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Youなるもの  作者: あなた
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7/18

接触

紅葉の葉がすっかり枯れ落ち、風が冷たく刺すころ。

私は意を決し、彼女との接触を試みていた。


出会った彼女は当初こそ、何も知らないというように他人のようにおどけて見せていたが、話が彼のことになると、途端にその表情を変えた。

空気は変わり、柔和だった態度は、嘘のように険しくなる。

まるで、人外の何かがその本性を露わにしたかのように。

彼女の瞳に、温度は籠っていなかった。


「へぇ……。あなたがそうなの?」


彼女がそうつぶやくと、途端に周囲の温度が急に下がったような気がした。

私は背中に薄ら寒いものを覚えながらも、努めて冷静に目の前の彼女を見据える。

その内に潜む闇を捉えるように。


彼女はそんな私を睨みながら、ゆっくりと口を開いた。


「どうりで彼、なかなか話したがらないと思っていたわ。あなたが後ろで糸引いてたのね?」


顔は穏やかだった。

けれど、内面は憎憎しげな怒りを滲ませ、私を見下ろしていた。

近くで見る、彼女の身体は大きい。

身長は一七〇センチくらいだろうか。

ヒールを履いているせいで、ただでさえ高いその身の丈がさらに増している。

今では、私より頭一つ分ほど高い。

そんな彼女に凄まれるのだ。

その圧迫感は、遠くから見ていた時とは比べ物にならない。


挿絵(By みてみん)


遠目に眺めているだけでも、彼女には明らかに他とは違うオーラがあった。

けれど、こうして実際に目の前に立ってみると、その存在がいかにケタ違いなのかが、嫌でも分かる。

間違いない。

化生だ。

それも、私がこれまで出会ってきた中でも特級の――化け物……。


「……っ」


私は緊張に息を呑むと、彼女に気圧されまいと、ずいと前に出て向かい立った。


「糸を引くとはおかしな言い草ですね。彼は私のクラスメイトですよ?

 学生が校内で友人と親しくするのは、自然なことじゃないですか?」


そう言って私は怯むことなく、真っ向から彼女と対峙する。


それを彼女は「ふぅん」と、さして興味もなさそうに見下ろした。

そして、つまらなそうに目を細める。

まるで私など、その辺にいる有象無象と何ら変わらないとでも言うように。

彼と一緒にいる時は、あれほど慎ましげに振る舞っていたというのに。今の彼女には、どこか意地の悪い笑みが浮かんでいる。

まるで、隠していた性根の悪さが戻ってきたかのようだった。

これが彼女の本性なのか。

それとも、彼の知り合いだと分かったことで、感情的になっているだけなのか。

まるで分からない。


「…………………」


彼女は内心を微塵も感じさせないまま、ゆっくりと髪をかき上げた。


「それで?私に一体何の用があってここまで連れ出してきたの?

まさか、ただ挨拶にきたというわけでもないのでしょう?」


私のことに興味を無くなったのか、周囲の景色を眺めながら彼女が尋ねる。

その一挙手一投足を慎重に眺めながら、私は静かに告げる。


「単刀直入に言います。彼と別れてください」


「……はぁ?」


突然そんなことを言われ、彼女は理解出来ないとばかりに、引きつった笑顔を浮かべる。

まさか私から、こんなこと言われるとは想像もしていなかったのだろう。


「別れるって、あなた何言ってるの?

さっき自分で友人と言ったばかりじゃない?

彼女でもないくせに、何を偉そうに命令してるの?」


「そうですね。けど、それとこれとは話が別です。

私は彼が他の誰と付き合おうと文句はありません。彼が誰を好きになろうがそれは彼の自由です。

けど、それはあくまで常識の範疇…。

相手があなたであるというのなら、話は別です。

あなたが彼に付きまとうというのであれば、私はそれを見過ごすことは出来ない」


「酷い言いがかりね……。なんだかんだと理由をつけてるようだけど、ようはあんたの僻みでしょう?

彼を責められないからって、私に八つ当たりしないでくれる?」


「確かに……これは私の勝手な八つ当たりかもしれない。

彼を三年近く視てきて、その人柄と在り方から友人以上の感情を持ってきました。

彼が本当にそれを望むのなら私も諦めがついたでしょう。

……けど、違った。彼は変わらなかった。

誰と会っても何と会っても相手を見ようとしない。

誰と友好を深めても自分の内側に入らせようとしない。

いつも自分の内側に籠って、差し伸べる手を躱していく。

私はずっとそれが、彼がただ奥手なものなのだと思ってました。

自分の劣っている部分を相手に知られることを恐れ、隠しているのだと。

けど、違った。あの人は本質的に人という存在を避けたがっている。

誰かの特別になることを極端に恐れている。

意図は分かりませんが、ところどころにそのような節が垣間見えた」


「………………………」


「彼の孤高ぶりは異常だったんですよ。誰も自分とは相容れない。誰も自分とは思いを共有できない。

そんな目をして陰から世の中を眺めている。

何をするでもなく、何を求めるでもなく、ただジッと周りの景色に想い焦がれながら、じっと眺めているだけなんです。

私はそんな彼の特別になりたかった……。

でも、彼はそんな私さえ拒絶した。

感情ない笑みで、その思いをも殺した。彼の笑みはいつも悲しみに満ちている。

……私は彼が分からない。

そんな彼といるあなたも。

彼は何者なんですか?あなたは何なんですか?

