第18話 事務所の呼び出し
「そういえば少年、この前の記念配信見させて見させてもらったぞ」
大崎さんは夜空へとタバコの煙を吐き出しながらそう答えてくれた。
「ありがとうございます! ってか当日結構叫んでいたんですけど、うるさくなかったですか?」
俺が返すと大崎さんはタバコの灰を灰皿に捨てながら悩むそぶりをしていた。
「そんなことはなかったとは思うけどな、もしかしたら当日は妄想中だったかもしれないな」
「……妄想中?」
「あぁ、昨日まで忙しくてな極限まで溜まっていたから妄想で発散させていたんだ」
ニヤニヤとこちらを揶揄うような表情を見せる隣の住民。
真面目に聞こうとしたこっちが愚かだったことを痛感した。
「それよりも、少年のリスナーも1万人超えか、ゲー友の1人としては鼻が高いぞ」
カチカチと音を立てて着火したライターでタバコに火をつける大崎さん。
「そろそろスパチャ解禁の話も聞こえてくるんじゃないか?」
彼女のいうスパチャとはスーパーチャットとはリスナーが配信者に送る投げ銭のことだ。
配信者になったらすぐにできるのではなく色々な条件が必要になる。
以前、マネージャーとの話でもう少しリスナーが増えれば解禁されるかもしれないとは話していたが……。
「少年のスパチャが解禁されれば、いっぱいもらえるんじゃないか? なったらいつでも買われてやるぞ」
大崎さんは先ほど火をつけたタバコを咥えながら、揶揄う表情を見せていた。
「大崎さん、綺麗なんですから俺なんかがお金ださなくても男の人はくるんじゃないですか?」
さっきの仕返しと言わんばかりに皮肉たっぷりに返す。
いつもなら、倍返しと言わんばかりに男もドン引きする下品な内容で返してくる……
——そう思っていたのだが。
「……そうかもしれないな」
返事とは裏腹に大崎さんは憂いた表情を見せていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「葵くんおつかれー!」
1週間ほどが経ち、季節は夏へと移り変わっていった。
暑さだけでいえば、既に夏そのものだったような気がするけど。
そんな炎天下の中、事務所があるビルに向かう途中、自分の名前を呼ぶ声が聞こえたので振り返る。
その先に立っていたのは渋谷先輩だった。
白と黒のボーダーのノースリープのシャツに黒のデニムパンツと時期が夏になったからか、肌の露出が多い服装になっていた。
「葵くんもめぐちゃんに呼ばれたんだよね?」
「そうですね、電話の時の声からして嬉しいことだとは思うんですけどね」
先週の終わりにマネージャーから電話が入り、重大発表があるから事務所に来てくれと言われていた。
重大発表と聞くと身構えてしまうが、彼女の声を聞いて良いことなんだろうと察した。
自分のマネージャーは良くも悪くも真っ直ぐな人だとは思う。
「俺はわかりますけど、先輩も自分のマネージャーから呼ばれたんですか?」
「うん、私のマネージャーが流行りの病にかかっちゃって当分の間、お休みになっちゃったんだって。 その間はめぐちゃんが代理でマネージャーなんだって」
「大丈夫かな……」
リスナー数も人気も低い俺でも昼夜問わずバタバタしてるイメージがあるけど、一時的とはいえリオさんの業務が入ったらこれまで以上に忙しくなるんじゃないか。
マネージャーが倒れないことを切に願いたいところだ。
「事務所に到着ー!」
渋谷先輩と色々話しながら歩いているうちに事務所があるオフィスビルへと到着した。
建物を見上げるたびに一介の大学生には場違いな所だと思ってしまう。
「せっかく葵くんとのデート気分だったのになあ……まだ時間があるからもうちょっと歩かない?」
渋谷先輩は楽しみを隠せない少女のような笑顔でこちらを見ていた。
「流石にこの時期、これ以上外にいるのはキツイですよ、中に入って涼みましょうよ」
そう言って俺はビルの中に入っていった。
エントランスでも空調が効いていて、外とは別次元の場所とも思えていた。
「ぐぅ……汗をかく葵くんをもっと見たかったのになあ」
渋谷先輩は後ろで何かをぼやきながら、俺に続いてすぐにビルの中へと入っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「アオバさん、リオさん暑いところありがとうございます!」
エントランスでマネージャーを呼んでから数分でエントランスにやってきて、入場手続きをするといつものように事務所の会議室へと案内された。
「そういえばめぐちゃん、馬場マネは大丈夫そう?」
「はい! 熱は下がったみたいですので、今週中は安静にして問題なければ来週の中頃には復帰みたいですよ!」
先輩はマネージャーの言葉を聞いて安堵の息をついていた。
「それでですね! 今日お二人に来ていただいのは2人の新衣装のことになります!」
マネージャーは会議室に設置されたディスプレイに繋げたノートPCを操作しながら話を進めていた。
「新衣装!? アオバきゅんのがすっごく気になる!」
「いやいや、そこは自分のじゃないんですか……」
「だって、アオバきゅんの衣装って今回が初めてだし! おねーちゃんとしては気になって夜しか眠れなくなっちゃう!」
いつものスイッチが入ったようで、興奮気味にこちらへと身を寄せてくる先輩。
「わかりました! ってか近いですから!」
俺と先輩のやりとりを笑いながらもマネージャーはマウスをカチカチと何度もクリックしていく。
……いや、マネージャーならまずは宥めるのが先じゃないのか!?
「それじゃリオさんの要望にお答えしてまずはアオバさんの新衣装からお見せしますね」
まったくこちらの意図を汲んでくれないまま、マネージャーはディスプレイに画像を表示させていく。
画面には雲ひとつない青空の下、ゲームコントローラーを持つアオバのイラストが映し出されていた。




