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第20話 リアリティを求めて

 「アオバきゅん、私をつかまえにきて〜」

 「リオさん逃げないでくださいよー!」


 太陽が盛り上げるかの如く真夏の海岸を燦々と照らす中、俺とリオさんは砂浜を走っていく。


 ——そんな模様がディスプレイの中で行われていた。


 実際は事務所が運営をしているあたり一面真っ白といった無機質な空間と思わずにはいられないスタジオで、俺と渋谷先輩は真っ黒なスーツを着てそれらしく動いていた。

 何故、こんなことをしているのかというと、来月の頭に行われるアオバとリオさんのコラボ3D配信のリハーサル。

 リオさんはライブで3D配信は何度がしていたが、俺(というかアオバと言った方がいいのか?)にとっては初のことであり、感覚を掴むためにリハーサルをすることになった。


 『それじゃ一旦休憩にしましょうか!』


 突如スタジオないにノイズ混じりのマネージャーの声が聞こえてきた。

 顔を上げると、ガラス越しに彼女がこちらに向けて手を振っている姿が。

 

 そういえば朝からずっと動きっぱなしだったことに気づく。


 「めぐちゃんも言ってるし、一旦、休憩室に行こうか! たぶんお弁当とか用意されてると思うよ」


 こちらに近づいてきた渋谷先輩は満面な笑顔で話しかけてきた。

 俺も先輩もぴっちりとした真っ黒のキャプチャースーツを着ていているのだが……。


 「……先輩、結構スタイルいいんだな」


 そんな先輩を見て、思わず声が出てしまう。

 運がいいのか、お弁当に気が回りすぎていたのか先輩の耳に入ることはなかったが。


 ——仕方ない、アオバは多感な高校生(っていう設定)なんだから。


 誰に聞かせることのない言い訳を心の中で思いながら先輩の後をついていった。

 

 

 「うーん……」

 

 休憩室に入ると、先輩が言っていた通り、高級店のお弁当がテーブルの上に置かれていた。

 適当に椅子に座ってから食べていたが、隣にいた先輩が声を上げる。

 

 「どうしたんですか?」

 

 お弁当に入っていたシューマイを飲み込んでから先輩に声をかけた。


 「何か、動きがわざとっぽいよね〜」


 先輩が指さしたのはテーブルを挟んだ向かい側にある大型ディスプレイ。

 その中では可憐っぽく走るリオさんをぎこちない動きのアオバが追いかけていた。


 「ごめんなさい、3D配信にまだ慣れなくて……」

 「あっ……葵くんを責めてるわけじゃなくて私の動きってこと! アオバきゅんの動きは初々しさがあって好きかも!」


 先輩は慌てた素ぶりでフォローしてくれていた。


 「ありがとうございます……」


 礼を述べたものの、自分の中で納得はできなかった。

 他の事務所の配信者や事務所の先輩たちの3D配信は見ているとすごく自然な感じに動いていたので、どうしても比べてしまう。

 

 「前に別の事務所の配信者さんが言ってたんだけど、3D配信ってその場のイメージさせることが大事なんだって」


 その後も渋谷先輩は説明を続けていた。

 配信を見てる側は3Dで作られたセットがあるので、視覚的にも場所がわかりやすいが、スタジオで撮影の関係上、ここのような真っ白な無機質な空間なので、イメージがつきにくい。

 

 ——つまり何が言いたいかというと、演技力が必要であり、そのためには経験が必要とのことだ。

 

 「葵くんはよく海とか行くの?」

 「行かないですね、小学校低学年の時に家族で行ったのが最後ですね」


 実家が海の無い県ってこともあり、海へ行く機会はそれ以降なかった。

 中学ぐらいまでは友人と市民プールとかに行くことはあったけど。


 「そっかぁ……」

 「先輩はどうなんですか?」

 「最近行ったけど……海岸に行かず食べ歩いてたしなあ。 現地で食べるお刺身があったら、やっぱ日本酒だよね〜」


 その時のことを思い出したのか、笑顔で話していたがすぐにハッとした表情になっていた。

 まあ、予想はついていたけど。


 休憩終了後も3D配信のリハーサルは続けていたが、自分も先輩も納得のいく動きができずにいた。

 これ以上、続けても無駄に時間と体力を消耗するだけなので撮影は中断された。


 「こんな日もありますから! 来週にスタジオの予約しましたので、めげずに頑張りましょう!」


 俺と先輩の曇った表情をみたのかマネージャーは笑顔でそう話しかけてきた。


 2人とも「そうですね」と答えながらも気分が晴れることはなかった。

 スタジオを出て駅に向かっている途中で先輩は寄って行かないとチェーン店のコーヒーショップを指さしていた。

 ただ、マネージャーはこれから事務所で会議があるとかで、断っていた。

 このまま帰っても気分が晴れることはなさそうなので、先輩と一緒に店へ入ることにした。


 注文をして席を探していると先に戻っていた先輩がこちらへ向けて大きく手を降っていた。

 向かいの席に座って注文したアイスコーヒーを飲んでいると、目の前で先輩がスマホの画面を指でなぞっていた。

 そして動きが止まった直後……


 「葵くん、今週の土曜日って予定ある?」

 

 先輩が声をかけてきた。

 カバンからスマホを取り出してスケジュールを確認するとその日はリアルの予定どころか配信すら入っていなかった。

 たしかこの日はマネージャーから配信頻度が多いから休めと言われていたことを思い出した。

 それを伝えると先輩はさっきまで曇っていた表情が一気に明るくなり、自身のスマホを勢いよくこちらに向けていた。

 そこに映っていたのは……


 「……花火大会?」


 都内の郊外にある海岸で行われる花火大会の宣伝サイトだった。

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