第34話 人の繋がり
vtuberが配信サイトで地位を確立してきた頃、ある事件が発生した。
:私、この人に酷いことをされたんです!
とある配信中に流れてきたコメントはリスナーや配信者の目に留まりはしたが、一瞬の出来事でその時はすぐに流れてしまい、その配信では出てくることはなかった。
——だが、その一言は当時、数多くの登録者を持つ配信者のvtuber人生を狂わせていく。
そのコメントが流れてから、ネットの奥深くに存在する総合掲示板では同じようなコメントが流れるようになった。
:私、あの人のファンだったから声をかけてもらった時すごく嬉しかったんです!
配信者のファンと名乗る女性の書き込みだった。
ネットの悲しい習性というべきか、女性のコメントにはたくさんの男が群がり、中には女性というだけで疑うことなく擁護する者もいる。
大半は己の醜い欲望のために。
それからという者、その人気vtuberの配信では何かにつけて批判してくるリスナー……俗に言う『アンチ』が増えてきていた。
:なんか爽やかなキャラ作ってるけど、こいつ何人もの女を食ってきたって話だな
:セッくんはそんなことない!
:アングラ掲示板に書いてあってけど、それマジなのか?
:もしかして私以外の人も手出してたの、信じられない!!
気がつけばアンチによる書き込みでコメントが埋め尽くされる始末。
配信の度にアンチコメントが増えていってしまい、配信者は精神的に追い込まれてしまい活動を休止。
ファンは配信者の復活を願っていたが、休止から1年後に引退を発表。
配信者が所属していた事務所では最初のコメントを流した女性を発見し、真相を問いただしたところ、全くのデマ出会ったことが発覚した。
理由は『配信者のことを愛している』からだったとか。
この女性は配信者のことが好き過ぎたために、ネットの力を借りながら、配信者の家を探し出すことに成功。
そして、配信者に交際へと迫ったが、配信者は『配信が大事で今は誰とも付き合う気がない』と丁重に断ったそうだ。
——それが引き金となり、女性はあのコメントを流すようになってしまった。
事務所は彼女を訴えると同時に、誹謗中傷行為等の根絶や配信者を守るための活動を行うようになっていった。
この瞬間にも個人、事務所所属問わず数多くのvtuberがデビューしており、いつしか彼の存在やあの事件は遠い記憶となっていくかもしれない。
——けど、俺は忘れはしない。
株式会社イラストレーション所属、COLORSの初期メンバーである『雪城雪夏』のことを……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「先輩……あの人がどうかしたんですか?」
自販機でお茶を買って先輩が座っているベンチに戻ると、体を震わせながら改札の奥を指さしていた。
彼女の指差す方向には改札口があるのだが、その付近で男性がキョロキョロをあたりを見渡している。
青色のTシャツに黒のジーパン姿、一瞬見えた顔つきからおそらく自分と同じぐらいだろうか?
「もしかして、あの人がさっき話してた……」
俺の言葉に先輩はこっちを見ていた。
さっきまでの虚な表情から一変して目を大きく見開いていた。
彼女にとっては恐怖の対象になっているのかもしれない。
もう一度男の方を見ると、立てかけられた周辺の地図を眺めていたが、ふと、こちらへと向こうとしていた。
「……先輩、ごめんなさい」
彼女の体を隠すように目の前に立つ。
声をかけてこないということは気づかなかったのかもしれない。
しばらくして男の方を確認すると姿が見えなくなっていた。
改札に入った様子はないから近くを見にいってるだけかもしれない。
「……さすがにこのまま家に送るのはマズイか」
スマホを見ると、1時間ほどで日付が変わる時間になっていた。
それと同時に俺の終電が迫っていることに気づく。
「先輩、動けますか?」
声をかけるも、彼女からの返事はなかった。
俺は先輩の手を取り……
「今日は俺の家にいきましょう」
それだけ告げて、再度駅のホームまで向かっていった。
「着いたら起こすので、寝てていいですよ」
来た電車に乗ると、平日の夜遅くなのか車内には乗客はほとんどいなかった。
空いてる席に先輩を座らせ、俺も隣に座る。
よほど、精神的に来たのか先輩は黙ったまま俺の肩に頭を乗せていた。
ここから自分の住んでいる最寄り駅まで20分ほどかかるので、その間にマネージャーへ連絡をしていた。
できることなら、先輩のマネージャーに迎えに来て欲しいけど、厳しそうならあの人にお願いするしかないよな……
——こういう時に人の繋がりって大事だよなって実感しながら俺はその人へ送るメッセージを打ち込んでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「別に私は隣から声が聞こえても問題ないんだけどな」
最寄り駅に到着して、歩くこと10分ほどで自分の部屋があるマンションへと到着すると、エントランスで連絡をした人が待っていた。
「……え?」
「酒に酔った男女が部屋に戻ってやることは1つだろ? ちなみに少年アレは用意してるのか? なければ部屋にあると思うから——」
「……大崎さん、今はそんなこと言ってられる場合じゃないんです」
俺がそう答えると、大崎さんは真剣な表情へなり隣にいる先輩を見る。
「そんなに真面目に怒らなくてもいいじゃないか。 とにかくリオ……じゃなくて悠香を私の家に泊めればいいんだろ?」
「えぇ、すみませんがお願いします……さすがに自分の家って言ったら先輩のマネージャーに怒られそうで……」
以前、先輩の家に朝方までいただけでこっぴどく怒られたし。
しかもこっちは被害者だというのに……。
「わかったよ、一応こっちからも連絡はしとくけど、少年からも連絡頼む」
「わかりました……」
大崎さんの前でセールスマンのように大きく頭をさげる。
「ちなみに少年」
「……どうしました?」
頭をあげると同時に大崎さんの顔を見る。
「男だと問題だけど、女同士なら平気か?」
大崎さんの顔を見ると、いつものように揶揄う表情でこちらを見ていた。
もしかして頼る相手を間違えたのかもしれない。
そう思いながら俺は大きなため息で返したのだった。




