恋のアタック
「それで、用事って何?」
彼はいつものようにハニカミながら、照れたように目を細めている。
私は路地裏の壁に手をつきながら、彼に背を向けポツリと言葉を投げかける。
「新宮君って、変わってますよね?」
「え……?」
彼は小首をかしげながら、よく分からないといった感じで疑問を漏らす。
「見た目というか、雰囲気というか……なんか周りと違って、独特なオーラを感じます」
そんなこと言われると思ってなかったのか、彼は私の言葉を受けてぷっと吹き出す。
……割と思い切って言ったのに、そんな反応か。
私が彼の方を振り返ると、彼はおかしそうに笑い声をあげた。
「何を言われるかと思えば、功刀さんも可笑しなこと言うなぁ。
そんなオーラ、僕にないよ。
自分でも地味だなってよく分かってるのに」
「でも、周りを避けてますよね?
自分の中に、あまり踏み込ませないようにしてる。
それって……周りと違う何かを、隠してるってことじゃないんですか?」
「ないよ。そんなの。
どこにでもいる普通の学生だよ。
僕なんていつも教室の端っこで目立たなく座って、みんなに相槌を打つだけの暗いキャラだよ?
逆に自分のことを知って貰えているのか、疑問に思うぐらいさ」
「……そうですか。私には自分からあえてそうして目立たないようにしてるように見えましたけど」
「そりゃ勘ぐり過ぎだ。僕はそんな大人じゃない。
目立たないようにするのは顰蹙をかいたくないからで、たぶん功刀さんの思ってるのとは違う。
そんな人に誇れるような才能があったのなら、誰も苦しんだりなんかしないよ」
彼は俯きながらそう自嘲気味に自分の心情を吐露する。
そんな彼を私は注意深く観察する。
「……苦しんでるんですか?
新宮君は」
「……そりゃあね。生きていたら誰だって悩みの一つぐらいある。
功刀さんの言うような才能があったら、きっと幸せなんだろうけどさ」
「……………………………」
「でも、それがどうしたの?」
「……いえ、ただ少し気になっただけです」
「気になる?」
新宮は小首をかしげ、こちらを見る。
私は彼の視線を受け留めると意を決したように、正面に立った。
「はい、新宮君がどういう人間なのか、何を考え、何をしようとしているのか……、それを知りたいんです」
「……………………」
「結構前からなんですよ。新宮君のこと、気になったの。
一年の時に初めて見かけた頃からずっと……あなたがしていることを凄いなと思いながら観察してました。
新宮君が自分の事どう思っているか知らないですけど、私は新宮君のこと……”特別”だと思ってます」
「……特別って、大げさだな」
「大げさなんかじゃないですよ。割と本気で新宮君のこと推してます」
「……………………」
「でも、このままじゃいけないと思って、いつまでも遠くから眺めてるだけじゃ何も変わらないから、勇気をもって声をかけました。
これが私の勝手な思い込みだというのなら、それも構いません。
私は君のことが知りたい。
あなたが何なのか、あなた自身もまだ気づいていない部分も含めて……ちゃんと知りたいんです」
そこで私は言葉を切り、彼の顔を見る。
「つまり……、何を言いたいかというと、私はもっと新宮君とお近づきになれたらと思っています」
「―――っ!?」
言い切った。
これまで胸にため込んできた思いを吐き出すように、はっきりと。
私の視線に、新宮君は狼狽えるように目を泳がせる。
緊張した空気が二人の間に漂う。
――どれくらい、そうしていただろう。
互いを意識したまま、時間だけが過ぎていく。
新宮君はどう返せばいいのか分からないのか、視線を漂わせたまま、言葉を探している。
「……え……と……、その……」
やがて、新宮君は視線を落とし、重たそうに口を開く。
「それは……幸せだね。そうやって、誰かと心から繋がりあえるなんて、親友みたいじゃないか」
「……は?」
一瞬、意味が分からず固まる。
――今の流れで、どうしてそうなる?
