第10話 まだまだこれから!
「アオバきゅんの登録者数1万人突破を祝ってかんぱーい!」
エレベーターの中で渋谷先輩に声をかけられ、有無を言わさず連れてこられたのは以前行った居酒屋だった。
平日ということもあってか前と同じように個室へと案内をされたると同時に先輩はビール、俺はコーラをそれぞれジョッキで頼んだ。
そして注文したものがやってくると、先輩の乾杯の音頭をとっていった。
「先輩、知ってたんですか?」
勢いよくジョッキに注がれたビールを飲む先輩の姿を見ながら話しかける。
すると、ジョッキを勢いよくテーブルへと置く先輩。
相当喉が渇いていたのか、ビールが既に半分近くまで減っていた。
「私がアオバきゅんのことを知らないわけないでしょ!」
先輩は少し座った目でこちらを見ていたが、すぐにいつもの優しい表情へと戻る。
「っていうのは冗談だけどね、たまたま葵くんのマネちゃんと飲んだ時に聞いたんだよ」
「うちのマネージャーと飲む仲だったことに驚きですけど……」
「そう? めぐちゃんとは歳が近いし、二人ともお酒が好きだからよく連絡とって遊んだりもしているんだよ」
先輩のいう『めぐちゃん』というのは俺のマネージャーのことだ。
たしか本名は高田めぐみだったはず。
いつもマネージャーとしか呼ばないため、確かではないけど。
「それでめぐちゃんから聞いたけど、リオの彼ぴを奪ってしまったって思っているって聞いたよ?」
先輩の口からそのことが出て心臓が跳ね上がる感覚を覚える。
ってかマネージャー、そんなことまで話していたのか……。
黙っていようと思ったが、先輩がずっとこっちを見ていたので、居た堪れなくなって素直に答えることにした。
「もー、考えすぎだよ! こう言う時は素直に喜ぶべきなのに〜」
先輩はそう言ってジョッキに残っていたビールを飲み干す。
そして店員に声をかけて、ビールと適当に料理を注文していく。
「マネージャーにも似たようなことを言われましたけど、何か納得できなくて……」
あれからマネージャーにどこから登録してくれたのか、色々駆使して調べてくれていた。
主にゲームやPCの総合情報サイトに載せたバナー画像や、クリハンでリオさんを助けた直後の呟きったーのトレンドから来ていることがわかった。
それでも一番多かったのはリオさんとのコラボ直後、彼女のリスナーが一番多かったとのこと。
「私は奪ったなんて思ってないよ、むしろ私と一緒にコラボをしてアオバきゅんの登録者数が増えたなら嬉しいよ!」
先輩がそう話していると注文したビールと料理がやってきた。
「それにアオバきゅんとは同期なんだし、一緒に『カラーズ』を盛り上げていこうよ!」
先輩の言うカラーズというのは事務所のVtuberグループの名称のことだ。
他社のグループに比べたらまだまだ小さな箱ではあるが、リオさんの人気もあってか少しずつ認知度も増えてきている。
「そうですね……と言っても何ができるか未だわかってないですけどね」
「そんなすぐに何かやると言うよりかは、地道に配信を続けていって、もっといろんな人に知ってもらうことが大事じゃないかな、お互いに」
「リオさんは充分すぎるかと思いますけどね、50万人行って今も伸びているんじゃないですか?」
「50万人なんてまだまだ下の方だよ! 100万人超えてる人だってたくさんっいるんだし!」
先輩はそう告げると、再びビールを勢いよく飲んでいく。
「それにこの前だって、大手事務所のコスプレイヤーVtuberさんが400万超えたっていうし、そんなのと比べたら私なんて下の下なんだから!」
「たしかにそうですね……」
「だから私もアオバきゅんもまだまだ頑張らないと! でもリオというか『おねーちゃん』の立場からしたらアオバきゅんが誰よりも人気になってくれるのが嬉しいかも」
先輩は顔を少し赤ながら、残りわずかになったジョッキをこちらにむけてきた。
「これからも一緒に頑張ろうってことで、もう一度かんぱーい!!」
俺は言われるがままに氷で色が薄くなったコーラが入ったジョッキを突き出すと、個室内に甲高い音が響き渡っていった。
「あ、ちょっとごめんね〜」
先輩は申し訳なさそうな表情でゆっくりと立ち上がる。
「……どうしたんですか?」
俺が話すと先輩は唇を突き上げながらこちらを見ていた。
「もう、アオバきゅんは女の子の気持ちがわかってないなあ! お手洗い! あ、もしかして遠回しに一緒にトイレ行きたいって言ってる? うーん、さすがにおねーちゃんでもそういった趣味には——」
「——俺が悪かったです!」
俺がため息をつくと、先輩は含みのある表情を浮かべながら個室から出ていった。
「……つかみどころのないキャラがリオさんの人気の秘訣なのかな」
独りごちながら俺は彼女が注文した軟骨のからあげを箸でつまんでいった。
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「遅いな……」
先輩が個室を出てから20分近く経ったのだが、戻ってくる気配はなかった。
休み前なら、混雑して待っている可能性はあるが、なにせ今日は平日だ。
戸を開けて店内に耳を傾けてみるが、そこまで混雑しているようには見えなかった。
「……ちょっと探してみるか」
勢いよくビールを飲んでいたので、もしかしたら酔い潰れたのかもしれないと思い、すぐに個室から出た。
「おいおい、ぶつかっておいてお詫びをしないのはどうかとおもうなぁ……」
個室を出ると、男の声が聞こえてきた。
「す、すみません……怪我とかないですか?」
そしてすぐに掠れるような渋谷先輩の声も聞こえてきたのでその場へ向かうと、トイレの入り口で金髪の男が渋谷先輩をドアへと押しやっていた。
男は長身のため先輩を見下ろす構図になっている。先輩からすれば相当な圧がかけられていることだろう。
「そりゃいてーに決まってるよな! ドアが華奢な俺の体にぶつかったんだからな!」
男の声は店内へと響き渡っていた。
突然の大きな声に先輩は体を震わせていた。
すぐに俺はその場へと駆け寄り、男へ声をかけた。




