第21話 これはデートですよね? いえ、お仕事の一環です
「……花火大会?」
先輩のスマホ画面に映っているのは花火大会の宣伝サイト。
日付を見ると彼女のいう通り今週の土曜日になっている。
「誘う相手間違えてません?」
こういったイベントはそれこそ事務所に戻っていったマネージャーが的確ではないだろうか。
「間違えてないよ! それに場所を見てみなよ」
先輩は自身のスマホの一部分を指していた。
書かれているのは都内の郊外にある海岸の名前が書かれているが大きく書かれているので理解できるけれども。
「今回の3D配信は海岸でリオが水着姿のアオバきゅんを愛でるのがメインでしょ?」
「何か違う気がするけど否定できないのは何でだろう……」
というか先輩の欲望がダダ漏れている気がするんだけど?
「今回の問題として、2人とも海で遊ぶイメージができていないことでしょ?」
「まあ、そうですね……」
「それを解決するなら実際に海で遊んでみるのが一番だと思うんだよね! 2人とも海で遊べるし配信の感覚も掴める! ついでにいうと葵くんの水着姿もみれて私は大歓喜!」
何か最後にしれっととんでもないことを言ってなかったか?
「それに夏といったら海と花火でしょ? 季節にあったイベントはやっておいた方が楽しく感じるでしょ?」
渋谷先輩は言葉巧みに話しているんだけど、何だろう、すごく言いくるめられてる気が……。
かと言って、先輩の言葉に全否定できるわけではないんだけど。
「先輩、1つだけ聞いていいですか?」
「どうしたの?」
「……この日、マネージャー呼びますか?」
俺の質問に一瞬、先輩は呆れた顔をしていた。
あれ? 俺、変なこと言った?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「とうちゃくー!」
花火大会当日、2回ほど電車を乗り継いで会場となっている駅へと到着した。
それだけなら別によかったんだけど。
「……何で先輩そんなに元気なんですか」
3D配信のイメージを掴むために海へ行くことは理解していたが、花火大会の数時間前ぐらいを想定していた。
だが、前日になって先輩から連絡が入り、指定されて時間は思っていた以上だった。
「だって海にくるんだから朝早い方がいいでしょ?」
「だからってこんな早くしなくてもいいじゃないですか……」
現在の時刻は大学の1限の時よりも早い時間。
乗ってきた電車も始発ではないものの、普段なら乗ることのない時間の電車だ。
最寄りの駅に着いた時も降りたのは自分らを含めても数人程度ぐらいだ。
「だって早く行かないと人が多くなっちゃうでしょ? そうなったら着替えるだけでも時間かかるし! 葵くんの水着姿はすぐ見たい!」
朝にもかかわらず渋谷先輩はいつも以上にテンションが高かった。
それに引き換えこっちはいつもより睡眠時間が少ないのもあって脳が完全に覚醒していないっていうのに。
「人が来る前にさっさと水着へ着替えちゃおう! 葵くんの水着姿を考えるだけで、アタイ、ワクワクしてくっぞ!」
先輩はどこかの戦闘民族みないな喋り方をしながら俺の手をとって意気揚々と海岸の方へと歩き始めていく。
——どうやら楽しみが強すぎてとんでもないことをしていることに気づいていないようだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「推しの水着姿を独り占めできる日がくるなんて……もう昇天してもいいかもしれない」
あれからすぐに互いの更衣室に入り、水着(俺はパーカーに海パン姿?)に着替えて外に出ると、入り口付近に立っていた先輩に出会した。
水色と白のストライプ柄のビキニタイプの水着姿で、先日のキャプチャースーツよりもスタイルの良さがはっきりと出ている。
何か一緒にいる自分では釣り合わないのではないかと思えてしまう。
だが、こっちの気持ちなどわかるわけもなく、先輩は俺を見ると、これからお祈りでもするかのような両手を組み上空を仰いでいた。
「……お願いですから昇天はしないでください、ってか推しは俺じゃなくてアオバなのでは?」
「だって葵くんはアオバきゅんでしょ? それなら必然的に葵くんも推しになるってことじゃん!」
若干興奮気味に話し出す先輩。
「その理論だと、先輩もリオさんってことですよね? 彼ぴの1人としては先輩の水着姿を見て同じような行動をとってもいいってことになりますよね?」
俺がそう返すと先輩は黙々と自信の首から下をじっくりと見ていく。
「たしかにリオは可愛いけど、私とは違う気がするんだけどなあ……いや、そんなことはどうでもいい! もっと葵くんの水着姿を堪能させて!」
そう言って先輩はスマホを取り出すと画面をタップしていく。
その度にカシャカシャと音がしているので、写真を撮っているのかもしれない……。
「人の断りもなく写真撮るのはあまり良いこととはないですよ……」
「そんなこと言ったって葵くんの幼さが残る水着姿を目の当たりした途端体が勝手に!」
どうみても自分の意思で動いてるようにしか見えないんだけど……
そう思ってはみるものの、言い返すことができず、彼女が満足するまで写真を撮られることに。
「ふぅ……これだけ撮れば満足! 忘れないうちにクラウドにアップせねば!」
そう言って先輩はスマホ画面を素早く動きで操作していった。
「それじゃ海岸の方へ行こうよ! 海水に滴る葵くんの姿を早く見せて!」
先ほどと同じように先輩は俺の手を掴むと勢いのまま海岸へと進み出していった。
——今日はまだ始まったばかり。




