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133:公爵領の夏休み4

 戦いはスチュアートとローランド対騎士四名、セルヴィス対マイクロとヘルツというハンデ戦だった。

お互いがサポートに入れないくらいの距離を取り、誰が先に動くのか微妙な緊張感があった。


 最初に動いたのは騎士団の四名だった。

木剣に盾を持った二人に、拘束用のロープを持った一人と、捕縛用の網を持った一人がいた。

ロープをグルグル回している騎士が、錘のついた先をスチュアートに飛ばした。

これを落ち着いて盾で弾いたスチュアートは、続けて来る網が最小限に広がるのを抑える事しか出来なかった。


「ローランドさま!」

「あぁ、大丈夫だ」


 網が飛んでくる時に、この言葉だけで二人には通じるものがあった。

結果としてスチュアートとローランドは少し離れてしまった。しかし、網やロープによる攻撃は完全に避けている。

網を放った男は、「スチュアート殿を抑えろ」と言うと、木剣を抜いてローランドを目標に据えた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ほう、ここまでは順調だの」

「ローランドさまには、しっかり考えて頂かなくてはいけませんからね」

「まあ、一言で言えば甘いけどな。子供が可愛いなら、鬼にならなきゃいけねぇ」

「なるほど、鬼を求めるか。ならば、存分に味わうが良い」


 腰溜めでずっと集中しているマイクロ。その後ろに自然体で立つヘルツに、向き合うセルヴィスも自然体で立っていた。

セルヴィスとの距離は十分に取っているはずなのに、セルヴィスの放った殺気で、ヘルツはマイクロの後ろにいるにも関わらず、更に数歩距離を取った。無造作に片手で木剣をぶら下げているセルヴィスは、ゆっくりマイクロに近付いて行く。


「ヘルツ、とりあえず動くなよ」

「おいおい、二人でやるんじゃないのか?」

「どこまでおやっさんに近付けたか試す機会なんだ。なかなか味わえないだろ?」

「危なくなったら、いつでも介入するからな。……わぁったよ、行って来い」


 一般的に模擬戦をする距離で、セルヴィスの足が止まる。

セルヴィスのプレッシャーは距離によって減退していく。ということは、近付くごとにそれは増していくのだ。

ヘルツは短い木剣を二本腰に刺し直した。

ヘルツなら抜いた瞬間に投げる事も出来るが、セルヴィス相手ではその時間は致命的になる。

これは戦いに介入しないという意思表示でもあった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 騎士団では、様々なシチュエーションを想定して戦う事がある。

敵の大物は大抵後ろに位置取る。トカゲの尻尾切りのように、部下を犠牲にして逃げる事が多いからだ。

下っ端とボスの二択で、どちらかを選ばなければならない時、どうすれば良いか?

