表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18番人気の奇跡から始まった、俺と隆平の探偵事務所 ~ざまぁもチートもない、探偵事務所のリアルな日常と裏稼業~  作者: 風風風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/10

第2話 白金台の貴婦人の猫

第2話の今回は、探偵事務所を開業して2年と

数か月経った頃の話を、先に書きます。

R(隆平)&K(康介)探偵事務所は、滝野川に

移転しました。

1 【 変貌した事務所と三年の月日 】


東京・八王子の雑居ビルにあった、

あのペンキの剥げかけた「R&K探偵

事務所」は、すでに過去のものとな

っていた。

2026年現在、俺たちの事務所は北区

滝野川の小綺麗なおしゃれビルへと

移転している。

看板は真鍮しんちゅうのプレートに変わり、

室内にはデザイナーズチェアと無垢材

のローテーブル。壁には観葉植物が

上品に配置され、かつての泥臭さは綺麗

さっぱり消え失せていた。

探偵事務所を開業して丸三年。

康介と隆平は、生き残るために泥水をす

すり、そして頭を使った。

あの頃、猫一匹に振り回され、警察に職務

質問されてオロオロしていた康介たちは

もういない。

今の康介たちは、富裕層をターゲットに

したペット捜索の専門家でもある。

ペット捜索では、その頂点に立つ代理人

だった。


事務所のソファに座り、康介はノートPCの

画面から目を上げる。

「で、今月の広告費の引き落としだが」

「任せろ、インフルエンサー経由のコン

バージョン率は先月比で15パーセント増

しだ。費用対効果は十分すぎる」

隆平が手元のタブレットを操作しながら、

涼しい顔で答える。

康介たちが手掛けたのは、泥臭い浮気調査

やストーカー対策と、ペット捜索の兼業

だった。

隆平の発案で、SNSや動画投稿サイトを

駆使した集客システムを構築している。

猫の保護や救出劇の感動的なショート

動画で驚異的な再生回数を叩き出し、

高輪台のペントハウスや白金台の豪邸に

住む富裕層の認知を完璧に掌握した。

スマホやPCを駆使したWEB広告の運用は、

すべて専門の外部委託業者に任せている。

康介たちが表で汗をかく必要は、もうない。

実際の現場の捜索?

