第32話 配信者にとって怖いこと(SIDE RIO as HARUKA)
「渋谷さんってvtuberの碧南璃碧に声が似てるよねー?」
「え”……」
所属するゼミで定期的に開催されている懇親会という名の飲み会にて、目の前に座った男の人が話していた。
それまでは限定の日本酒を美味しく味わっていたのに、言われた瞬間、体が一気に冷えていく感覚を覚える。
「そ、そうなんだ……vtuberはなんとなく聞いたことあるけどなぁ」
「俺も最近まで知らなかったけどさ、この前風邪引いて暇だったからDoutube開いたらおすすめに流れてみてたら声がすごくよくて過去の動画全部みちゃってさ——」
そう話しながらジョッキのビールを勢いよく飲んでいく男の人。
確か名前は——
「おーい鶯谷! 生頼むけどお前も生でいいか?」
「それでいいぞー! できたらジョッキで!」
他のゼミ生の呼びかけに答えるとすぐにこちらを見る鶯谷くん。
「でさ、この動画がめっちゃ面白くてさ! 事あることにみちゃうんだよ! 渋谷さんもみてみてよ!」
鶯谷くんは徐に動画を取り出し、軽快な動きで画面をタップしていき、画面をこちらに見せていく。
そこに写っていたのは、砂浜にて水着姿のリオがアオバきゅんを追いかけていた。
「う、うん……何か楽しそうな感じがす、するね!」
若干声色を変えながら答える私。
楽しそうな感じというか、実際に楽しかったよ!
このあとアオバきゅんを捕まえてスタッフが止めに入るぐらいペロペロしまくってたし!
「おーい、鶯谷、ジョッキがきたぞ! って渋谷さんにアニメなんて見せてんなよ! もしかしてそれで口説こうとしてんじゃねーよな? 彼女はミスコンだぞ!」
他のゼミ生が彼に絡んできたおかげでそれ以降、話しかけられることはなかった。
——この飲み会だけの出来事で済めばよかったのだけれども。
「うーん……」
あの懇親会から数日が経ったある日。
鶯谷くんと一緒の授業でのことだった。
いつもは仲のいい男友達と一緒に受けてると話していたが、今日はサボると連絡が入ったとかで1人で受けようと思っていたところ私の姿を見つけて隣の席に座っていた。
別にそれだけならいいんだけど……。
「ど、どうしたの?」
横から小さく唸る声とものすごい視線を感じ、小声で話しかける。
「やっぱ渋谷さんとリオたんって似ているんだよなあ……」
「い”……!?」
「誰だ変な声をあげたのは! やる気がないならここから出てもいいんだぞ!」
「す、すみません!」
彼の言葉に自分でも引くほどの声がでてしまっていた。
先生に向けて小さく頭を下げつつもう一度、隣へと目を向けると観察するように手を顎に置きながら私を見ている。
「100%そうだ! って言えるものがないんだけどね。 でも俺のこういった感覚って結構当たるんだよね〜」
自信たっぷりといった顔でこちらを見る鶯谷くん。
それに対して私は黙ったまま笑顔で答えることしかできなかった。
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「あれ、渋谷さん?」
それから更に数日後、夕方前に授業が終わり、夜の配信の前に夕飯を食べておこうとスーパーで買い物をしていたところ声をかけられた。
声の方へ向けた先に立っていたのは——
「う、鶯谷くん!?」
視線の先にいたのはスポーツ専門ブランドのTシャツにジーパン姿の鶯谷くんだった。
な、何でこんなところにいるの……!?
「い、いやあ……気になる店がこの辺にあるって聞いたからさ」
はははと笑いを交えながら答えるも目線はこちらではなく他を見ていた。
「ってか、渋谷さんってこの辺に住んでたんだね!」
「う、ううん……このスーパーってこの時間帯にあるとタイムセールがあるって聞いて! ちょっと今月お金使いすぎちゃってピンチだからさ!」
そう言いながら食材が入ったビニール袋を見せる。
ちなみにこれは嘘だ。
高校まではいろんなグッズを買うために浪費していたけどリオとして活動するようになってからはそこまでしなくなった。
と、いうより買い物に行く時間がなくなったと言った方が正しいかな。
ネットショッピングって方法もあるが、欲しいものは実際に手に取ってみたいし——
「そうなんだ……あ、よかったらどっかでお茶で——」
「——ごめんね! これからバイトがあるから!!」
彼の言葉を遮るように大声でそう告げると急いでスーパーを後にした。
後をつけられる可能性も考慮して、遠回りして家へと帰ったので時間がかかったことは言うまでもない。
「……どうしよう」
帰宅して買ってきた食材をテーブルの上に置いてから椅子に座ると恐怖や不安から動けなくなっていた。
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「……先輩大丈夫です?」
次の日、午前の授業が終わって学食でぐったりしていると、声をかけられた。
呼び方からして彼じゃないことは確信できた。
ゆっくりと顔をあげた先にいたのは葵くんだった。
「うぅ……あおいくぅぅぅん!!!」
「ちょ……!? ど、どうしたんですか!!!」
葵くんの顔を見た瞬間に安心したのか、自分の意思とは関係なく泣き出してしまっていた。




