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365:クリスマスの奇跡

長くなってしまいました。


活動報告・ツイッターでも予告しましたが、後4話くらいで終わります。

連日のアップは、ここで止めたいと思います。

年末進行の為、無理は出来ませんのでご了承ください。


お休みに入ったら、大掃除と買い物以外で時間を取りたいと思います。

引き続き、拙作とお付き合い願えたら嬉しく思います。では、本編どーぞ!

 12月23日、朝起きた感想は『変わった夢を見た』だった。

夢なので覚えていようと思っても忘れるし、メモを取ったとしても意味不明な内容になる思う。

感想を言うとしたら、まるでRPGのような夢だった。

顔に違和感があったので触れてみると、どうやら泣いていたようだ。


 俺の名前は木戸晃きどあきら。高校を卒業してすぐ漁師になり、先輩から色々な事を教わっていた。

高校時代は自堕落な生活をしていたけど、漁師の仕事をしていると嫌でも規則正しい生活になってしまう。

まだ日も昇ってない早朝から一日が始まり、忙しい毎日を過ごしていた。


「眠い……」


 今年のクリスマスは、もちろん仕事だった。

付き合って3年になる彼女は、短大を出た後都会に出て、「一旗上げたい」と言っていた。

別に歌手になるわけではなく、洋服のデザインの仕事に憧れていたようで、働きだして1年目になる。

彼女も忙しくしていて、今年のクリスマスの分はどこかで休みをとって、一緒に過ごそうと約束をしていた。


 年末に向けて漁も忙しくなる。先輩からは、しつこいくらいにクリスマスの予定を聞かれていた。

当日休まれるのが一番困るらしく、妻子持ちはともかく、独身者はこの時期によくドロップアウトするらしい。

彼女は仕事で忙しいと話すとニヤニヤされる。この町で瑞穂のことを知らない者は少なかった。

田舎町なのでプライベートの垣根は低く、瑞穂の頑張りはみんなを笑顔にさせていたからだ。


「あれ? 何で俺、携帯持ってるんだ?」


 簡単に朝食を作って、出掛けなければいけない時間だ。

いつの間にか画面には、先輩の番号が表示されていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『晃、どうした?』

「あ、いや……。俺、何で先輩に電話してるんでしょうか?」

『知らんがな』

「ですよねぇ……。……あの」


 別に電話が好きな訳ではない。

俺の周りはどうも『構い過ぎる人達』が多いので、どっちかというとメールや電話は苦手な方だった。


『……ハァ。いいか晃、良く聞け』

「あ、はい!」

『男にはな、勝負の日が突然やって来るんだ』

「え? 何の話ですか?」


『いいから黙って聞いとけ。迎えに行くって決めたんだろ?』

「え? あっはい。って、何を?」

『瑞穂ちゃんをだよ。違うのか?』

「いつかは迎えに行きますが……」


 受話器の向こうでは、『かーっ』と変な声が聞こえてくる。

電話を掛けた手前、こちらから切ることは出来なかった。そもそも、何で先輩に電話をしてしまったんだろう。

先輩が言うには、今日明日と仕事を頑張ったら休んで良いらしい。

ただ『風邪をひいている演技をしろ』と謎の指令を受け、現場で咳をするとニヤニヤされるというはずかしめを受けていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 12月24日の仕事終わりに、瑞穂のいる街まで辿り着いた。

