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第十四話

 ギギの口にジュースを放り込むと、しばらくしてコロンと床に、空っぽになったペットボトルが転がる。


 元々、残り少ないから誰でも出来る芸当だが、ここからが最終手段。


 「うん、食べているようにしか見えないな」


 そこで笑いが起きる中、チロルを取り出して、みんなに配る。


 「じゃあ、食べさせてみましょうか?」


 まず、サチ姉がチロルを放り込み。


 もう一度、ペッと吐き出すかと思ったのだろうが、ギギは触手を口に突っ込ませ、しばらくした後に、触手の上に包装紙を乗せて出した。


 「……」


 それだけ…。


 それだけが、みんながギギの口を注目していたので、ニナと同じ様な沈黙を生んだ。


 これは自分が出した指示でもあるが、黙り込むだろう。


 ギギの構造は知らない、だが、これは自分でも味わった事がある。


 「い、今の…」


 「何か見えましたか、お客さん?」


 ギギの口から、手が見えたのだ。


 「さっきから言ったと思うのデスヨ。


 中身、人間ダッテ…」


 「サトル、何で片言になってるんだよ?」


 「さあ、喜多村クン、試してミヨウヨ?」


 今、喜多村の視線がどこに向いているのかが、何となくわかる。


 チョコに行って、あの口になるのだ。


 「くうううぅ…」


 手を突っ込みたくなる衝動が、襲い掛かって来ている事だろう。


 その姿はまるで、かつて付き合っていた彼女と別れたのが、このヘルメットのせいだと挑みかかった自分と重なる。


 当然、あの防弾仕様のヘルメット相手に勝てるわけが無い。


 その時も、逆に拳や、足を痛める結果になったのだが…。


 「なんだ、もう終わりか?」


 クイ、クイッ。


 ギギの口から出た手が、ニョキっと出て手招きである。


 あれほど人を怒らせる技はないだろう。


 「どおおりゃああああ!!」


 サンペイが、抑えられなかった。


 ズボオッ!!


 「ちょっと、サンペイ!?」


 サチ姉が止めようとしたが、サンペイは、その手を引っ張ろうとしたのだろう。


 しかし、もう一度言う…。


 自分は経験しているのだ。

 

 「んっ?」


 見事に二の腕まで手を突っ込んでいた、サンペイが異変に気付いたのは言うまでも無い。


 次に気付いた、喜多村がサンペイに聞いて来た。


 「どした?」


 「手が抜けん…」


 「おいおい、そこまで突っ込んでないだろ?」


 あっ、口が狭まってる」


 「どういう事だ、こっから見えないから教えろよ」


 「歯みたいなのが、お前の腕を噛み付いてるんだ。


 ちょうど万力に物を挟んでいるような状態で、腕が挟まってる」


 「そりゃ、何か腕を圧迫されているからわかるが、サトル、何とかしてくれ」


 サンペイは自分を見た。


 そして、自分は、


 「でね、ギギ君はですね。


 自分の家にホームステイしているわけですが…」


 漫才を続ける。


 「おい、聞いてんのか?」


 「こんな防弾仕様でも、やっぱり、身を守る術は必要なワケですよ?」


 「ああ、私はその技の数々を48の対処法と、52の名場面と名づけているんだ」


 ギギも、こんな字幕を見せるので、当事者のサンペイは真っ青になる。


 「はめやがったな、サトル!!」


 恐怖は、実績をもって増幅するとは、よく言ったモノだ。


 「160(いちろくまる)か!!


 160(いちろくまる)か!!」


 彼の脳裏には、160キロの剛速球を飛んで避けている自分の姿が浮かび上がっている事だろう。


 挟まった腕を、何とか抜こうと踏ん張るが、経験者は語る。


 無理だ、アレから逃げる術は無い。


 「あ痛ぁ!!」


 喜多村が万力と表現したのは、あながち間違ってない。


 ギギが軽く、身体を傾けただけでもサンペイの自由を簡単に奪っていた。


 ギギギ…。


 そして頭から出て来た砲身が、器用に、ゆっくりとサンペイに狙いを定めて行く。


 「う、うお、ああ…、何か来た、何か来た…」


 狙いを定められ、キャッチャーをした時もそうだが、至近距離であればあるほど、エネルギーを溜めているのを実感するのだろう。


 全国空手道、高校男子の部、二連覇という経歴を持つ、サンペイでも、やっぱり怖いのか顔が恐怖にそまる。


 ボールが入ってなかろうが、ピッチングマシンに脳天は叩かれたくない。


 周囲もその危険な雰囲気を感じ取って、誰もサンペイに近寄ろうとはしなかった。


 その時だった。


 「まあ、それは冗談なんですけどね」


 自分の言葉の合図に、ギギはサンペイの腕を『ぺっ』と抜き、砲身を収めたのが周囲を安堵させていた。


 「だからギギは、めちゃくちゃ強いから、みなさん気をつけてくださいね」


 「脅かすなよ…」


 これも漫才の一つなのかと喜多村が安堵していたが、サンペイの身体はビクリと震えて硬直していた。


 今度は自分が『しまった』と思った。


 「なあ、ギギもしかして?」


 「何だ、お前の指示通り『やった』だけだが?」

 

 「ぎゃあああ!!」


 もう遅かった、サンペイが叫びを上げる。


 無理も無い、突っ込んだ腕が白骨化していたからだ。


 驚くだろう、あれは誰でもビビる。


 「48の対処法の一つ『防犯スプレーの終末』


 って、あれ?」


 「あああ、ああー!!」

 

 「サンペイ、サンペイ!!」


 そんな字幕が流れるが、周囲はそれどころではなかった。


 先にサチ姉、後に喜多村が驚愕していた。


 「やりすぎだ、バカッ!!」


 そうして、自分はギギは後頭部を引っぱたき『ボヨヨン』と揺れる中、この腕があるように二時間くらいすれば治るのをサチ姉達に説明すると、ようやくサチ姉がニナがいない事に気付いた。


 「ギギ、謝れよ」


 「……」


 ニナには大打撃だっただろう、掃除用具を入れるロッカーに身を隠し怯えていた。

 

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