第4話 英雄アオバ爆誕
『うー、結構マズイかも』
スタンドに立てかけたスマホからはリオさんの苦しむ声が聞こえていた。
ゲームのクエストカウンターの前でいつでも彼女のパーティに入れるため、PCのディスプレイに集中しているので詳しい状況はわからないが、声のトーンから状況は悪化しているようにも思えた。
今すぐにでも救援に向かいたいが、クエストカウンターの彼女のパーティは『満員』と表示され、入ることはできなかった。
『あー! 武器が壊れたぁぁぁぁぁ!!』
突如、リオさんの叫び声が聞こえてきた。
硬い敵を斬りつけすぎたのか、使用している武器が壊れてしまったようだ。
このゲーム、敵の討伐中に武器が壊れても倒せれば修復されるのだが、失敗した場合壊れた修理されずに失ってしまうという厳しい仕様になっている。
先ほど作ったばかりと話していたので、もし討伐失敗となったら悲しむに違いない。
「せっかく作った武器が無くなるのってヘコむんだよね……」
自分もお気に入りの武器を壊され、失った時は数日プレイできなくなるほどだった。
友人達の励ましやもう一度作るための素材集めを手伝ってくれたので、立ち直ることができたが。
『あぁぁぁぁぁ! プレイヤーさんがいなくなっちゃった!』
リオさんの声が聞こえたと同時にクエストカウンターの表記が『OK』と切り替わった。
「よし、今だ!」
俺は声を上げながら勢いよくコントローラーのボタンを押していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
:あぁぁぁぁぁ! リオたんの武器壊れたぞ!
:この前、最新のハンマー作ったし、救援いくから誰か落ちろよ!
:参加してるやつら目立ちたがり屋ばかりかよ!
:あれ、1枠空いてね?
:そういや噛みつかれて倒れたヤツいたけど、3乙目だったのか
:おっしゃ!俺が今からって……あれもう埋まった?
:ま?
:おい、敵の鱗が砕けたぞ!
:まじで! 入ったやつGJ!
:一発で粉砕するなんて相当やり手じゃねーか!
:なんてやつだ?
:えっと……『aoba』ってやつだな
:あれ、そのプレイヤーネーム見覚えあるな、たしかVtuberだった気が
:もしかして蒼海蒼葉か? たしか前にアイツもリスナー参加型でこのゲームやってた時にそんな名前だった気が
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『あれ……敵が動かなくなってる!?』
敵のヘイトがリオさんたちに向いてる隙をみて、ハンマーで叩きつけると覆っていた鱗を粉砕することに成功したのを確認するとすぐにゲームを終了させた。
スマホのほうへと視線を向けると先ほどまで、倒れているモンスターに攻撃をしている画面が映しだされていた。
この調子なら残った彼女のリスナーさん達でも倒せるだろう。
『やったぁぁぁ! 倒せたぁぁぁ!』
スマホのスピーカーから勝利のBGMが聞こえているのでどうやら倒せたようだ。
:リオたんおめでとう!!!
:壊れた武器も修復できるしよかったよかった!
『武器が壊れた時は絶望的になったけど、よかったよー!』
スマホからリオさんの喜びの声が聞こえてきた。
よほど嬉しかったのか、若干涙声になっているような……
:あかん、リオたんの嬉しそうな声聞いてたら涙腺緩んできた
:いかん、雨が降ってきたな
:おいおい、雨なんか、降って……
:そうですね……
:なんだこの流れ 草
流れてくるコメントを見て楽しんでいたが、彼女が配信を始めて結構な時間が経っていたのもあって徐々に目が重くなっていた。
「さすがに今日は寝るか……」
スマホの動画配信アプリを切るとそのまま布団の中へと入るとすぐに夢の世界へと旅立って行った。
——まさかこの後とんでもないことが起きようとしているとは思いつくはずもなく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『そういえば、突然敵が動かなくなったんだけど、何があったの?』
:1人が3乙した直後にハンマーもったやつが参加して、そいつが鱗を破壊したんだよ!
:一撃で粉砕してたから能力厳選しまくったハンマーなんじゃね?