クリスマスは忙しいと言っていたが、24日か25日か確認するのを忘れていた。

世間的にはイヴの方が、クリスマスっぽい風潮がある。

社会人になると、その辺は臨機応変に対応するのがスマートだ。


 頑張っている瑞穂を応援しているので、予定が合わなければビジネスホテルで一泊して帰ろうと思っている。

冬場は日が落ちるのが早い。朝型人間になっているので、急に夜型に変わるのは無理だった。

時刻は16時半を過ぎたあたり。メールを一本入れて、忙しいかどうかだけ確認した。

瑞穂の住んでいる場所は知っている。だけど急に訪ねて、翌日の仕事に障ってはいけないと思った。


「厚手の服に着替えて、正解だったな」


 ブラブラと街を歩き、繁華街の様子を眺めていた。

本当だったら先輩が、「もし寂しいクリスマスだったら、良い所に連れて行ってやる」と言ってくれていた。

それが頭にあったのか、キラキラ光りそうな看板があるところを歩いていた。

今日はクリスマスイヴだ。普通の店に入るのも大変そうなので、ジャンクな食事でお腹を満たすことにした。


 18時を過ぎても返事はなかった。

空腹は収まったし、ゲーセンで少し時間を潰していても返事はなかった。

これは本格的に忙しいと判断せざるを得ない。

先輩には『会えませんでした』と報告するとして……、ふと一軒の店が気になった。


「ふぅぅぅぅ……」


 それは繁華街の一本裏通り。半ば枯れかけた『おっさん』が、タバコの煙を吐き出していた。

その光景が、なんとも言えない……好意も害意も敵意もなく、ただ見蕩れてしまったと言うべきだろうか?

おっさんは斜め上を見ながら、煙を吐き出している。その仕草が、まるで深呼吸のようだったのでおかしくなった。

こちらに気付いたおっさんはいぶかしげに、こちらをジッと見つめてきた。


「関係者……じゃ、なさそうだな」

「すみません、ここは何の店ですか?」

「ん? あぁ、ホストクラブさ。興味があるのか?」

「いえ。ちょっと、彼女と連絡がつかなくて……」

「冷やかしか……」


 おっさんは無造作にタバコを放り捨てて足で消し、懐から新しいタバコを取り出した。

吸うなら捨てなきゃ良いのにと思っていると、この光景どこかで見たことがあるかもしれないと思った。


「もしかしてその彼女が、この店に来ているのか?」

「いえ、そんな事はないと思うんですが……」

「男なら見て見ない振りしてやれよ。お前だって、キャバクラくらい行くだろ?」

「いや……、それは……」

「もし来たら、俺が裏口から出してやるよ。携帯に写真くらいあんだろ? まあ、有料だけどな」


 このおっさん、何故か客でもない俺から金を取ろうとしている。

確かに少しは持ってきてたけど、このおっさんに渡せるお金ではなかった。


「特別に2000円で良いぞ。こんな親切なホストはいないだろ?」

「え? ホストなんですか?」

「あ゛……?」

「あ……。その、お願いします」


 一瞬安いと思ったのは事実だ。

だけど店にも入らないでこれでは、カツアゲも同然だろう。

とりあえず服をがそごそして、携帯を出そうとしたら小さな瓶を見つけた。

試供用の香水でも入ってそうな小さな瓶は、ピンク色の液体がキラリと光っていた。

とりあえず近場に置いて、携帯を取り出しておっさんに見せる。


「ん……?」

「もしかして瑞穂は?」

「あぁ、初めて見た顔だよ。こう見えても、俺は人を覚えるのは得意だ」

「そうですか。で、どうすれば良いですか?」


 2000円を渡し、代わりに名刺をもらう。もし今日来たなら、電話を1コールくれるらしい。

この店はワンタイム45分のようだ。「電話が来てから店に向かっても、十分間に合うだろう?」と言っていた。

この近くには楽しそうな店も多いので、何もなければ最後にコーヒーを奢ってくれるようだ。

コーヒー一杯2000円に、都会の怖さを感じている。ここに来て悪さをする訳にはいかないので、ゲームセンターに戻ることにした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「アイツ、忘れていきやがったな」


