366:戦いの果てに
次回はエンディングを予定しております。
ここまでお付き合い出来たことを、嬉しく感じております。
追記:出来れば感想を……。最後で構いませんので(笑)
エンディングの後は、後日談を1~2話くらい書く予定です。
それがなくなったら、本当の終わりです。
『聖王都』前の変異は一段落した。
結果だけ見れば、『聖王国』兵の半壊。各所に兵と食人鬼の骸が転がっていた。
第三者による襲撃とも言えるこの事態に、『聖王国』側だけが被害を被っていた。
嬉々として最前線に向かうフレア、その後をリュージが追った。
「おい、おっさん。何か言いたい事があるんじゃないか?」
「し、知らん。コロナという女性など知らん!」
「あの、フレアさん。その辺で……」
「あ゛あん? 誰だよ、お前!」
目当ての男を確保したフレアは、襟首を掴んで物理的に吊るし上げている。
そんなフレアを止めたのはペインだった。隣にはベルグとラフィーナが控えていて、出来れば手を止めて欲しいようだった。
ゆっくり追いついたリュージが、背後からフレアの頭に向かってチョップをお見舞いする。
ギロリと振り返ったフレアはニヤリと笑っていても、腸が煮えくりかえっているようだ。
「とりあえず、その人を下ろそうよ」
「リュージ、邪魔をするのか?」
「ここは他国。そして、フレアは冒険者」
「リュージさん。今更捕まえたりは出来ませんよ」
ペインが振り返った先には、国のトップであるジェイルディックが捕縛されていた。
この場の責任者はペインが代行するようで、「民を見捨てた国は、国ではありません」と深々と頭を下げてきた。
「自分は国の代表ではないですよ」
「そうですね……。ただここで、マザーを呼びつけるようなことは出来ません」
「少しは考えてんだな。で、このおっさん貰っても良いか?」
「現在は残務処理で忙しいので、私闘まで国は関与しません」
「そんな、ペインさま!」
「もし隠していることがあるなら、早めに話すことをお勧めします」
元留学生達三人は、深々と頭を下げて処理を進めていく。
最後まで口を割らなかった男については、後でペインが責任を持って追求することでフレアは納得した。
王国から来た全員は、一度リュージが作った温室に戻り帰り方を検討する。
そこで注目されたのは、やはりエルフの長老だった。
リュージの問いかけに、ゲートの魔法が使えることがあっさり分かった。
ただゲートを使うのは最初で最後にしたいようで、この魔法を使えることは秘密にするらしい。
アキラはローランドの義理の親戚筋に当たるが、エルフの長老が使えることは問題になるからだ。
マザーが責任を持って王家に約束させると言うと、全員がGR農場に帰還し、そのすぐ後に温室が消滅した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ロメロの腕に支えられているメルナールが、ある一点を指差した。
それは真っ黒い球体。それが縦方面に伸びると、ムニーっと人が鋳型に嵌ったように、ある人物を模して出てきた。
「アキラ……くん?」
「レイルドぉ!」
「はい、ロメロさま」
「私は大丈夫です。ミーシャさんを守ってあげて」
レイルドに続いてロメロは立ち上がり、肩を並べて遅れて剣を抜き放つ。
訓練の時は二人が前線に出るだけで、作戦は失敗だと言われていた。
しかし残るのはメルナールとミーシャしかいない。ここで立ち上がらなければ、男ではなかった。
「おもしれぇ。アキラ、一対一で勝負だ!」
「ロメロさま、お先に失礼します」
「なっ、待てよ!」
レイルドはまだ距離が遠い真っ黒なアキラに向かって、跳躍で距離を詰めて胴薙ぎに一閃する。
あまりのあっけなさに駆け抜けた後、つい背後を確認してしまった。
チャポンっと音が聞こえたと思ったら、すぐに黒アキラが振り向いてニタリと笑ったように見えた。
黒アキラは、自分の体と同色の剣を抜き放つ。それは粘度の高い、真っ黒い水で構成されているようだった。
「ミーシャ、アキラを頼んだぞ!」
「ロメロくん!」
黒アキラは、本物の劣化バージョンだった。
いつも本気を見せないアキラが、かろうじて届く位置にいると言っても良いだろう。
それがレイルドと二対一で戦えるのだ。当然、負ける訳にはいかなかった。
ただ、斬られても痛覚を感じないのはきつい。化け物なら弱点くらい準備しておくべきだと、男神を軽く睨んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王都の『謁見の間』では、粛々とノルド子爵の片付けが行われていた。それと同時に行われる戦況報告。
ノルド男爵領の領民と分かったのは、喋れる一匹の化け物の存在からだった。
思えば子爵領から男爵領への降格。領民の暮らしは改善されたのか? そもそも善政を敷いていた可能性もあった。
「どうした? ウォルフ」
「はっ! 防衛は大丈夫なのでしょうか?」
「ウォルフ。お前以外が、熱意を持っていないとでも思っているのか?」
「グレファス先輩……」
「体制が元に戻るまで、お前達は俺の護衛だ。そこを抜かれたら、俺は死ぬんだぞ」
