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18番人気の奇跡から始まった、俺と隆平の探偵事務所 ~ざまぁもチートもない、探偵事務所のリアルな日常と裏稼業~  作者: 風風風


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第7話 【 冬に夏を撮る理由 】

「今は利益じゃない。伝手つてを作ることだ」

康介は固く自分に言い聞かせ、毎日のように

港区の街を歩き続けた。

八王子の小さな事務所から始まった

康介たちの泥臭い挑戦は、確かな計算と、

それぞれの役割分担のもとで、少しずつ、

しかし確実に、次のステージへと動き

出そうとしていた。

北区滝野川のマンションの高層階。

探偵事務所を開設して、ちょうど

二年が経った頃。

「ペット捜索稼業も、軌道に乗ってきたな」

康介が腕を組みながら言った。

「ああ。依頼者からは、感謝されてるみたい

だ」

隆平が、手元の書類から目を離さずに淡々

と答える。

「別に人助けの為にやってる訳じゃない

けどな。カネのためだろ、結局は」

康介がそう言うと、隆平はぴたりと手を

止め、無言のまま康介を見つめた。

何も言わない。

何かを深く考えているような、奇妙な

沈黙だった。

「ん? なんだよ」

康介は隆平の様子を不審がりながら、

カップの冷めたコーヒーをすすった。

「あのな、……」

隆平が、ゆっくりと口を開く。

「……」

「ある高名な映画監督の話だ」

「ん?」

「あるシーンの撮影に入った。場面は

『夏』の設定だ」

「うん。……」

「撮影したのは、冬だった。なぜだと思う?」

「……。俳優のスケジュールの都合?

主役級の俳優のスケジュールを押さえ

るのに、その時期しかなかったから?」

「あるいは、そうかもしれん」

「……」

「だが、監督は述懐して、違う説明をして

いる」

「ふ~ん。……、分からないねぇ。……」

「その高名な監督は、こう言ってる。

『夏に、夏のシーンを撮っても、誰も夏を

やろうとしない。冬に夏のシーンを撮ると、

みんな一所懸命に夏らしさを出そうとする』

とな」

「なるほど。……、それが何か?」

「康介。お前は、『人助けで、探偵事務所を

開いたんじゃない』という。『カネを儲ける

為だ』と」

「うん、悪いか?」

「悪かない。だからいい、と言っている」

「ん?」

「言ってる意味が分からないか?」

「そうだなぁ。ハッキリ言ってもらわないと、

……」

「『人助けだと思って、探偵をやってる』奴

ってのは、言わなくても伝わると思ってる

から、ワザワザそういうことを言わないし、

態度にも表さない」

「まぁ、そうだろうな、……」

「でも、客である相手には、そんなことは

分からない」

「そうかもね。……」

「お前のように『人助けだなんて思ってない』

奴ってのは、カネの為に、態度その他で表そう

と努力する。ワザワザ言うのは、逆効果だとも

心得ている」

「ふ~ん。……」

「思ってない奴の方がいいんだ。雰囲気で

一所懸命に、『あなたの為に頑張ります』

という態度を感じさせようとする。客の受け

取る印象は、まるで違う。『ああ、この人は、

本気で心配してくれている』と受け取る」

「……」

「俺の言ってることが、分かったか?」

「まあ。……」

「『人助けだなんて思って、やってない』

というお前は、探偵事務所の経営者として

最高だと、俺は言っている」

「なんだかなぁ、……。められてるのか、

どうか。……」

「勿論、褒めている。思いっきり褒めている」

「ふ~ん。……」

「さて、ここから、本題だ」

「おう! まだ、あるのか?」

「ペットは、そうそう行方不明にならない」

「まあ、そうだよなぁ。ペット捜索だけじゃ、

いつか頭打ちが来る」

「折角つかんだ儲け口だ。それだけじゃもっ

たいない」

「だね」

「確実に、需要が見込める業務がある」

「ん?」

「猫犬の寿命は、人間より短い」

「当たり前だ」

「ピンと来ないか?」

「ん?」

「ペットロスというのが、あるだろ!」

「おお! つまり、……?」

「クローンって知ってるか?」

「ああ! 遺伝子操作の、……」

「操作じゃないけどな。遺伝子技術で、全く

同じ個体を作るんだ」

「うん。……」

「今のうちから、富裕層のペットの遺伝子

情報を集めとけ」

「おお。……」

「飼い猫、飼い犬の死亡に関する情報を

キャッチできるように、手配しておくんだ」

「……」

「死亡して、ひと月後、ふた月後。マメに

飼い主を見舞ってやれ」

「……」

「ペットロスで苦しんでいる様子を、確実に

察知しろ」

「う、うん。……」

「そういう顧客の所に、全くウリふたつの

猫・犬を連れたお前が現れたら、顧客は

どんな反応をすると思う?」

「そりゃぁ、もう、飛びつくだろう」

「多分な。……、高く売れると思わないか?」

「……。きっと売れるだろう、……」

「どうした? 気が引けるか?」

「うん、まぁな。引けないこともない。……」

「それでも、飼い主の心情を察して、

『こうせずには居られませんでした』と

言えるのが、お前の強味だ」

「……、そうか?」

「お前なら、できる」

「そんなウリふたつのペットを、どうやって

用意するんだ? ……」

「そっちは、俺に任せろ」

隆平には、しっかりとした目算があった。

中国人で、その方面に非常に詳しい人物の

心当たりがあったのだ。

実際の製造や育成は、東南アジアの国でやれ

ばいいだろうと考えていた。

康介が国内でのDNA収集と顧客管理、

隆平がクローン技術とその運用の手配――

ふたりの間で明確な役割分担が決まった。


それから一年の月日が流れた。

康介は、ペット捜索の依頼を受けながらも、

富裕層の顧客が飼う老犬や老猫の健康状態を

さりげなくカルテに記録し、密かに組織的な

DNAデータの蓄積を進めていた。

ペットが息を引き取ったという情報をキャッ

チすると、足繁く通い、喪失感に打ちひし

がれる飼い主の心に寄り添い続けた。

一方の隆平は、水面下で驚異的な行動力を

発揮していた。


©2026 [風風風]. All rights reserve.

東南アジアの秘密裏の施設で、依頼

されたペットと寸分違わぬクローン

の犬や猫たちが無事に誕生した。

だが、どれほど完璧な個体を作り上

げようとも、それを日本へ持ち帰る

ためには、極めて高くて厳しい

「検疫の壁」を突破しなければならない。


明日 8月8日 20:00 に、第8話を

投稿します。

よろしくお願いいたします。

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