 くたびれた『おっさん』ことシュージは、青年が置いていった小瓶を振りながら中身に興味を持っていた。

今時試供品だって、何かしらの注意書きくらいはあるはずだ。普通に考えれば化粧品関係だろう。

オイリーな感じはしないし、蓋を開けてみても天然由来の何かを感じる。

本当はダメなんだが注意書きがない以上、口に入れても悪いものではないはずだ……。


「アイツみたいに、怪しかったら別だけどな」


 シュージは一滴だけ手の甲に垂らし、スッっと口に含んだ。

その瞬間これはピンクグレープフルーツを思い出させる味で、何か特別な効能の薬だという事が直感的に分かった。

どうせアイツは戻ってこないだろう。普通の感性なら、夜の職業の関係者と係わり合いになりたいとは思わないはずだ。

小瓶を懐に仕舞い、シュージは開店の準備を手伝い始めた。


「おいおい、マジか……」


 クリスマスイヴともなると、平日でもきちんとキャストが揃う。

一線を退いた、プレイングマネージャーのようなポジションでもあるシュージは、店長に次ぐポジションを担っていた。

だが実力主義のこの世界。ナンバー1が同伴で少し遅れてくるくらいで、ナンバー2を中心に何個かグループが出来ていた。

そして初めて来た客の一人が、さっき写真を見せてもらった瑞穂だった。


 ナンバー2達が接客しているグループは、どうみても会社関係の団体だった。

20代~40代の女性5人に、同数の男達が接客を行う。

明らかに場違いな雰囲気を出している女性もいれば、通い慣れた女性も見受けられた。

その中の一人は、ナンバー2が操る『鵜飼うかい』の一人だった。


「いらっしゃい、レイカ」

「ちょっと、休ませてもらうわ」


 頭を押さえながら、レイカが来店してきた。いつもは、もっと夜が更けてから来るのに珍しい。

頭痛持ちであるレイカは、こういう時まっすぐ家に帰ることを嫌っている。

どこかで切り替えてから帰るのが多いと聞いていたが、今日はどこも混んでいるようだ。

『独身者は早く帰りなさい』と、話の分かる上司風じょうしかぜを吹かせた親父が、セクハラ紛いに会社から追い出したらしい。

席を案内されたレイカは封筒をポンと投げ出し、頭を押さえながらバカ騒ぎするナンバー2グループをチラッと見た。

シュージは多めの蒸しタオルを用意させ、まずはホットウーロン茶を勝手にオーダーする。


「珍しいな。そういう表情は、あまり見たことがないぞ」

「そうね……。本当に、今日は散々だったわ」


 ホストの仕事の大部分は、女性の話を聞くことだ。

シュージは細やかな対応で、それぞれのテーブルを軽く見回した。

時には影から黒服を操り、時には店長へ合図を送る。

その間も、レイカのことを忘れることはなかった。


「ハァ、今日は来るんじゃなかったわ」

「あぁ、悪いな。俺にも、あれは注意できねぇわ。仕事だからな」

「それは分かってる。ねぇ、何か気が紛れる話でも聞かせて」

「そうだな。じゃあ、さっき会った、変わった青年の話でもするか?」


 シュージの話には、山場もなければオチもなかった。

それでも話術だけで気を引けるのは、長年の感と経験の賜物たまものだった。あのテーブルは2タイム目に入っている。

レイカから携帯とメモを取り上げられ、「1コールくらい掛けてあげなさい」と電話を差し出された。

携帯を渡されてすぐにレイカは化粧直しをしに行き、最初の1コールを確認した後、すぐに出入り口に迎えに行った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 洗面台を前にレイカが頭を押さえていると、女性が声を掛けてきた。


