第9話 アオバのもやもや
『おめでとうございます、アオバさん! 登録者数1万人突破しました!』
「い……1万人突破ですか!?」
マネージャーから言われたことに思わず大声で返してしまう。
先ほどまでは落ち着けと言っていた側だったのに。
「最近まで1000人足らずだったんですよそんな数日でそんなに増えるなんて——」
そんなことを言いつつも、動画配信サイトのマイページにアクセスし、登録者数の欄を確認すると思わず口が止まってしまう。
「……本当だ」
ディスプレイに映し出された登録者数には『10025』という数字が表示されていた。
目を擦ってから見直したり、頬をつねってみるがその数値が変わることはなかった。
つまりは彼女の言っていることは本当だったようだ。
『だから言ってるじゃないですか! アオバさんのマネージャーなんですから嘘はつかないですよ!』
「すみません……自分でも信じられなかったので」
『でもちょっと残念ですよね、目標の登録者数突破するまで配信やめない企画ができたんですけど……』
彼女のいう企画はどの事務所の配信者がやる常套企画だ。
それに合わせてグッズの販売とかにこぎつけることができるので事務所側からしたらお金になる機会を失ったとも言える。
『でもこの企画は5万人の時でもできるので、引き続き頑張っていきましょう! もちろん微弱ながらも私も精一杯協力していきますので!』
元気よくそう話すマネージャー。
そう言ってもらえることはありがたいことだし、自分ももっと頑張ろうと思えてくる。
だが、1つだけ気になることがあった。
「ちなみにいきなり増えた理由とかってわかったりします?」
『急だったので細かくは調べてないですが、大きな要因としてはクリハンでリオさんを助けたのと、彼女とコラボしたことかと思います』
「やっぱそうか……」
リオさんとのコラボ以降、リスナーが一気に増えた気はしていた。
その増えた中にはリオさんのリスナーが大半だった。
『どうかしたんですか?』
「いや、自分の配信にリオさんのリスナーさんが来てくれるようになったんですけど、彼女のユーザーを奪ったような気持ちになっているんですよね……」
『そんなことはないですよ! アオバさんの配信に来たからってリオさんのリスナーを辞めてるわけではないですから』
マネージャーの言うことに関して理解はしている。
単に自分が納得できるかどうかだ。
『事務所側からしたらコラボした甲斐がありましたし!』
「そうですよね……」
その後、何度もマネージャーから深く考えないようにと言われたが、気持ちが晴れることはなかった。
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「そういやアオバの登録者数が1万超えたんだってな! ゲー友としては嬉しい限りだぜ!」
次の授業が休講になったため、聡太と一緒に学食へ行き、一息つくと突如声を上げていた。
ってか聡太ってゲー友だったのか、てっきり彼ぴかと思っていたが。
「聡太ってアオバの配信みてたのか?」
「あれ、言ってなかったか? チャンネル登録して毎回配信みてるぞ?」
聡太の言葉に思わずウルッとなりそうになってしまう。
「まあ、リオたんはメンバーシップ登録までしてるぜ、スパチャ送るためにバイトしてるといっても過言ではない!」
自身たっぷりに応える聡太。
余計なことを言わなければ昼飯でも奢ってやろうかとおもったのに、残念な奴だ。
「なんかさ、アオバのゲームの趣味って俺らと近い気がするんだよな、たまにレトロゲームのプレイ配信やるけどドンピシャなのやるし」
そりゃまあ、中身がお前と同い年だしな。
そんなこと口が裂けても言えないけど。
「アオバの配信で燃え上がったあと、リオたんの配信を聞いて萌え散らかすわけよ! そんで燃えと萌えが合体してできあがった欲望をそのまま——」
「——わかったからそれ以上話すな、ついでに変な動きをしている右手をさっさと下ろせ」
聡太がリオさんのことをそういう目で見ているのは知っていたが、中の人がわかる側からすればいたたまれない気持ちになってしまう。
「ってか、この前のリオたんとアオバのコラボ配信みたか? いいよなあ俺もリオたんにprprされてーなあ!」
聡太は羨ましそうな顔でスマホへ釘付けになっていた。
「……あんまりいいものではないけどな」
俺のささやかな呟きはリオさんのライブ配信動画へ夢中になっている聡太の耳に入ることはなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「アオバきゅん! スタッフさんが私たちのためにベッドを用意してくれたよ!」
「違います! 案件で紹介する商品ですよ!」
もやもやを抱えながらも数日が経ったある日、俺と渋谷先輩は案件配信のため、事務所を訪れていた。
事務所の大きなフロアには先日マネージャーから説明のあった『NESOBERU』社の新商品のマットレスの紹介配信を行う。
実際にマットレスを敷くためにベッドを用意してもらい、感触や寝心地などを思ったことを伝えていくのだが……
「マットレスの感触を楽しみつつアオバきゅんと同じベッドでゴロゴロするんだよ!」
渋谷先輩は碧南璃碧になった途端、二重人格かと思えるぐらいキャラが豹変していった。
最初から彼女のリスナーが言う『もう一人の彼女』モードだ。
「リオさん、今日はちゃんとしましょうね! フロア外にいる案件元の人たちが下向いてるじゃないですか!」
「よく見てみなよアオバきゅん! 下向いてる人小刻みに震えてるでしょ?」
「そんなわけ——」
再度、鏡越しに映る案件元の人たちを見ると、リオさんの言うとおり下を向いてプルプルと震えていた。
「つまりは案件元さんもアオバきゅんをprprする姿を見たがってるって言うわけよ!」
「リオさん言ってることがメチャクチャですよ! そんなこと言ってると彼ぴさんも——」
:リオたんの暴走をみてるだけでご飯3杯いけるぜ
:リオたーん! おれがアオバだ! prprしてくれ!
:わたしもアオバきゅんをprprしたーい!
:俺もアオバきゅんぺろぺろしたいぜ
フロア内に置かれたディスプレイを見てリスナーに助けを求めるが、自分の助けがいないことを悟る羽目になってしまう。
「さあアオバきゅん、おとなしくおねーちゃんと一緒にベッドでゴロゴロしようね! あ、スタッフさん!枕とお布団もお願いします!」
「がっつり寝る気満々じゃないですか!」
リオさんの暴走に巻き込まれるアオバがリスナーや案件元に刺さったのか、配信は大賑わいの中終えることができた。
「久々に涙出るほど笑ってしまいました……!」
「配信のおかげかさっきから予約電話が殺到していますよ」
案件元の方々は次の新商品も俺たちに任せたいと言って深々と頭を下げるとその場を後にした。
「片付けはスタッフでやりますので、リオさんとアオバさんはそのまま帰っていただいて大丈夫です!」
片付けを手伝おうとするも俺のマネージャーにそう言われてしまい、俺と渋谷先輩はエレベーターへと乗っていく。
「葵くん、この後暇だったりする?」
エレベーターの中で暴走状態の碧南璃碧が抜けきれてないのか、若干目が血走っている渋谷先輩に声をかけられた。
もちろん、そんな状態の彼女に抵抗できることもないわけで……




