第26話 収録の裏側(SIDE ???)
「このデザインすごく可愛いですよ、yui-yuiさん!」
ディスプレイの向こうに映るツインテールでおさげというアニメでしか見ないんじゃないかと思える髪型をしたクライアントの女性がキラキラと言わんばかりに目を輝かせていた。
たしか、前に話した時に自分とそこまで年齢が変わらないと認識していたが……
「ってことはこれで大丈夫ですかね?」
「はい! こちらのデザインで清書をお願いできますでしょうか?」
「承知しました、来週の頭ぐらいにはお送りできると思いますので」
「わかりました! お待ちしております」
ディスプレイに映る女は最後に「それでは失礼します!」と元気な声と同時に勢いよく頭を下げると通話を終了していった。
「ふぅ……ようやくデザインがFIXしたよ、長かったなあ」
勢いよく腕を伸ばすとバキバキと関節が音を立てていた。
長時間、椅子に座ったままずっと同じ姿勢でいたからそうなるのも仕方ないか。
「さっさと清書にとりかかってもいいが、流石に今日ぐらいは休んでもいいか」
そう呟きながら、机の横にある本棚に目を向ける。
「買っておいて全く手をつけてなかったな」
本棚には横倒しになっている人によってはタイトルを口にするのが憚れる雑誌の山が築かれていた。
コンビニで食事を買うと同時にストレス発散用に購入したもので、そんな時間もとれるわけもなくこうやって山積みになっている。
「溜まりに溜まってるし、久々に堪能させてもらうか、ってその前に……」
机の上に無造作に置かれたタバコとライターを取ろうとすると突如、スマホからピコンと音がなった。
画面を見ると、どうやらメールを受信したようだ。
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yui-yui様
お世話になっております。
イラストレーションズの高田です。
先ほどは打ち合わせありがとうございました。
清書の完成を楽しみにしております。
先ほどの打ち合わせで気になっていたのですが、可能であれば打ち合わせでは洋服を着ていただけると――
メールを確認してから、すぐに自分の体を見る。
彼女の言う通り、下着姿だった。
「……やっべ、いつもの癖で服着るの忘れてた」
すぐに謝罪のメールを送り、ソファに置かれていたTシャツだけを着るとタバコとライターを持ってベランダと出ていった。
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「yui-yuiさん、この日にアオバさんとリオさんの収録があるのですが、よかったら完成したものを見ていってはいかがでしょうか?」
清書を送ってからそれなりの日が過ぎた昼過ぎのこと。
週1の定例打ち合わせにて、クライアントが開口一番に話を切り出してきた。
「いいんですか?」
「是非! 制作スタッフ陣も今回の出来はものすごく良いと絶賛していましたので!」
以前の打ち合わせのようにキラキラと目を輝かせているクライアント。
収録日を確認すると予定も入っていなかったので、承諾することにした。
「その際にですが――」
打ち合わせの最後になると、先ほどまでハキハキと喋っていたクライアントの歯切れが悪くなっていった。
「――しゅ、収録日はお洋服の着用をお、お願いいたします!」
若干、顔を赤く染めながら子供のように勢いをつけて頭を下げていた。
「……承知いたしました」
流石に外に出るのに服は着るに決まってるだろと思いながら私も頭を下げていった。
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『ぐっへっへー、逃げないでよアオバきゅん!』
『捕まったらとんでもないことになりそうだから逃げてるんじゃないですか!』
クライアントが教えてくれたスタジオに入ると、スタッフルームに案内された。
一度だけ声の収録にいったことがあるが、ここも同じようにいろんな機械が置かれ、何人ものスタッフが奥のガラスの先を一心に見ていた。
ガラスの先にはキャプチャースーツだっけか、丸いブツブツのついた全身真っ黒の服を着た今時の大学生と思える女性が見覚えのある少年を追いかけ回していた。
「もしかしてあの女性って――」
「リオさんですよ」
「あー……納得」
目の前ではコラボ配信で見た光景がそのまま映し出されていた。
「それよりどうですか? お2人の水着衣装! yui-yuiさんにデザインしてもらったものです!」
近くにあったディスプレイを指差すクライアント。
画面の中には砂浜を水着姿で駆け回っているアオバとリオの姿。
2人が着ているのは私がデザインしたものになっていた。
「いつもは平面でしかみてないですけど、実際に立体化してもらうと感慨深いものがありますね……」
2人の動きに合わせるように服のシワとかも表現されているのが素直にすごいと思えてくる。
じっくりと2人を見ていると、違和感を感じ、クライアントに声をかける。
「どうしました?」
クライアントは女児のような表情でこちらを見ていた。
「――リオの胸、盛り過ぎてません?」
依頼を受ける際の指示書には『水着なのでパッドを入れて少し盛ってる感を出して欲しい』とあってので、嬉々として反映していった。
けれども自分が書いた以上に盛っているように見えた。
「……私はyui-yuiさんが書いたぐらいでよかったんですが、他の人、特に男性陣から水着だからってもっと大きくという声がありまして」
仕舞いには顔を真っ赤にして下を向くクライアント。
「……この業界のスタッフは男が多いから仕方ないですね」
ため息混じりにそう答えた。
ちなみに私は2次元なら巨乳派だ。リアルはほどほどでいいが……。
クライアントと話しているうちに、収録が無事終了し、アオバとリオは別の部屋へと移っていった。
これからスタッフが編集すると思うので、早々にお暇をしようかと思っていると、クライアントからよかったら2人にあっていかないかと提案された。
アオバはともかくリオの中の人は初の顔合わせになるので、会ってみたかった。
別の部屋に入ると、キャプチャースーツから着替え終わっていた2人の姿があった。
すると私の姿に気付いたのか、よく見かける少年がこちらを見て、大きく目を開けていたのだった。