ローランドは再び玉座に座り、肘をついて拳を頬に当てる。
ジト目で見てくる二人の近衛は、『一人でも勝てただろ?』 という目で見てくる。
そして、フッと笑みをもらした。
「戦がもたらすものは、何も悲劇ばかりではないのだな」
「「ローランドさま!」」
「安心しろ、我が国が農業王国だ。これからは復興に力を入れるぞ」
「復興ですか……?」
不思議そうにしているウォルフに、ローランドは明確に事態の深刻さを理解していた。
これから新しい時代がやってくる。それは闇がより濃くなり、民が苦境にさらされる時代だ。
だからこそ、新しい世代に期待する。それを率いていくのが、俺の使命だとローランドは感じていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王都の噴水広場前。
メルナールはミーシャの元へ歩き、そっと声を掛けていた。
「どうですか? ミーシャさん」
「メルナールさま。僅かですが心臓も動いていて、まるで深い所で眠っているようです」
「そう、良かったわ。それなら私達は、私達のやることをやるだけね」
「浄化でしょうか?」
ミーシャの問いかけに、メルナールは首を横に振る。祈りによって、神を滅することは出来ない。
アキラのレポートによれば、神にはそもそも『善悪の概念はないかもしれない』のだから。
あのレポートは、世間に公表されることはないだろう。だけど異なる神の存在をいざ目の前にすると、畏怖が勝ってしまう。
「ミーシャさんは、女神さまに祈るのです」
「……はい。分かりました」
若い頃のマザーを思わせる意志の強さ。
きっとこの娘は、協会にとって大きな重責を担わせる存在になるはずだ。
恋に生きたマザー。そして恋に破れたミーシャ。
これから先、ミーシャがどんな未来を描くのか? メルナールはそれが楽しみで仕方がなかった。
叶うならば、この目でそれを見たかった……。
ミーシャの祈りの声が、静かに流れ出す。
メルナールの祈りの言葉が、静かに流れ出す。
ミーシャの声は、次第に歌へと変化していった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ああ、女神さま 何故お姿を見せて頂けないのでしょうか?
私の涙に皆が微笑み 伸ばした手をそっと優しく包み込む
その心に触れながら その心に抱かれながら
ああ、女神さま 何故お声を聞かせて頂けないのでしょうか?
両の脚で大地を踏みしめ これからの生き方をしっかり見据える
その心に触れながら その心に抱かれながら
ああ、女神さま 何故お姿を見せて頂けないのでしょうか?
燃えるような恋の末 新たな命を喜んで希望を胸に抱く
その心に触れながら その心に抱かれながら
ああ、女神さま 何故お声を聞かせて頂けないのでしょうか?
老いたこの魂は去っていく 後に続く若き者へ託すために
その心に触れながら その心に抱かれながら
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その歌声の効果か、黒アキラの動きは明らかに鈍っていた。
ロメロもレイルドも、段々と体力勝負になっているところがある。
そこに起きたこの好機。二人はこれがトドメとばかりに、全力で黒アキラを攻略していった。
「平穏を司る男神さま!」
歌声に被せるように、祈りを捧げたのはメルナールだった。
その声はとても小さく、ミーシャにさえ聞こえないものだったはずだ。
しかし気がついたとしても、ミーシャは祈りの歌を止めなかった。
最後にメルナールの祈りの言葉と共に黒アキラは弾け飛び、不定形の液体となった物はズルズルと噴水に吸い込まれていった。
「ミーシャさん、今です!」
噴水周辺を囲むドーム内を、ミーシャの浄化の光が優しく包みだす。
その発動と威力はとても弱々しいもので、途中からロメロがミーシャの隣について優しく声を掛け、『増幅』の魔法で協力した。
すると壊れているはずの噴水が、静かに音を立て始めた。徐々に水量が大きくなり、男神像まですっぽりと隠してしまう。
この場所でやれる事はやれたので、急いでアキラを屋敷に運ぶことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここは遠い遠い地、『聖王国』のどこか。
ティーナ一行は、コロナの救出に成功していた。
「みっしょん失敗」
「ごめんなさい。最後に罠に掛かってしまって」
「コロナさんと合流出来ただけでも、成功とも言えるわ」
「ラビ。あのスーって滑る罠、楽しかった!」
ここは多分、屋敷の隠し部屋だろう。
その空間は思いのほか広かったので、野営と思えばいくらでも生活が出来る。
ただ、景観は正直良くはなかった。ゴツゴツした岩肌に先が見えない通路、そして色白でスレンダーな骸骨。
ティーナや他のメンバーの収納には、数ヶ月は困らない食料が納められていた。
通路へ向かうには、鉄格子を何とかしないといけない。
これが頑丈すぎたので、ティーナ達は救出部隊を待つ決断をした。




