第7話 コラボ配信後にて
『もっとアオバきゅんをprprしたいのにもうこんな時間だね』
リオさんの言葉に反応するようにPCに表示されている時計を見ると配信開始から2時間近く経っていた。
彼女の暴走状態が続いており、それに対してツッコミを入れるので精一杯になっていたので時間のことをすっかり忘れていた。
:いつもとは違うリオたんが見れてよかったぜ
:アオバのツッコミも面白かったぜ
:俺もリオさんにツッコミたかったぜ(意味深)
:↑こいつを通報しときますた
コメントを見て、安堵の息をつく。
初めてのコラボということや、彼女のリスナーに受け入れてもらえるか心配していたが、杞憂に終わったよかった。
『最後にアオバきゅん何か連絡とかある?』
「そうですね……ってリオさん近いですって!」
何を言おうか悩んでいるとリオさんのアバターがゆっくりとアオバの方へと近づいていた。
『最後にアオバきゅんの匂いだけでも堪能しておこうかと思ってー』
リオさんは最後にぐっへっへとわざとらしく笑っていた。
「え、えっとですね、明日の夜に配信がありますので、よかったら遊びに来てください……!」
『ホント!? それじゃ遊びに行こうかな!』
興奮気味の声と同時にまたもやアバターをアオバに近づけるリオさん。
「リオさん、その時間は配信がありませんでした?」
念の為、事務所で公開されているスケジュールを確認すると同じ時間帯に自分とリオさんの名前が書かれていた。
自分はゲーム配信で彼女は同じ事務所の先輩とコラボになっていた。
『ホントだ……! アオバきゅんの配信あるとわかってたらこの日にオッケーしなかったのに……!』
悔しそうな表情を浮かべるリオさんだった。
『名残惜しいけど、今日の配信はここまで! アオバきゅんまたprprさせてねー!』
「……どれだけすれば満足するんですか、彼ぴのみなさん、来てくれた僕のリスナーさんありがとうございました!」
:リオさん明日も楽しみにしてるぞー!
:はっ! アオバきゅんの声を堪能してたら時間が飛んでた!?
:アオバの配信も見てみたいが、明日もリオたんの配信もある、どうしたらいいんだ?
:いっそのこと2窓とか?
:おまえ、天才か!
俺たちの挨拶に反応してコメントが一気に流れていく。
そして配信終了を告げるエンディング画面へと切り替わっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふぅ……」
リオさんのエンディング画面を映し出されてから少しして、パソコンがシャットダウンしたのを確認してからヘッドフォンを外す。
アオバから大塚葵に戻るための一種のルーティンだ。
「楽しかったけど、緊張したぁぁぁぁぁ」
勢いよく両腕を上へと突き上げると関節がバキバキと音を立てていた。
長時間同じ体制でいたからだろう。
「それにしてもやっぱリオさんは人気vtuberなだけあるよな、配信を盛り上げるためにあんなキャラになることができるんだから」
そのおかげもあってか気がつけば緊張していたことも忘れていたぐらいだ。
俺もそれぐらいできるようになりたい……。
そう思いながらゆっくりと立ち上がり、リビングにある冷蔵庫からお茶が入ったペットボトルを取り出す。
気がつかないうちに喉が渇いていたのか、一口つけただけでゴクゴクと音を立てて飲み続けていた。
「さてと、どうするかな……」
いつもなら配信後は疲れからかすぐに寝てしまうが、今日に限っては先ほどの配信が楽しかったことによる興奮状態が続いているせいなのか、眠気が来ることはなかった。
ふと視線は窓の外へ。
全て覆い尽くすほどの真っ暗な夜空の中、大きな満月が煌々と輝いていた。
「久々にベランダでぼーっとするのもいいかもな」
そう呟くとそのままベランダへと向かっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「何か風が気持ちいいな……」
ベランダに出てると夜風が体に触れ、心地よさを感じていた。
昼間は軽く汗ばむぐらいの気温だが、夜になるとまだまだ涼しかった。
もう少し経てば茹だるぐらいの猛暑がやってくるのだが……
ベランダの柵に正面からもたれかかりながらボーッと大きな満月を見つめていた。
もちろん理由なんてない、強いて言うなら目の前で大きな月が浮かんでいるからだろうか。
「人気になるってどうしたらいいんだろうな……」
思っていることを口に出すも、答えてくれる人はこの場には誰1人としていない。
虚しく上空に消えていくのみだ。
「声がしたと思ったら、まさかの少年じゃないか」
誰もいないと思っていたので、突如聞こえた声に体をビクッとさせてしまう。
恐る恐る声の方へと視線を向けると、隣の家のベランダに1人の女性が立っていた。
——黒の下着姿というとんでもない姿で。
「こんばんは、大崎さん……こんな時間に起きているなんて珍しいですね」
彼女は俺の部屋の隣に住む、大崎さん。
年齢は俺はともかく、渋谷先輩よりも上だろう。誰もが想像する綺麗な大人の女性といった感じだ。
「何か窓見たらでっかい満月が映っていたから気になって外でてみたんだ」
銀色のウェーブの掛かった髪をふわっと書き上げると手に持っていたタバコを取り出して口に咥え、ライターで火をつけていく大崎さん。
俺と同じように柵にもたれかかりながら、吸ったタバコの煙を夜空へと吐き出していた。
「……それにしてもその姿でベランダとはいえ外にでるのはどうなんですか?」
大崎さんはモデルではないかと思えるような整ったスタイルをしている。
下着姿だからはっきりとラインが見えてしまっているのだが……
「こんな時間だし、誰もみてないだろ? まあ、見てるやつがいればご自由にどうぞって感じだな」
ちなみに最初会った時は驚きのあまり、こっちが両手で顔を覆ってしまっていた。
「って言ってる割にはずっとこっちを見てるじゃないか。 もしかして処理に困ってたりするのか? 満月が見れて気分いいから特別に——」
「……困ってません」
俺が大きくため息をつくと大崎さんは俺を見ながらケラケラと笑っていた。




