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第8話 お隣さんと大事なお知らせと

「そういえば、さっきまで誰かと話していたのか?」


 大崎さんは吸っているタバコの煙を吐き出しながら話しかけてきた。


 「……もしかして声漏れてました?」

 「あぁ、卑猥な声がダダ漏れだったな、若いから仕方ないとは思うが少しは周りにも——」

 「——絶対に聞こえてないですよね?」


 リオさんの暴走にツッコミを入れるために何度か騒いだ覚えはあるが、この人がいうような声は一切出していないはず。

 ——たぶん。


 「まったく冗談が通じない少年だな、1人寂しい女のためにノッてくれてもいいじゃないか」


 そう告げると大崎さんは吸い殻を彼女の足元にある灰皿へと捨てていく。

 そしてすぐに新しいタバコへ火をつけていった。


 「まあ変な声は聞こえなかったが、叫び声は聞こえてたな」

 「……すみません、防音対策はしているんですが」

 「別にいいよ、少年の声のような可愛い声が耳に入ることは不快に思わないしな」


 そう言って大崎さんはタバコを吸ってからすぐに上空へと向けて煙を吐き出す。


 「ショタ系Vtuberの声なんて滅多に聞けるもんじゃないしな」


 大崎さんの言葉に俺は返そうとしていた言葉が詰まってしまう。


 「大崎さん、お願いですから大きな声で言わないでください、これ以上バレるのは勘弁なんですから……」

 「大丈夫だ、この時間帯にベランダ出てるやつなんていないだろ、ちなみに一番奥の部屋に若い女が入っていったから今頃は——」

 「——これ以上はやめてください」


 俺が大きくため息をつく。

 大崎さんには俺がVtuber蒼海蒼葉であることはバレている。

 きっかけは配信中に叫んだ声が彼女の部屋へ漏れてしまったことが原因。

 しかもタイミング悪く、その配信をライブ配信を見ていたようだ。


 今日のようにたまたま、ベランダ出た時に大崎さんと出会しそのことを言われた。

 それが彼女との出会いでもある。

 一応謝罪してから、マネージャーに報告して引っ越しも考えたが、引っ越さなくても大丈夫になった。

 ちなみに事務所にどういった対応をしたのか聞いてみたものの、マネージャーから笑顔ではぐらかされてしまった。

 

 「今日は碧南璃碧とのコラボだったんだろう? 随分と気に入られたみたいだな」

 「配信見てたんですか?」

 「そりゃ、私もゲー友の1人だからな」

 「ありがとうございます……」


 俺が彼女に向けて頭を下げると、大崎さんは嬉しそうな顔でこちらをみていた。

 あと、彼女のいう『ゲー友』というのはアオバのリスナー名のことだ。


 「っと、タバコが切れたから買ってくるとするかな、少年はまだ起きてるのか?」


 大崎さんは空になったタバコの箱を握り潰す。

 

 「やっと眠気が来たのでこのまま寝ることにします。 コンビニ行くならちゃんと服着ないと通報されますよ」

 「なるほど、遠回しに私の着せ替えをしたいということか、少年がそういうなら付き合っても——」


 彼女の言葉にため息で返した。

 それを見ていた大崎さんはケラケラと笑ったあと、「それじゃあな」と告げると部屋へと戻っていった。


 「……何でいつも振り回されるんだろうな」


 彼女の姿が見えなくなった後、独りごちなら俺も部屋へと戻り、そのままベッドへとダイブしていった。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「まったく相変わらず面白いな少年は」


 コンビニの袋をテーブルの上に放り投げてから椅子に座る。

 袋からは吸っているタバコの箱と適当に目についた雑誌の一部が見えていた。


 「もうこんな時間か……」


 スマホを取り出し、画面に表示されている時間を見て、思わず呟く。

 どうやら大塚少年と結構な時間、話していたようだ。

 眠気が来るまで、動画配信サイトで適当に動画を見てようかと思ったが、見たいと思えるものが見つからなかった。

 

 「いっそのこと、別の動画で一人耽るのもありか……」


 そう思い、ブックマークを開こうとすると、チャットアプリの通知が入った。

 アプリを開くと、送信先は仕事先からだった。


 「おいおい、こんな時間に連絡よこすなんてあそこはブラックなのか?」


 相手のことを心配に思いながら送られた内容に目を通していく。

 最後に添付されたファイルを開くと、思わず笑みがこぼれてしまう。


 「まったく、面白そうな注文書送ってくるじゃないか、これは当分引き篭り確定だな」


 そんなことを独りごちながら相手に送る返信内容を入力していく。


 ——大事な息子と娘のために頑張らせていただきます。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「そんじゃ明日は学校だから今日はそろそろ寝るわ! みんなまた明日な!」


 :えー! お姉さん、アオバきゅんともっと遊びたいー

 :クリハンの素材があつまったぜ、アオバありがとな!

 :1時間があっというまにすぎていったぜ……


 永遠と思えるぐらいの流れてくるコメントを見つつ、画面はエンディング映像が流れていった。


 そしていつものルーティン作業を行いながら、最後にヘッドフォンを外す。


 「なんか日に日にリスナーが増えてるような気がする」


 特にリオさんとコラボをやってからそう感じるようになった。

 

 あの波乱のリオさんとのコラボから数日が経った。

 俺は変わらず、毎晩配信をしているのだが、前よりもコメントの量が視覚的にもわかるぐらい増えていた。

 

 「なんか嬉しいけど、リオさんのリスナーを奪ってるみたいなんだよなあ……」


 リオさんの配信でゲームの話をしたせいか、リオさんのリスナーが来てくれるようにもなった。

 俺の配信を見るために彼女のリスナーをやめてるわけではないけど、奪ってるような感覚がしてしまう。

 気にしたら負けなんだけどさ……


 そんな答えのでないことを延々と考えていると、状況をかき消すようにスマホから爆音が流れ出した。

 画面を見ると、マネージャーから連絡がきていた。

 

 「もしもし、大塚です」

 『あ、アオバさん!! ビッグニュースです!!!』


 興奮気味のマネージャーの声に耳の中に鋭利なものが突き刺さる感覚を覚える。


 「ど、どうしたんですか?!」

 『アオバさん、落ち着いて聞いてくださいね!』


 いや、まずは落ち着くのはマネージャじゃないかと思いながらも「どうしたんですか?」と返す。


 彼女の口から出たのはチャンネル登録者数が1万を超えた話だった。

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