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第22話 昔は昔、今は今

 「アオバきゅん、私をつかまえにきてー」

 「リオさん逃げないでくださいよー」


 燦々と夏の日差しが照らす砂浜を俺は前を駆ける渋谷先輩の姿を追いかけていた。

 ……なにかデジャブを感じるが、気のせいだろう、うん。


 「うーん……」


 突如、先輩は足をとめてその場で腕を組み始めていた。

 それに合わせ俺も彼女の前で足を止める。

 

 「先輩どうかしたんですか?」

 「ドラマとかアニメでありそうなシーンをやってみたら面白いかなと思ったけど、なんか微妙なんだよね」

 

 不満そうな声を上げながら俺の顔を見る渋谷先輩。

 

 「うーん、人生で海に来るなんてなかったからなあ」


 先輩は残念そうな顔で大きくため息をつくと同時にガックリと落としていた。

 

 「やっぱ、根っからのショタ好きは家に籠ってディスプレイの中にいる相手をペロペロしてるのが——」


 独り言を言い出したのも束の間、勢いよく顔を上げて俺の方をみる先輩。

 さっきの綺麗な表情はどこかへ消え去ったのか、別人とは思える血走った目をしていた。

 この顔を見るのは初めてじゃない……

 そうたしかこれは配信で——


 「何を言っているんだ私は! ショタならここにいるじゃん! 葵クン〜! ぐっへっへ」


 両手がワキワキと言わんばかりの動きをしながらこっちを見る先輩。

 そう、これはもう一人の碧南璃碧。


 「葵ク〜ン! おねーちゃん今すごく寂しいんだよね〜」


 ゆっくりこちらに近づいてくる先輩。

 それに反応するようにゆっくり後ずさる俺。

 まるで熊にでも遭遇したような状況である。


 「だから、思う存分ペロペロさせてー!!!」

 「いやだぁあああああああ!」


 その直後、立場が逆になった2人が来た道を全力疾走したことは言うまでもない。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 「葵くんが逃げるからついつい追いかけちゃったよ、てへ☆」


 海の家で満足と言わんばかりに溢れんばかりの先輩。

 それに対して、グッタリとテーブルに突っ伏す俺。

 あれから必死に逃げたのはいいが、あっけなく先輩に捕まり、後ろから抱きつかれてしまっていた。

 抱きつかれるだけならいいんだけど、あちらは水着姿、俺は薄手のパーカーだったこともあり、一部分の感触に耐えることへ必死になっていた。


 ——いやまあ、悪い気はしないんだけど。こうみえても男の子ですから。


 「……こっちは体を弄ばれてクタクタですよ」

 「うっへっへ、葵くんの体サイコーでしたぜ」


 皮肉を言ったつもりが、逆効果だったのか先輩は笑っていた。


 「そういえば、葵くんって中学とか高校ってどんな感じだったの?」


 先輩はアイスコーヒーをストローで吸い上げるとこちらの顔を見ていた。

 突然どうしたんだろうか?

 

 「今と変わらないですよ、学校行って、授業中は見つからないように寝て過ごして、帰ってからは夕飯と寝る以外はゲームして……」

 「配信中のアオバきゅんと変わらないんだね」


 彼女の言うことに頷く。

 配信中のアオバは高校の時の自分を思い出しながらやっている。

 

 「そういう先輩はどうなんですか?」


 喉の渇きを注文したコーラで潤しながら返す。

 先輩のことだから、カースト上位にいそうな女子高生を——


 「——ガチのオタクだったよ」

 「……え?」


 予想外の答えにコーラが入っていたグラスを落としそうになってしまう。


 「いやいや、先輩に限ってそんなことはないんじゃ——」

 「葵くん、セリフが棒読みソフトみたいになってるけど?」


 いや、まあ……普段の行動からそれは感じていた。

 

 「そこはクラスの人気者だったとか言ってもいいんじゃないですか? ほら、俺も一応は彼ぴなんですから」

 

 そう返すと先輩はふふっと静かに笑っていた。


 「葵くんは彼ぴだけど、仲間でもあるからね。 私のことをもっと知ってほしいなって」

 

 先輩の言葉に一瞬心臓が跳ね上がる感覚を覚える。

 こ、これから何が起きるっていうんですか!?


 「中学の頃もそうだけど、高校でもずっとオタク道まっしぐらだったんだよね! 周りはお化粧したり、バンドしたり、彼氏作ったりして変わっていったのに」

 

 過去のことを語る先輩に対して相槌をうっていく。


 「3年の初めぐらいまではこのままでもいいかなんて思ってたけど、大学受験が終わった時にふと、虚しさ感じちゃったんだよね」

 「……虚しさ?」

 「何て言うのかな、現実を知ったっていうのかな、私が夢中になったショタって誰かが作った無機質なものでしょ?」

 「たしかに……」


 話したりはするが、あくまで第三者が作った設定を中の人が当てているだけ、もっと悪い言い方すれば元々は用紙に書かれた絵であったりもする。


 「それもあって、進学で状況する際に自分も変わろうと思ったの……大学デビューって言った方がいいのかな、若干遅い気はするけどね〜」

 「そんなこと言ったら俺は大学デビューすらできてないですけどね」


 そもそも変わろうなんて考えたことすらない。

 

 「葵くんはそのままでいいと思うけど? チャラい葵くんなんて想像できない……ってか想像したくなんだけど!」

 「……何で大学デビューとチャラくなるのがイコールなんですか」


 俺が大きくため息をつくと先輩は笑っていた。


 「でもさ、見た目が変わったとしても、中身はそんなすぐには変わらないんだよね〜」


 先輩は再びストローに口をつけていく。


 「見た目はそれなりに変われたとしても、中身はずっとオタクのまま。 周りはイケメン俳優とか流行りの曲で楽しむけど、私はアニソンのほうがいいし、イケメン俳優よりもショタ声の声優さんのほうがいいと思えるし」

 「それは俺も同じですよ、中学とか高校の時はみんなアイドルとか、バンド曲聞いてる中、アニソンとゲームの曲ばかりでしたし」


 俺の答えに先輩は声高らかに「そうだよね!」と返す。


 「そんなこともあって、どうしようか悩んでいた時に、ある人に出会ったの」


 突然の胸が高鳴る感覚を覚えつつ、先輩の顔を見ると……


 ——先ほどまでとは違う、嬉しそうな表情を浮かべていた。

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