第31話 久々に感じた嬉しい気持ち(SIDE yui-yui)
「大崎さんの絵って俺好きかもしれない」
「え……?」
何で寝てもいないのに、こんな昔のことが頭の中を駆け巡っているんだろうな……
:yui-yui先生の絵いいよなあ!
:俺、先生の絵で巨乳好きになりますた!
:ちょっと! yui-yui先生はショタもすごくいいんだから忘れないで!
そうだ、リオとのコラボ配信でリスナーからのコメントを読んでからだ。
こんな素直に自分の書いた絵を喜んでくれていたからだ。
——あいつも最初はこんな感じに自分を誉めてくれたんだけどな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「大崎さんさっきはお疲れ様でした」
ベランダで息抜きをしていると、隣からカラカラと音がすると同時によく見かける姿があった。
私を見るとすぐに小さく頭を下げていたがすぐに呆れた表情でこちらを見ていた。
「そんなに私の体が気になるか? 吐き出すネタがなくて困ってるなら強力しても——」
「——結構です!」
私の話を遮るように叫ぶアオバの中身。
彼の年代ではこういうネタは好物だと思ったんだけどな。
それが理解できなくなったってことは私も一歩年寄りに近づいたのかもしれないな。
「にしてもリオの暴走を華麗に捌いていくアオバの様子を生で見れるとは思いもしなかったな」
全てではないが、娘と息子の配信は見るようにしている。
その中には2人のコラボ配信も含まれるが、見てる側からすればリオの暴走を止めるアオバの様子は笑えたが、現場を見ると笑いよりも大変そうだって気持ちが全面的に出ていた。
「……さすがにもう慣れましたけどね」
少年はベランダの手すりに正面から寄りかかりながらため息混じりに答えていた。
「疲れが溜まってるみたいだな、よかったら1本どうだ?」
タバコケースから1本だけ出して少年の方へ向ける。
「……まだ未成年なんでやめときます」
「そっか、それじゃこっちにしとくか?」
タバコを咥えつつ両手で自分の胸を押さえながら少年の方へと向ける。
だが、興味がないのか少年は慌てる様子もなく大きくため息を吐き出している。
「それも結構です」
「そっか……」
虚しさに駆られながら両手を離す。
この前購入した電子書籍には似たようなシーンがあって、そのあとは男女共に獣のようになっていたんだけどな。
やっぱ空想と現実では全然違うのかもしれないな。
——そんなことを思いながらタバコの煙を夜空に向けて吐き出していた。
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「……そういえば配信に出てどうでしたか?」
吸い殻を灰皿に落としてから、すぐさま新しいタバコに火をつけようとしていると少年から質問を投げかけられた。
火をつけたタバコを吸いながら考えてみた。
「素直にいえば、楽しかったな」
これは恥ずかしさや少年を揶揄うとかではなく私が心から感じたことだ。
リオから提案された時は、話題かつ人気vtuberの配信に出るなんて恐れ多いと思っていた。
それに私のような何の変哲もないイラストレーターが配信に出ても盛り上がらないだろうとも……。
「あれ、想像してた答えと真逆ですね……大崎さんなら気だるそうにダルいとか疲れたとか出ると思っていたんですが」
少年は目を大きく開けながらこちらを見ていた。
普段から幼さが残る顔立ちをしているのに、目を大きくあけていると余計に幼く見えてしまう。
一瞬、リオがアオバを必要以上に愛でたくなる気持ちがわかったような気がした。
「私のことをどう見ているんだ……もしかして少年は、美人だけどいつも気だるそうにしているお姉さんが好みとかか?」
「……今の発言から斜め上の方向に解釈できるんですか?」
またもや少年は大きくため息をついていた。
「ため息ばかりついてると幸せが逃げるって言うぞ、色々溜め込んでるなら私が受け止めても——」
「——そっちの話にもっていかないでください!」
またもや大声で遮られてしまった。
そんなに全力で拒否されるといくら年上だからって傷つくんだけどな。
いやむしろ傷心を癒すためにこのまま少年をベッドに押し倒してもいいよな?
「……ま、まあ最初は緊張もしたし、私が配信に出てどうなるんだって気持ちはあったな」
これ以上よからぬことを考えてると本当に行動に移しかねないので咳払いをしてから話を元に戻す。
「2人のコラボでリスナーが楽しみにしているのはリオとアオバの絡みだろ? それこそ百合の間に入る男みたいに中にはいったらバッシングされるんじゃないかって思ったりもした」
知り合いのイラストレーターでもコンプレックスに感じていた可愛い系の声を生かしたり、面白いトークを混ぜつつ個人配信者として本業の傍らで活動しているのもいるが、私にはそんな技量はない。実際にリスナーに受けそうな声でやろうとしてみたが、数分で限界を迎えていたし。
「それにしても2人のリスナーは本当にいい人ばかりだよな、バッシングどころか迎え入れてくれたし……それよりも」
タバコを吸う私の姿を少年は黙ってこちらを見ていた。
「……素直な気持ちで自分のイラストや作品を好きだって言ってくれたのが嬉しかったんだ」
お世辞や機嫌取りでもなく、彼ら彼女らはそう言ってくれた。
それはここ数年で、久々に感じたものだった。
——少年と話しつつ、私はある決断をしたのだった。