それが今回の作戦であり、無事に実行出来た証拠であった。


 スチュアートとローランドを二つに分けた騎士団は、これでほぼミッション完了だと思った。

剣の実力がある二人はスチュアートにつけ、不用意に突撃させないようにした。

一対一では勝てなくても、二対一では負けはしない。ただ、相手は元がつくとはいえ、近衛騎士だった男である。

騎士の戦いは負けない事。そして時間を稼げば増援を見込める事から、スチュアートの足止めをすることに注力した。


 後はローランドを捕縛すれば勝利だ。

こちらも二対一でお互いに剣を構えているが、こちらの後ろにはサポートをするロープを持った騎士もいた。

ダールスとマイクロは戦闘に関しては鬼だ。この班は少数精鋭で、二人から直接の指導を受けている。

他所の班よりかは格段に戦闘技術もあり、多くの実績を重ねた部隊だった。


 だから、「ローランドさま、覚悟!」と言ったロープの男が放った、緩いロープでの攻撃が、男の真剣さを途切れさせた。

忖度と言えばそれまでだろう。主に向かって攻撃することを躊躇ったとも言える。

この緩い錘つきロープの攻撃をフェイントにすることも出来ず、ローランドは勢いをつけて錘の部分を弾き飛ばした。


「マイクロ! 訓練が足りないらしいな。夏休みはないものと思え」

「え……」

「バカやろう。気の抜けた……」

「戦闘中に話をするとは余裕だな」


 ローランドは錘を振り払った勢いのまま、木剣を持った騎士に詰め寄る。

あまりに至近距離に入ったので、攻撃手段を失った騎士に、ローランドは木剣の持ち手の部分で鋭く打突を放つ。

離れ際に片手に剣を打ち込み、回し蹴りを放った。崩れ落ちる騎士に、後ろのロープの男が慌てて剣を抜こうとする。

再び距離を詰めたローランドは、首筋にピタリと剣を突きつけた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「「お父さま……」」

「え? 何が起きてるんだ?」

「ウォルフ、見たまんまだよ。ローランドさまが騎士を倒したんだよ」

「父さまが動かなかったのには、訳があったんだな」


 スチュアートは動いていない訳ではなかった。

現に木剣を一本足で踏んでいるし、相手の騎士の剣が一本減っていた。

そして爽やかにローランドに向かって、「良い運動になりましたか?」と聞いている。

今も戦っているセルヴィスとマイクロだが、この戦いに戦闘に参加していないヘルツが加わったら、少しは状況が変わると思った。


「ソアラ、チリ。お父さまが強いって知っていたのか?」

「いいえ、ライマードさま。一般の騎士並には戦えると思っていましたが……」

「お父さま……。かっこいい……」

「ロメロ。もしお父さまのように強くなりたいなら、一緒に頑張らないか?」

「はい、お兄さま」


 ライマードもロメロも、心のわだかまりが取れたようだ。

ソアラとチリからは、「ローランドさまが強い事は秘密にしておきましょう。相手が油断してくれるなら、危険は少なくなるはずです」とここにいるメンバー全員に緘口令を敷いた。陛下と伯爵は知っていたのか、驚いている様子はなかった。


「さあ、これで戦う意味がなくなった……が」

「えぇ、陛下。でも、火がついてしまったようですね」

「面白い対戦だから、皆の者見逃してはならんぞ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 騎士としての戦いを考えるなら、マイクロに利があった。

相手の攻撃を無力化することに特化した、マイクロの戦い方は騎士の模範とされている。

技術とスピードのセルヴィス、力に重きを置いたダールス。

二人から多くの戦い方を学んだマイクロは、まさにハイブリットな騎士だった。

では、何故圧されているのか……。


 アーノルド家の剣術を語る上で欠かせない特徴は、地面に足がついている時間が極端に少ないことだ。

今回のスチュアートはベタ足だったので、実力の半分も出していないのは分かる。

ただ油断しなければ、ローランドを制圧することが出来るメンバーだった。

そして、もう一つの特徴としては、手癖足癖が悪い門下生が多いことだ。


「おやっさん、孫達が見ているぞ。その怖い顔を元に戻さないか?」

「マイクロもヘルツと似たような事を言いよる。手加減して欲しいなら、焚き付けないことだ」

「これでも忠臣のつもりなんだが……。それにしても暴れすぎだ」


 マイクロが洗練された騎士になっていったとしたら、本気を出したセルヴィスは段々荒れる戦い方をしていた。

これはダールスとの模擬戦では出さなかった戦い方だ。技術がある者が喧嘩殺法のように、正攻法でない方向から一撃必殺のように鋭く攻撃を仕掛けてくる。同門故に型はあるが、それだけに戦い易さ戦い難さが存在する。