『そうなんだ、何ていうプレイヤーさんか見てた人いる?』
:たしか、『aoba』ってプレイヤーネームだったね
:さっきもコメントであったけどその人って蒼海蒼葉だよな? たしかリオたんと同じ事務所の
『アオバきゅん来てくれてたの!?』
:ってかアオバって誰?
:知らねーのかよ、リオたんと同じ事務所の男性Vだよ
:ゲーム配信がメインだよな、最近は『アケロク』がメインだけど一時期この『クリハン』もやってたよな
:そうなんか? 前見た時はレトロゲーやってたぞ
:マジか! ワイ、レトロゲー好きだから今度行ってみようかな
『アオバきゅんめちゃくちゃ可愛んだよねー! 私好みのショタ! アオバきゅんいるだけでご飯何杯でもいけちゃう! じゅるり』
:ショタに反応して、『もう一人』のリオたんが出てきたぞ
:このリスナーの中に衛生兵はいないのか!
:今必要なのは除霊師だ! 清楚なリオたんを取り戻すんだ!
『コホン! 冗談はさておいて、アオバきゅんは私の大切な仲間でもあるから、もし気になった人は彼の配信も行ってみてね! あとで概要欄にURL貼っておくから』
:イエス、マム!
:実はワイもショタ好きだから、アオバきゅんが気になってきた!
:リオたんの仲間なら俺の仲間でもある!
:待ってろよアオバきゅん!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『アオバさんお疲れ様です!』
脳が完全に覚醒していない状態で鳴り響くスマホを手に取り、ガラガラの声で応答するとマネージャーの声が耳に突き刺さってきた。
「……おつかれさまです、どーしました?」
「今すぐツブヤキッター見てください!」
ゆっくりと体を起こし、マネージャーの言う通りにSNSアプリの『ツブヤキッター』を開く。
「えっ……!?」
開いてすぐにこれまでと違う箇所に目が入ると同時に変な声が出てしまっていた。
「英雄アオバ……?」
ツブヤキッターのトレンド欄に表示された文字に目が行った。
もしかしたらソーシャルゲームの人気キャラの名前かもしれないと思いつつもそのテキストをタップしていく。
——リオたんの窮地を救ったアオバさん△
——アオバの配信に興味がでてきた!
——昨日のリオたんの配信みてたんだけど、ディザリオスの鱗を1撃で破壊したのが男性Vのアオバってマジ?
——昨日のアオバはマジで英雄と言わざるを得ない!
——英雄アオバ誕生の瞬間である
——リオたんの民よ、英雄アオバを讃えよ!
書かれていることは昨日のリオさんの配信のことだった。
その中で俺のプレイヤーキャラ名が書かれている呟きがあった。
急ぎだったので、最後に使った『aoba』を選択していたが、今になって思えば別のキャラを使えば良かったと思ってしまう。
『アオバさん、昨日リオさんとコラボでもしてたんですか?』
「えっとですね……」
マネージャーに昨日の経緯を説明すると、先ほどまでは興奮気味に話していたが、今は「うんうん」と頷いていた。
「すみません、もしかして余計なことでした?」
『炎上とかしてたら大変でしたけど、見てる限りそんなことなさそうなので問題なしです』
再び興奮気味になったマネージャーの声を聞いて安堵の息をつく。
『あ、ちょっとすみません、呼ばれたので一旦保留にしますね!』
相当慌てているのかマネージャーはそう告げると、俺の返事を待たずに保留のボタンを押したようで、スマホからクラシック音楽が流れ始めた。
何かあったのか?
『あ、戻りました! アオバさんに朗報です!』
5分ぐらいして流れていたクラシック音楽がピタッと止まり、マネージャーの声が聞こえてきた。
さっきよりも声量が大きくなっていた。
「おかえりなさい、何かあったんですか?」
『さっきリオさんのマネージャーさんから言われたんですが、昨日のお礼を兼ねて今週末リオさんの配信にアオバさんを呼びたいって仰ってるみたいなんです!』
「……ってことはつまり?」
先ほどまでとは比べ物にならないぐらい大きな声で「リオさんとのコラボです!」という声が部屋中に響き渡っていた。
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