「うっ……」

「あの、大丈夫ですか?」

「貴女は……。えぇ、大丈夫よ」

「もしかして頭痛ですか? 痛み止めならあると思うのですが……」


「ありがとう、薬が効きにくい体質なのよ。貴女は、こういう店に来るのはよしなさい」

「今日は、仕事の打ち上げで……」

「そう、大変ね……。でも優しさに付け込むやからはどこにでもいるから、油断してはダメよ」

「そう……ですね。次のタイミングで、帰ることにします」


 本来なら声が届かない場所のはずなのに、この距離でもバカ騒ぎが聞こえてくる。

あのグループは、本当に良い噂を聞いたことがない。店長が制御しきれてないのだから、仕方がないと思う。

シュージだって店側の人間だ。こういうイベントには、ああいう馬鹿も必要なのだろう。

それにしても、頭に響く声がイライラを募らせていた。


 外に出ると、シュージが待っていてくれる。

せめて気持ちが切り替われば良いけれど、今お酒を飲んだら悪酔いするのは目に見えていた。

さっき話しかけてくれた女性のテーブルを見る。明らかに場が二分されていて、空気が読めないモブ達が更に五月蝿くしていた。

シュージに何か飲み物を頼むと、珍しく「何でも良いか?」と聞いてきた。


「遅かったわね」

「あぁ、毒見も兼ねてだけどな」

「何を飲ませる気?」

「まぁ、これを飲んでみろよ。ノンアルのカクテルだよ。まぁ、『みっくちゅじゅーす』って奴だな」

「ぷっ……、言えてないわよ」


 カクテルグラスに入った、ピンク色のジュース。

ミックスジュースと言っていたけど、これは紛れもなくカクテルだ。

全幅の信頼を寄せるシュージは、間違ったことはしない。

進んで合っていることをしない、モノグサなのは知っている。でも、これは信じることが出来た。


「ふー……、良い気分だわ」

「なっ、騙されなかっただろ?」

「ついでで悪いんだけど……そうね、常温に近い水を持ってきてくれるかしら?」

「はぁ……。まあ、良い薬になるだろう」


 それから数分後、私は近くのテーブルに行き、空気の読めないナンバー2の頭に向かって、ゆっくり水をこぼしてあげた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 呼び出しなんて、来ないと思っていた。

だから着信があった時は、真っ先に瑞穂だと勘違いしてしまった。


「あのおっさん、間違いだったらタダじゃおかない」


 そうは言っても、間違って欲しいと願っている俺がいた。

クリスマスイヴにホスト通いだなんて……。そこでふと先輩から、『良い店に連れてってやる』の言葉を思い出した。

俺のは仕事の付き合いだから、……瑞穂もそうなんだろうか?

なんとなく今日だけは、瑞穂に会わないといけないような気がした。

いつでも会えると思うのは簡単だ。でもこんな日ぐらい、会いたくなる気持ちだって持っている。


 おっさんがいた店の裏口近くに立って、寒さを紛らわすように手を息で温めてみた。

あれからすぐに来たけど、確かワンタイム45分とか言っていたはずだ。

店の表側から出られたらアウトだ。でも、いきなり店を出て現場を見られたら……。

急に裏口のドアが開いた。おっさんは休憩時間のように、懐からタバコを取り出して一服している。


「あの?」


 まるで無視を決め込むかのように、ゆったりとタバコを吸っていた。

肺まで寒さがこたえるこの季節。タバコなんて吸っている場合なのかと問いたくなった。

裏口なのに、店の中の喧騒まで聞こえてくるようだ。すると少しして、裏口のドアが開いた。


「レイカ、しばらく出入り禁止な」

「迷惑かけるわね、シュージ」

「ほら、忘れ物だ」

「ありがとう。あれ? もしかして……」

「あぁ、その坊主だな。お前にも忘れ物を届けてやるよ」


 レイカと呼ばれた女性の後ろから、瑞穂が現れた。

本当にいたというよりかは、久しぶりに会えたという感想の方が大きい。


「え? 何で晃が?」

「良いから帰りなさい」

「でも、お金が……」

「彼氏から貰ってあるさ。めんどくせぇな、これならもっと……」

「シュージ、野暮なこと言わないの」


 何か勝手に話が進んでいるけど、瑞穂とは随分久しぶりに会った気がする。

まるで何年も何年も……。いや、もう会えないんじゃないかと思うぐらい久しぶりだった。

駆け寄る瑞穂を大きく抱きしめる……瞬間、時間が止まっていた。

俺の体も動かない。だけど思考だけが働いていた。


『リーン・ゴーン、リーン・ゴーン』


 まるで祝福されているように、鐘の音が鳴り響く。それは『願い事をしろ』と言っているようにも感じた。

俺の願いは変わらない。『瑞穂と一緒にいられるだけで良い』それだけが俺の願いだった。

ところが『何を捧げる?』と聞いてきた。サンタは、『君は良い子かな?』なんて聞かないはずだ。

仕方がないので、『『自分・・』に出来ることなら』と答えた。そして一つの魔法を失った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『広がりし波紋は、いずれ平静に戻る』

『冬があるからこそ、春の穏やかさを感じ。夏があるからこそ、秋の実りを感謝する』

『隔たりし世界は、区別せねばなるまい。あるべき場所にあるべきものを』


 その言葉のすぐ後に、時間は静かに流れた。

瞬間に起きた出来事など、人の身に理解できるものではない。

晃の体から特別な力が消え、瑞穂の運命は違う道を創り出した。


 この後一人の男性が変死し、一人の女性が獄中死したのは、二人には関係ないことだった。


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