そんなものは、康介たちが自ら走ること

は、もうない。

実際のペット捜索は、裏でガッチリと手

を組んだプロの便利屋――

「レインボー商会」の連中が動く仕組みを

作っていた。

もともとは引っ越し案件ばかりで、肉体

労働の厳しさから離職率が異常に高かっ

たレインボー商会。そこに隆平がビジネス

のノウハウを指南し、ペット捜索という

高単価な専門技術を叩き込んだのだ。

今では彼らの従業員定着率は劇的に改善

され、我が社の強力な下請けとして、完

璧なチームワークを発揮している。

俺たちが高級住宅街から持ち込む高額案件

を、彼らが確かな技術で遂行する。

すべては、隆平が描いた完璧なシステムの

上で回っていた。


2 【 白金台のマダムと「マリリンお嬢様」】

「マリリンちゃんを探して下さる?」

白金台の豪邸の応接間で、有閑マダムが

上品にカップを揺らしながら言った。

「はい、マリリンお嬢様」

康介の対応は、もはや隙のない一流ホテル

のコンシェルジュさながらだった。

マリリンというのは、マダムが溺愛する

ロシアンブルーだ。

高額案件を逃さない。今の康介たちは、

シッカリとした経営者としての顔つきに

なっていた。

マダムからの依頼を受け、康介たちは

すぐに行動を開始する。

まずは、レインボー商会の優秀なスタッフ

を現地に投入した。

マリリンの写真と細かな特徴、そして連絡

先を記した専用のビラを作成し、周辺住民

へのポスティングを行う。

これは単なる宣伝ではない。万が一、

スタッフが夜間に監視カメラの回収や

聞き込みでウロウロしていたとしても、

「ペット捜索の専門家」として近隣に認知

されていれば、不審者として警察に通報さ

れるリスクを完全に回避できる。

隆平が仕込んだ鉄壁の防衛策だった。


「マダム、マリリンちゃんのお気に入りの

餌は何ですか?」

隆平が事前に聞き出していた好物を、

レインボー商会の現場スタッフに即座に

共有する。

スタッフは、猫が通りそうな家の軒下や、

暗い通路の要所にその好物を配置した。

その周囲には、動物の生態撮影でよく使

われる自動撮影の監視カメラを完璧な

角度でセットする。

まず、姿を捉えることに全力を注ぐ。

それがプロのやり方だ。

数日後、カメラのSDカードを回収した

スタッフから、康介のスマホに動画が

送られてきた。

画面の中では、夜の住宅街の隙間を、

おびえた様子で歩くロシアンブルー

の姿がしっかりととらえられていた。

「無事を確認しました。生きています」

康介はその動画をマダムに見せた。

マダムは目頭を押さえ、崩れ落ちるように

安堵の息を漏らす。

「よかった……本当によかった……!」

「ご安心ください。これから確実な捕獲

作業に移ります」

康介はすかさず、最初に受け取っていた

経費の仮払い金「10万円」の領収書を差

し出した。

それと引き換えに、最初に仮の領収書と

してマダムに渡していた、裏書きに

『10万円、お預かり致します』とサイン

してあった自分の名刺を回収する。

「これまでに掛かった広告費、および捜索

スタッフの稼働経費の内訳がこちらになり

ます。つきましては、安全かつ確実な捕獲

網を完成させるため、新たに20万円の仮払

いをお願いできますでしょうか」

「ええ、お願いします。頼むわね、康介

さん」

マダムは迷うことなく、追加の資金を

差し出した。


3 【 完璧な包囲網と、いつもの手順 】

現場では、レインボー商会のスタッフが

マリリンの行動範囲と移動する時間帯を

完全に割り出していた。

ひそんでいそうな暗がりを特定し、その

要所要所にマリリンの好きな餌を入れた

特製の捕獲器を、なんと10か所近く緻密

に設置する。

逃げ場をなくした完璧な包囲網。

捜索開始から五日目の早朝、ついにマリ

リンは無事、傷一つない状態で保護された。

俺のスマホに連絡が入る。

「いつもの手順で、頼む」

隆平から指示を受けたスタッフは、直ち

に指定されたプロのペットケアチームへ

と連絡を入れた。

「いつもの手順」――それは、ただ保護

して返すだけではない。

まずは専門のサロンでのプレシャンプー、

丁寧なトリミング。そして、提携してい

る獣医師を急遽呼びつけての完全な健康

診断だ。

飼い主であるマダムの不安を極限まで

払拭し、最高の状態で引き渡すための、

康介たちが作り上げた付加価値サービス

だった。

その一連の様子はリアルタイムで動画

に収められ、康介のスマホ経由でマダム

へと次々に送信される。

「まあ……なんて綺麗になって……」

映像を見たマダムは、我が子の帰還を

待つ母親のように目をうるませて喜んだ。


4 【 滝野川の事務所にて 】

夕暮れ時、移転したばかりの滝野川の

事務所に戻ると、隆平がコーヒーを飲

みながら待っていた。

「どうだった?」

隆平がコーヒーカップを置きながら尋ねる。

「完璧だ。マダムも大満足だったよ」

「で、今回のあがりは?」

俺はジャケットの内ポケットから、きれい

に帯の巻かれた札束を取り出した。

「経費を全部綺麗に払って、残りは60万だ」

俺は、裸のズク(10万円の束)を3つ、

隆平の目の前のテーブルに置いた。

隆平はそれを見て、わずかに眉をひそめる。

「いいのか? 4分6(しぶろく)だろ。

俺の取り分が多すぎるんじゃねえの?」

「いや、今回はお前の普段からのWEB戦略

と、レインボー商会へのディレクション

が大きかった。お前の取り分でいい」

俺がそう言うと、隆平はふっと鼻で笑い、

タバコに火をつけた。

だが、俺はすべてを話していなかった。

実は、マダムは請求書通りの金額を支払

ったあと、俺にそっとこう告げたのだ。

「請求書とは別にね、これは私の個人的

な気持ちよ」

そう言って、マダムは追加で30万円の

封筒を握らせてきた。

康介はその場で中身を確認し、そのうち

の10万だけを「事務所の特別対応費として」

スマートに受け取り、残りの20万円は丁重

にマダムの手に押し戻した。

「お代は、頂戴するべきものだけで十分で

ございます。お困りの際は、いつでも私

どもをお呼びください」

そして、深々と頭を下げてこう付け加えた。

「もし、お知り合いのお宅で、ペットの

行方不明がございましたら、是非当事務所

をご紹介ください」

マダムは感動したようにうなずき、俺の

スマートな対応に心から感謝してくれたのだ。


その裏話をあえて言わず、俺は自分の取り

分を手帳にはさみ込む。

八王子の薄汚い雑居ビルで、ただ闇雲に走

り回り、警察に追われて冷や汗をかいてい

たあの頃。

あの泥臭い日々の底辺から、俺たちは

い上がってきた。

これが現実だ。

泥水をすすった素人探偵は消え、康介たち

は今、東京の夜景を見下ろすこの場所で、

確かな富と信頼をその手につかみ取っている。


©2026 [風風風]. All rights reserve.

「アルテミス」のアイの話は、明日の

第3話で書きます。すみません。

明日はまた、開業初期の頃に戻って、新米

探偵二人の悪戦苦闘ぶりを書きます。


明日も 23:00 に、投稿します。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
明日の話も楽しみです。
次の話も楽しみです。
次の話が楽しみです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