、まずアキラの帰りを待ちたいと心に言い聞かせている。
「きっと帰って来るよ。お義兄さんの結婚式も控えているんだから」
リュージの言葉に、一同は大きく頷いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アキラの役割とは、神の一柱を甦らせることだった。
その存在は何も、マイナス面だけではない。
ただ今までのような、豊かさだけを追い求めるような時代ではなくなることになる。
アキラはそのご褒美として、瑞穂を取り戻せる権利を得たのだ。
それは細い細い運を、更に小さな針の穴に通すような作業だった。
正確に正しい道を歩み、正確に間違わなければならない。
たった一人では成し遂げられなかった奇跡が、今アキラに成果として訪れていた。
今はただ眠っているだけ……。いずれ起こされる時が来るのだから。