なぜ、貴方のような存在が彼と一緒にいるんですか?

私に教えてください。そうでなければこの思いは永遠に晴れず、彷徨ったままだ」


目の前の女へと容赦なく、思いの丈を吐き出していく。

疑問はあった。怒りもあった。けど、なにより不安が大きかった。

それが私にとっての隠せない本心だったから。

その答えを目の前の彼女なら知っているのかもしれない。

だからこそ尋ねずにいられなかった。


私は自分の疑問の答えを求めるように、彼女を見つめる。


「…………」


彼女はそんな私の視線に目もくれず、じっと瞼を閉じていた。

何か染み入るような表情を浮かべて。


「……答えては、くれないのですか。

では、やはり私はあなたを認めるわけにはいかない。

彼がなんと言おうと、私はあなたの存在を見過ごすことは出来ない」


「活きのいいこと。

若いってのはいいわね?

そんな綺麗事を並べて、感情のまま直走って行けるのだから」


「どういう意味です?」


「分からない?ガキだって言ってるの」


「……………………………」


「一つだけ教えといてあげる。

あの子はね、ただの人間よ。

あなたが思ってるような特別な存在じゃない。

普通の……どこにでもいる子よ。

狂って見えるのは、子供の頃にちょっとした事故に遭ったから。

あなたは、それを特別だと勘違いしたんでしょうね。

愛は盲目って言うから。

自分の理想をあの子に重ねて、勝手に特別なモノへと仕立て上げただけ」


「……事故……ですか」


聞き覚えのある言葉に、私は深く頷く。

確かに能力覚醒の条件としてはおかしくない。

そういうこともあるだろう、と。


「彼の心は脆いわ。ちょっとした刺激にも敏感に反応し、心を歪つに歪めてしまう。

どこまでも透明で、どこまでも綺麗な子。

彼を追うつもりなら止めときなさい。アレはあなたの手に負えるものじゃないわ。

ああいう壊れた人間はね、同様に壊れた者にしか扱うことはできないの。

私みたいなね?」


彼女はそう言ってどこか遠い目をした。

遠い昔の彼を思い返すように。


「あなたの言いたいことはよくわかりました。彼の昔に何があったのかも。

それについては感謝します。

けど、あなたは大事なことを話していない」


「……………………………」


「あなたは彼の何なのですか?

何の目的があって、彼に付きまとっているのですか?」


睨むように私は彼女を見据え、糾弾する。


「何って、私は彼の姉よ?

血の繋がりはないけど、実の姉以上に親しく思ってる。

私の目的は彼を幸せにすること。それ以外に興味はないわ」


「けど、あなたは人じゃない。

人じゃないものに彼を愛するなんて、出来るわけがない!」


感情に任せて、つい避けていた言葉を口走ってしまう。

彼女はそんな私の言葉を受けて、堪えきれないとばかりに、


「あっはははははは!!!」


と、笑い声をあげた。

その顔は、心底愉快そうだった。


「……人じゃないときたか。あなた、面白いわね?

そんな風に言われたの久しぶりよ」


「とぼけないで下さい。あなたが普通でないのは、既に分かっているんです。

正体を現したらどうですか?」


カチャリと、背中のギターケースを斜めに傾ける。


「……ふぅ。あなたもおかしなことを気にするのね。

私が普通じゃなければ、なんだって言うの?

愛に境界線なんてないでしょ?

愛とは理性(じょうしき)を壊すものなんだから」


「愛……ですか。

それで、彼に憑きまとっているというんですか?

彼を完全に自身の物へ落とし込むために?」


「必要とあらばね」


「本気で、そうお考えですか?」


「嘘なんていわないわ。私はいつだって本気よ」


「………………………」 


「それが要件?なら、もう帰ってもいい?

これでも私は忙しいのだけれど……」


「ちなみに……、訊ねますが。

ここ最近の事件はあなたが引き起こしているのですか?」


「……は?事件?

何のこと?

それとこれと一体何が関係してるって言うの?」


彼女はわずかに目を見開き、首を傾げる。

心底知らないというような反応だ。


「関係がないというのなら、それもいいです。

私は真実を知りたいだけですから」


「話の意図が掴めないんだけど?」


「では、言う気がないと?」


「意図の分からないものについて、わざわざ話す必要もないでしょう?」


「そうですか……。

なら……、あなたは私の―――敵だ!」




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