 殺気さえもフェイントにし、真正面からの振り下ろしも、まともに盾で受け流す事が出来なくなる。

スチュアートとマイクロは、アーノルド剣術の優等生なので、未だにセルヴィスに追いつけないでいた。

離れた場所から、「マイクロ! 訓練が足りないらしいな。夏休みはないものと思え」という声が聞こえてくる。

仲間が敗れた以上、長々と戦うのは得策ではない。増援は来ないのだ。


「おやっさん、最後にしよう」

「あぁ、良いぞ。一ヶ月で治るくらいに済ますとしよう」


 セルヴィスは両手で上段に構え、剣は若干右上を向いていた。普通に考えるなら、右上から左下に振り下ろす袈裟斬りだ。

お互いの距離は剣の範囲までは数歩になる。その距離はアーノルドの教えを受けた者なら0に等しい。

マイクロは恐れず前に出た。セルヴィスは小細工なしに、剣を振り下ろした。

マイクロの盾が自動追尾のように、スピードが乗り切らない地点で受け止めた。

後はマイクロに残った木剣が、セルヴィスを振りぬくだけだった。


 拮抗するように剣が止まり、盾も受け止める。

しかし、そこにはセルヴィスの手は添えられていなかった。

マイクロの木剣が振り抜かれる直前、セルヴィスは剣の持ち手の指めがけて正確に左拳を打ちつけた。

そんなセルヴィスに、二本の短い木剣が飛んでくる。マイクロの手から零れる木剣を奪うと、カンカンと重力が失った二本の短い木剣が浮き上がり、ヘルツに向けて打ち返された。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お爺さま……強すぎる」

「ウォルフ。多分だけど、あれで手を抜いていると思う」

「あれでか? でも、あれって剣術なのか……」

「最近のウォルフの戦い方って、お爺さまに似ていると思うけど……」


 先に戦闘が終わったスチュアートとローランドがやってくる。

その後ろには少し凹んだ騎士達がやってきて、セルヴィスとマイクロの戦いは見ていたようだ。


「ライマード、ロメロ。どうだ? 戦うのは怖いか?」

「「……はい。お父さま」」

「それで良いんだ。強さは突き詰めれば、一人が持てる栄光かもしれない。ただな、負けない戦い方もあるんだ。仲間を作ったり、体を鍛えたりすれば、それは自信にも繋がる」

「「はい! お父さま」」

「今は深く考えなくて良いんだ。ウォルフやアキラと、一緒に楽しんで来い」


 ローランドに抱きつくライマードとロメロは、とても誇らしげだった。

陛下の後を継ぐ為、多くの業務の引継ぎをしているローランドには、なかなか子供達と触れ合う機会は少ない。

ソアラとチリは、それは仕方がないことだと思っている。

覚える事が多く、文武両道どころか帝王学まで必要になっているのは、全てが王族として正道を歩むために必要なことだからだ。


 ローランドが王位についたら、次代はライマードとロメロ・リュークの世代がやってくる。

王族と貴族の関係は、協力的立場にあり敵対的立場にもある。

順当に行けばウォルフが男爵家を継ぎ、レイルドが伯爵家を継ぐ。

ローランドとスチュアートの関係のように、自分達が多くの仲間と共に、王家を主君と仰ぐ一員として行動しようと思う。


 後からやってきたヘルツとマイクロが、後ろからセルヴィスに背中を突付かれていた。

お爺さまの怖さは訓練で知っていたけれど、この二人を前にして手加減をしているのを感じてしまった。

それはヘルツとマイクロも同じかもしれない。ただ、まだセルヴィスにはまだ届かなかったようだ。


 今日の訓練は、この後自由時間になった。

マイクロはウォルフと自分に、「アーノルドの剣術では、手癖足癖が悪い奴がたまに出る。お前達は真っ直ぐ育てよ」と言った。

ウォルフの戦い方は火の勢いを感じ、今のセルヴィスの戦い方に似ていると思う。

ロロンは小さいながらに、大人に勝とうと策を練ろうとすることがある。

元々強いのに、勝とうとする気持ちが強いアーノルドの剣術は、やっぱり反則級だよなと思った。


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