第16話 本当の私(SIDE RIO as HARUKA)
『えっと、今日は俺の記念配信に来てくれてありがとな!』
平日のお昼を少しすぎた辺りの学食にて。
自販機で購入したカフェオレが入ったペットボトルの横にスマホを立てながら動画を見ていた。
画面の中では少し照れくさそうに笑うアオバきゅんが映っている。
「アオバきゅんの記念配信凸したかったなあ……」
画面に映る推しを眺めながらため息混じりにこぼす。
彼の記念配信の時間は別のVtuberとのコラボ歌配信をとっていた。
正確にいうと、私が配信の枠を取ったのではなく、コラボ相手の配信でなんだけど。
こちらが終わった時にまだアオバきゅんが配信を続けていたので、ここぞとばかりに配信にお邪魔しようと思った矢先、エング先輩が入ってしまった。
「せっかくアオバきゅんと2人きりになってあんなことやこんなことをしようと思ったのに……」
もちろん配信でできることと言えばアオバきゅんにウザ絡みをすることしかできないけど。
さすがに事務所の大先輩がいるなかであんな大それたことはできるわけもない。
仕方なくあの時は傍観者に徹していたわけで……。
ちなみに今もアーカイブで見ているが、閲覧回数は軽く10を超えている。
「あ、悠香〜!」
画面へ釘付けになっていると、突如名前を呼ばれたので顔をあげると、親友の田端詠未が向かい側の席に立っていた。
「あれ、もう授業終わったの?」
彼女に声をかけながら、動画サイトを閉じる。
「今日は教授に急用が入ったとかで、30分早めに終わったんだよ〜! それなら休講のよかったんだけど〜」
おっとりした口調で椅子に座る詠未。
声からもそうだが、おっとりとした性格を絵に描いたような人物で、何をするのものんびりとしている。
それもあってか男性からの評価が高く、よく声をかけられているようだ。
——性格からして声をかけてきた男の裏には気づいていないようだけど。
「悠香は何してたの?」
こちらに声をかけた詠未はすぐにバッグからペットボトルのお茶を取り出すと、口につけていた。
「やることもなくて暇だったからずっと動画見てた」
もちろん暇つぶしで見ていたわけではなく、アオバきゅんの動画が見たくて再生していた。
理由は彼女がアニメやVtuberと言った二次元コンテンツのことを全くと言っていいほど知らないからだ。
以前、話したとはあるが、理解ができなかったのか、ずっと首を傾げていた。
「そうなんだ〜! そういえばSanZiUの新しいMV公開されてたんだった〜」
今にも眠そうな声でそう告げた彼女はカバンからタブレット端末とワイヤレスイヤホンを取り出していた。
イヤホンを耳にはめ、しばらくしてから鼻歌が聞こえてきた。
「……一応動画のネタのために聞いてはいるけどね」
嬉しそうな顔で動画に食い入る詠未を見て思わず呟いてしまう。
イヤホンもしてるし、こういう時の彼女は人の話に耳を傾けることはないので大丈夫だろう。
「みてよ〜! 今回の衣装すごくかわいいよ〜」
詠未はタブレット端末をこちらに向けてきた。
画面の中には黒い衣装を纏った女性たちが踊っていた。
詠未の言う通り、可愛いとか綺麗といった言葉が合うのだろうけれども……
——私にはそう思うことができなかった。
何故かと言ったら私が二次元寄りの人間で昔から実写よりもアニメの方を好んで見ていたからだろう。
女子高生、碧南璃碧になるにあたり、一般的な女子高生が好きそうなコンテンツをある程度チェックはしている。
彼ぴの中にもこう言ったアイドルを好きな人も少なからずいるので、それに話を合わせるためってのもある。
「……やっぱりアニメ好きの女子高生って設定にしてもらえばよかったかな」
ため息混じりに独り言を漏らす。
先ほどもこぼした通り、私は物心ついた時からアニメばかり見ていた。
小学校はもちろんのこと、中学や高校と年齢が上がるにつれて、周りは男性アイドルや人気俳優が好きになっていったにも関わらず、私は全く変わることなくアニメばかりだった。
その中でも好きだったのが、小さくて可愛らしい男の子……俗にいうショタキャラだ。
たしか少女向けのアニメに登場した弟キャラを見た瞬間、私の性癖が開花したといっても過言ではない。
「そういえば〜、いつも思っていたんだけど、悠香の壁紙って何かのアニメのキャラなの?」
物思いにふけていると、突如詠未が声をかけてきた。
どうやら動画の再生が終わったようだ。
彼女の言う壁紙というのはこの前、アオバきゅんとのコラボ配信で撮影したスクリーンショットを壁紙サイズに加工したもの。
「そ、それがなんでこれにしたか覚えてないんだよねー! 酔っ払った時に変えちゃったのかも!」
誤魔化しつつ、スマホをカバンの中に押し込んでいく。
別に隠す必要はないけれど、いつもこうやって誤魔化してしまう。
「それより、この後どうする? 授業ないから時間ならたっぷりあるし!」
これ以上壁紙のことを追求されたくなかったので、無理矢理話題を変える。
ちなみに今日は配信の枠も取ってない、アオバきゅんの配信もないので本当に時間がたっぷりある状態だ。
「あ、そうだ〜! この前可愛らしいカフェみつけたんだ〜! 今から行ってみない〜?」
そう言って、詠未はタブレット端末を操作し、画面をこちらに見せてきた。
彼女が可愛いと言うのも納得できる小さなカフェだった。
「うん! いいよー!」
オーバーなくらいにそう返事する私。
本心を言えば、カフェよりも美味しいお酒の飲める場所が良かったんだけど……。
自分の本心が言えないことに小さくため息をこぼしながら、詠未の後をついていったのだった。