疑うような視線で彼を見ると、彼は慌てたように言葉を続けた。
「あ、いや…違くて。えっと、その……僕、こういうの詳しくなくてさ。
男と女でも、その……友達っていうか、うん、成り立つと思うんだ」
言いながら、自分でも噛み合っていないのが分かるのか、語尾が弱くなる。
「だから、その……功刀さんと、そういう……友達、というか……親友、みたいな……のに、なれたら、
僕は……嬉しい、かな?」
「え…あ…。
……そう、ですよね。親友、ですよね。
私たち」
「そ、そう……!親友……うん、うん」
ぎこちない笑い声だけが、その場に残った。
……は?
今のが……返事?
――嘘でしょっ!?何を聞いてたんだこの男はっ!?
もっと他にかける言葉があるだろっ!?
私が睨むと、彼はびくりと肩を震わせ、さらに視線を逸らした。
やがて耐え切れなくなったのか――
「あ、あの……それで、もう用事はいいよね?
じゃあっ、そういうことで……っ!」
彼はそう早口でまくしたてると、逃げるように駆け出して行った。
その背中が見る間に遠ざかっていく。
残された私は、ただそれを呆然と見送ることしか出来なかった。
……逃げた?
あいつ、この土壇場で逃げやがったっ!?
アレはもう鈍感とか、そういうレベルじゃない!
人間不信なくらいに人から向けられる思いに臆病なんだ!
こんな遠まわしな言い方じゃ伝わらないほどに、気が弱いのだ!
「ふ、ふふ……、あはははは……っ。
……何これ?」
私は軽く眩暈を覚えながら、壁に手をつく。
本当に、どうしてしまったんだろう……。
見た目どおりじゃないか、彼は……。
特別なことなんて何もない。
オカシイなぁ……。
普段はシャキッとして大抵のことは動じないのに、どうしてだか答えを迫ろうと近づくと、とたんに臆病になって逃げ出していく。
私だから?
それともみんなもそうなの?
私はその場にしゃがみ込み「う~~~ん」と唸り声を上げる。
「こんなんじゃ駄目だ!このまま一人で考えても埒が明かない。
もう一度会って、ハッキリさせないと、いつまでもこの胸のもやもやが晴れない」
こんな思いをこれまで2年も繰り返してきたのだ。
さすがにこれ以上続けたら、恋うんぬん以前に、私の方が駄目になってしまう。
けど、これでハッキリした。
あの男にあんな迫り方じゃ駄目だ。
もっと完全に、容赦なく、有無を言わせないように外堀を埋めて攻め落とさないと、どこまでいっても逃げられる。
相手の気持ちをただ待つのではなく、自ら迫るくらいの意思が必要だ。
―――さながら、獲物を狙う肉食獣のように。
「…………………………」
季節はもう夏……。
これから来る大型連休になる前になんとか恋人の形にまで漕ぎ着けられたらいいけど………、無理だろうなぁ………。
私は「はぁ」と重く息を吐き、路地を出る。
時間はあまり残されていない。
次こそは必ず彼を振り向かせるんだ!
そう何度目になるか分からない決心し、今後の予定を考えていくのだった。
――――――しかし現実というのは非情で、そんな機会など訪れる事もなく、気づけば季節はもう夏真っ盛りとなっていた。
彼との連絡手段を持ってない私は、休み中これというイベントもないまま、日夜執行者としての日々に追われていた。
おかげで私の財布はパンパンに温まったが、私の心は一層に渇いていった。
――――――それから茹だるような暑さが過ぎ、日にちは新学期。
新学期初日を迎え、私はうきうきとした気分で高校の敷地を跨ぐ。
この季節こそは彼をモノにするんだと意気込むように、教室の扉を開き最初となる第一歩を踏みしめる。
教室の景色は、前見た時と変わらない。
周囲の生徒は長い連休明けにけだるそうな顔を浮かべていて、それぞれのグループで駄弁っている。
私はそんな周囲から逃れるように一人席に着くと、愛しの彼の席を見つめ、彼が登校してくるのを今か今かと待ち続けた。
そうして待つこと数分。彼が現れる。
久々に見た彼の姿は浅黒く日焼けしていて……なんというか……。
まるで知らない別人となっていた。
――――――――――――――――――
次回(第4話)は【9月14日(月)の19:00頃】に更新予定です!
以降は、毎週【水曜・土曜の19時頃】に定期更新していきます。
本作は「第一部・全19話」で、約2ヶ月で完結する予定です。最後までどうぞお付き合いください!
投稿中の作品は、カクヨム様にも同じ名義で重複投稿しています。




