第37話 元通りそして……
「この部屋ともお別れかぁ、気に入ってたのになあ……」
自分の目の前で渋谷先輩が呟きながらダンボールに荷物を詰めていた。
「仕方ないですよ、あんなことが起きてしまったんですから……」
あんなことと言うのは、先輩の同じゼミ生、鶯谷京介によるストーカー事件のことだ。
あの時は精神的に追い込まれてしまい、配信や大学を休まざるを得なくなっていた。
ちなみに、俺が鶯谷京介と話した後についてだが……
呆れると言うかどうしようもない結末を迎えていた。
「……人間落ちるとあーなるんだな」
俺が忠告したにも関わらず、あの男は先輩……彼の主張をそのまま言うのであればリオさんの家を性懲りもなく探していた。
そして、ついに見つけたのはいいが……
「うちの悠香に何かご用かしら?」
どうやらマンションの入り口でタイミング悪く、馬場マネージャーに見つかってしまう。
同じゼミ生であれば、見舞いに来たとか誤魔化せばよかったものの、邪な考えが全面的に出てしまっていたのか定かではないがその場から逃げ出そうとしたようだが、毎日ジムで走り込んでいるの彼女から逃れられるわけもなく捕まってしまう。
——まあ、真面目に答えようとしても、自分から馬場マネージャーには報告していたので、見つかった時点で色々と終了しているのだが。
その後はコッテリと家族に扮した馬場マネージャーにコッテリと絞られたようだ。
まあ、そこで懲りていればよかったのだが……
あの男はSNSで今回のことを書き込んでしまう始末。
本人からすればリオさんの家を突き止めることで、承認欲求が満たされると思ったのだろう。
——結果は逆に彼ぴから総攻撃を受ける羽目になってしまう。
怒り頂点になった彼ぴはSNSでの攻撃では済むはずもなく、どんなルートを使ったかはわからないが、名前から住んでいる場所、挙句には大学まで知られてしまう。
怖くなったのか、あの男は大学に姿を見せていないようだ。
「……余計なことしなければよかったのに」
ため息をつくと同時に、思っていることが声に出てしまっていた。
ちなみに事の顛末に関して、渋谷先輩の耳には入っていない。
あんな男でも彼女にとっては同じゼミの仲間なので、責任を感じてしまう可能性も考えた結果、関係者にはそう伝えられている。
彼ぴには一切公表はしていないが、暗黙の了解となっているのかわからないが、彼女の配信やSNSでも話されずにいた。
何て言うか……ファンの結束ってすごいと感じた。
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「これで最後だね」
先輩はダンボールの口にガムテープを貼り付けてからマジックペンでダンボールの上に『機械類』と書いていた。
ちなみに中身は配信で使うマイクやキーボード、マウスなどが入っている。
「思ったよりも早く終わりましたね……」
彼女の家に来たのが、お昼ちょっと前、スマホの画面には夕方前の時間を表示していた。
大学で使う教科書であったり、リオとアオバのグッズなど、かなりの量の荷物があったので、夜ぐらいまでかかることを閣議していた。
「ありがとね葵くん」
「いえいえ、今日は配信休みで暇でしたから」
そう返すと先輩は笑顔で俺の顔を見ていた。
——その表情を見て、元通りの先輩に戻ってくれたと安心していた。
「なんか、葵くんには迷惑かけっぱなしだったね」
「そんなことないですよ、いち彼ぴとしてはリオさんに頼られるのは名誉あることですから」
「そっかぁ〜」
先輩は照れくさそうに笑っていた。
「それに自分というか……アオバにとってリオさんはおねーちゃんですから、困ってる姉を放っておけないっていうか」
自分としては言い返しができたと思っていたが、どうやら裏目に出てしまったようだ。
何が起きたのかというと……
「ぐっへっへ、アオバきゅんにおねーちゃんなんて言われたら嬉しくてペロペロしてあげるしかないよね!」
さっきまでとは打って変わり封印されしもう一人のリオさんへと移り変わっていた。
「いやいや、最近変わるのは多くないですか!?」
「アオバきゅんがいけないんだからね、おねーちゃん何て呼ぶから! かわいい弟に呼ばれたら応えてあげるのがおねーちゃんってもんでしょ!」
屁理屈に近いことを口にしながら俺に抱きつく先輩。
……こんなの他の彼ぴに見つかったら今度は俺は標的になってしまうこと間違いなし。
「……ありがとね」
いつもなら彼女に捕まったらスキンシップをされ続けるのだが、今回に限ってはただ抱きしめるだけに済んでいた。
それに何か聞こえたような……
「先輩……何か言いました?」
「ぐ、ぐっへっへ、アオバきゅんをペロペロしてやるんだからー!」
なんか、一瞬だけいつもの先輩が見えたような……。
気のせいだろうか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふう、満足した……」
「……こっちはボロボロですけどね」
「そうだ、たまには葵くんが私をペロペロしてみる?」
「……え!?」
先輩の突拍子も無い発言に思わず声がでてしまう。
「葵くんすごい顔してる! もしかしてえちちなこと考えた?」
そう言ってこちらを嘲笑うような表情を見せていた。
えぇ、考えましたとも……しかたない男の子ですから。
「あ、そうだ! 荷造り終わったら事務所に来るように言われててたんだ!」
何かを思い出したのか、ハッとした顔で話す先輩。
無造作に置かれていたバックを手に取る。
「ごめんね葵くん! このお礼は近いうちするから!」
そう告げながら部屋を出ようとする先輩。
俺も一緒に外へ出ると、一緒に駅まで向かい、改札で先輩を見送るとそのまま家に帰っていった。
「久々に体動かしたな……」
家に帰り、両腕を伸ばすとバキバキと関節が鳴り出した。
「今日は配信もないし、久々に眠くなるまでゲームでもやるか」
椅子に座ってPCを立ち上げる。
「……あれ?」
配信の時に使っている通話兼チャットツールにメッセージが届いていた。
「……マジ!?」
宛先には『雪城雪夏』と表示されていた。




