第33話 悠香と葵の関係性
「……なるほど」
学食で先輩が泣き出した時は何事かと思ったが、話を聞いて納得していた。
俗にいうvtuberの身バレ問題というやつだ。
コメントやアンダーグランドの掲示板に書き込まれるぐらいなら、適当に流すことはできるけど……。
「……で、そんな状況でもお酒は飲めるんですね」
「うぅ……だってこんなこと他のカフェとかじゃ話せないし!」
場所は何度もお世話になっている事務所近くの居酒屋。
どうやら昼はランチを提供しており、ちょうど昼過ぎだったので食事を頼むことにした。
——ちなみに先輩はビールのジョッキ付きで。
「どうしたら良いのかな……」
ジョッキに口をつけながらそう話す先輩。
いつもなら勢いで飲んでいるが、そうしないということは精神的に参っているのかもしれない。
「家はバレてないんですよね?」
「うん、昨日会った時は遠回りして帰ったから大丈夫だと思う」
近くまでいるということは時間の問題だろう。
自分もそうだが、こういったことを見越してマネージャーから部屋を選ぶ際の条件を言われている。
まずはオートロックがあるところ、あとは防音対策がされているかなど。
それもあってか多少は事務所から家賃の補助があったりするのだけれども。
「まずはマネージャーさんに相談ですね」
大事になる前にまずは事務所へ相談したほうがいいかもしれない。
こう言ったことは何度もあると思うし、対策方法も知っているはずだ。
「やっぱそうだよね……」
そう呟いた先輩はスマホを取り出してゆっくりと画面をタップしていく。
自分のマネージャーに連絡しているのだろう。
「よし、マネちゃんに連絡したら、気持ちが楽になったかも!」
さっきまでの落ち込みが嘘だったかのように先輩の顔がいつものように明るくなると同時にジョッキの中身を勢いよく飲む。
「やっぱり葵くんはすごいよね!」
「別に自分は何もしてないですけどね……」
「そんなことないよ! あの時学食で葵くんに会わなかったと思うと、体が震えてくるよ」
「いくら何でも大袈裟すぎですよ」
俺の返答に先輩はえへへと笑顔を見せながら店員さんを呼び、飲み物のおかわりを注文していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぐっへっへ、気分良くなってきたから葵くんをペロペロしてきたくなってきた!」
ジョッキのおかわりを何回したのだろうか、目の前には空になったジョッキが1つ。
ちなみに彼女の手にはたっぷり中身が注がれたジョッキ。
「先輩、あしたも授業あるんですから飲み過ぎはよくないですよ」
「大丈夫〜! 二日酔いになってもアオイニュウムを取り込めば一発で治っちゃうから!」
「……それがホントなら科学賞取得ものですよ」
大きくため息をつきながらスマホの画面をみると、既に夕方を過ぎて夜の時間になっていた。
午後の授業はあったが、あんな状態の彼女を放っておくことができなかったので、聡太に代返をお願いしておいた。
適当に昼飯でも奢れば文句は言わないだろう。
「ってことで今からアオイニュウムを取り込んでもいいよね! もちろん返事など聞く気はないけど!」
「……せめて相手の同意をとるようにしてください」
俺のため息混じりの返答は効果がなかったのか先輩はジョッキの中身を勢いよく飲んでいった。
「先輩、そろそろ行かないと終電間に合わなくなりますよ」
駅のホームにて先輩を見送ろうとするも俺の腕を掴んでいる。
結局いつものように夜遅くまであの店に居続けてしまい、早く電車に乗らないと帰れなくなってしまう事態になりかけていた。
「やーだぁ! 葵くんと一緒にいたいー!」
駄々っ子のように大きな声で叫び出す始末。
最初は無理矢理にでも帰そうとするが、次第に俺の腕を掴む力が強くなっていった。
——それに伴い、柔らかいものが押し付けられていったのはここだけの話。
「わかりました……家まで送っていきますから」
自分の電車の時間もあるので、先輩を家まで送ることにした。
念の為、自分のマネージャーに連絡を入れておいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「先輩、起きてください駅に着きましたよ!」
電車に乗ること数分、彼女の家がある最寄り駅に到着。
……したのはいいが、当の本人は電車に座った瞬間、心地良さそうな寝息を立てていた。
駅についても起きる気配がなかったので、仕方なく背負って慌てて電車から降りることに。
エレベーターで改札がある階へと昇ったのはいいが後ろからはすぅすぅと小さな吐息が漏れ出している。
改札を出ようにも先輩のスマホがどこにあるかわからないので、近くにあったベンチへと座ることにした。
「先輩起きてください、家に帰りますよ!」
最初は声かけだけだったが、肩や腕を叩いたりしてなんとか起こそうとするも夢の中から帰ってくることはなかった。
こうなったら最終手段。
「……先輩、先に謝っておきます」
寝ている彼女の前で一礼をしてからゆっくりと手を伸ばすと、手から柔らかい感触が伝わってくる。
そして人差し指と親指で触れた場所を摘んでいく。
「うぅ、痛いよぉー!」
どうやら効果は抜群だったようで、先輩は俺が触れた頬を押さえながらゆっくりと目を覚ましていた。
とは言っても、目は虚だけど。
「あれ、ここって地元の駅? ってか何で葵くんがいるの?」
俺のことを指差す先輩を見て大きくため息をついた。
「……それよりも歩けますか?」
「歩けるけど、口の中が気持ち悪い〜」
相当飲んでたし、寝起きだから口の中が乾いたのかもしれないな。
「自販機ありますし、買ってきますよ、お茶でいいですか?」
「うん、ありがとう! お金は後で渡すね〜」
改札内にある自販機へと向かい、適当にミニサイズのボトルのお茶を買って戻った。
「先輩買ってきましたよ……ってどうしたんですか?」
ベンチへ戻ると、先輩はこちらを向くことなく正面を見ていた。
よく見ると体が震えているようにも……。
彼女と視線の先、改札を超えた先に1人の男性の姿があった。
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