第38話 いつか叶えたい夢
『悪いな、お前と連絡取りたかったんだけどさ……ここぐらいしか知らなくて』
チャットツールの『雪城雪夏』から連絡が入っていたことに驚きつつも返信をするとすぐに返信が返ってきた。
というかそもそも卒業すると同時にアカウントって削除されるんじゃないのか?
色々なことを考えながらも次々とメッセージの送信と返信を繰り返していった。
何度かやり取りをしているうちに、なりすましではなく本人だと確認できたので、通話で話すことに。
「……だからってこのアカウント使わなくても他に連絡とれたでしょ……最初アカウントの乗っ取りかと思ったよ」
俺の心配を嘲笑うかように『www』だけのメッセージが返ってきた。
『実際これぐらいしか連絡手段なかったんだって、スマホの番号も変わってたし』
「……番号変わった時に連絡したんだけどね、繋がんなかったけど」
『あの時なら電話の音すら恐怖に感じてたから、出てなかったかもな』
あの時と言うのは彼を陥れた女性を応援していた不特定多数のリスナーから誹謗中傷を受けていた時だろう。
『まあ、細かいことは気にするなって……兄弟水入らずで話すなんて久々なんだからいいだろ?』
悪びれる様子が微塵もない雪夏の声を聞いて俺はため息で返した。
「……別に兄さんと話すのはいいけど、ここだと色々マズいから」
そう言って、別のチャットツールであるLIMEの連絡先を教えた。
するとすぐにスマホのLIMEアプリの通知が表示された。
『大塚槿さんとフレンドになりました』
そのメッセージを見て、表示名が本名かと思いながら画面をタップして通話を開始した。
——それにしても久々のLIMEで追加フレンドが実の兄になるなんて。
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「まったくそれにしても、随分と元気そうだね……最後に会った時は今にも消えそうな感じだったのに」
忘れもしない、最後に見た時の兄の姿を。
昼間でも真っ暗な部屋で部屋の隅で座っていただけ。
話しかけても無反応、たまに反応してもこちらを見るだけで言葉を発しようとはしなかった。
『あの時は一番辛かった時だったしな、週に何回かカウンセリングとか病院に行ったりしているうちに元へ戻りつつあるかな』
あの時の兄の様子を見た、俺や両親はすぐに兄を病院まで連れていった。
精神的に追い込まれたことで食べ物が喉に通らず、栄養失調寸前であったのでまずは入院させることに。
入院中に味はともかく栄養のある食事を摂ることで体力と心の方も回復することができた。
退院と同時に病院からの勧めでカウンセラーの先生を紹介され、週に何度か足を運ぶようになった。
『最初は外に出るのは嫌だったけどな、陽を浴びながら病院へ通ってるうちに段々と怖さとかもやもやが晴れていったんだよ! いやあお天道様って素晴らしいんだな!』
陽気な口調で話す兄の言葉に安堵感を覚える。
「昔のような兄さんに戻れたならいいんだけどね」
部屋の隅で何もしない姿を見たからこそ、こうやって喋ってくれることが嬉しく感じる。
『でさぁすぐじゃないんだけど、やりたいことがあるんだよ』
「……何をするの?」
『もう一度配信者としてやり直そうと思っているんだ』
兄の言葉に俺は自分でも驚くほどの大きな声をあげていた。
『もちろんカウンセラーの先生とは要相談だけどさ……もう一度やりたくなってきたんだよ配信者を!』
力強い言葉で話す兄。
止めなければならないんだけど、一度決めたことを撤回しない兄の性格を知っていたので、ため息をつくことしかできなかった。
「兄さんがそこまで口にするってことはこっちが何を言っても聞いてくれないからご自由にしてくれ」
『ありがとな、葵ならそう言ってくれると信じてたぜ』
兄からすれば血を分けた兄弟がどう答えるのかわかっていたにちがいない。
『もし、もう一度配信者としてできたら、やってみたいことがあるんだよな』
「やりたいこと?」
『おう、蒼海蒼葉とコラボしてみたいんだよな』
兄の言葉に心臓が跳ね上がる感覚を覚える。
『母さんからお前が蒼海蒼葉として頑張っているって聞いてさ、気になってアーカイブ見てみたんだよ』
Vtuberとして活動をした時は未成年で親の承諾が必要なため、両親は蒼海蒼葉が大塚葵であることは知っている。
兄とは連絡が取れないってこともあったが、配信に繋がることだったので伝えてはいなかった。
両親には家族以外に伝えないでくれと伝えていたが……まあ、実の兄だから別にいいのだけれども。
『最近、徐々に登録者も増えてきて、人気配信者になっているみたいだな、兄としては鼻が高いぞ!』
「……全然だよ、それに人気になったのはリオさんのおかげだし」
俺がそう答えると兄は黙ってしまう。
何か俺、変なこと言ったか?
『まあ、そういった謙虚さも人気の秘訣になるのかもしれないな……』
もぞもぞと何か言っていたがうまく聞き取れなかった。
最後のため息だけは聞こえた。
『いつになるかわからないけど、復活した時はちゃんと連絡するからな! できれば雪城雪夏として復活したいけど、無理だと思うから別のキャラに転生かな』
嬉々として今後の展望を話していく兄だった。
しばらくして兄が寝る時間だと話していたので、通話を切った。
「……元気そうでよかったと思うか」
独りごちながら俺はゲームのアイコンをクリックしたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ピンポーン!
突如聞こえたチャイムの音で目を覚ます。
スマホで時間を確認すると、もうすぐ昼になりそうな時間が表示されている。
さすがに明け方までゲームをしてたからこのぐらいになることは覚悟していたのだが……
「こんな時間に誰だ……?」
ネットショッピングで注文した覚えはないし、そもそもここに人がくることはない。
「そういえば……外が若干騒がしい気もするけど」
そう考えている最中にも何度かチャイムが鳴ったので慌ててドアホンのスイッチを押す。
画面に映っていたのは……
『あ、こんな朝早くにすみません! 隣に越してきた渋谷と申します! もしよろしければ挨拶できればと!』
ドアホンの画面に映っていたのはよくみかける人に似ている……気がした。




