9話
『脇坂安治の陣』
「と、殿!」
ん?物見が返ってきたのか?
なんか、慌てているが襲撃を受けたのか?
始末すれば、何処の兵であってもバレないだろうし誤魔化せると思うが、まさか、徳川様の兵だったのか?
「どうした、慌てて!」
「はっ、申し訳ありません」
「何かあったのか?物見か?徳川様からの伝令か?」
「物見の件です」
「そうか、で、何があった?」
「それが、小早川様が居たらしく…」
「はぁ?小早川殿が?本人か?家臣か?」
「本人だと言っていたようです」
「馬鹿なことを、小早川の兵は京極殿らを攻めているぞ?なら、誰が指揮しているんだ?その物見を連れてこい!」
「はっ」
物見もろくに出来ないのか、我が家臣は…
「殿、連れてきました」
「おい、本当に小早川殿が居たのか?」
「はい、最初は分からなかったのですが、御顔を見て本当だと」
「どちらから来た?」
「南宮山の方から松尾山に戻るようでした」
南宮山かなるほど、毛利を動かそうとしたのか。
何事もなく、帰還しているなら話はまとまったのか、それとも、毛利は動かぬのか。
「だれか、南宮山の動きを探って…どうした!騒がしいぞ!」
「軍勢がこちらに向かってきています!」
「なっ!?小早川か!」
「いえ、南方からです!」
「なんだと?!そちらには誰も布陣していなかったはず。小早川の分体か…幟はどうなっている?」
「今、確認中です」
「はやくしろ!」
「はっ!」
小早川が兵を分けたとしても、千か、二千程度か?
ならば、戦えば勝てないまでも抑えれる。
だがそうなれば、裏切りがバレるし、効果的な時期ではない。
ん?
物見がまだ言いたそうな顔をしているな。
「どうした」
「…まだ、続きがあったのですが」
「そうか、駆け込んできたから話が途切れたな」
「多分、その兵は、小早川様が読んだものと思います」
「なに?何故、それを言わぬ!」
「それは…」
「ぐっ、そうだな話が途切れたのは仕方なかったな。で、何処の兵だ?小早川か?」
「幟から見ると、遠目で確証はないのですが長曾我部様のものと」
「な!?」
馬鹿な、南宮山に行った時に使者を出していたとしても、移動が速すぎる。
「見間違いではないか」
「遠目ではっきり見えてなかったので、違うかもしれませんが可能性は高いと思っています。兵が多く見えた為、急いで戻ってきました」
見間違いであって欲しい。
なんなら、毛利の兵と言われた方が信用できる。
だが、大軍であの山を移動するにも時間が掛かるし、小早川に兵を預けるとは思えん。
「あと、戦場の習いですので下馬せず話したことにお怒りで、喧嘩を売ったなと言われて…」
何を馬鹿なことを、戦場で下馬なんぞしていたら討ち取られるだろ。
相手が名乗ったとしても、戦場の習いとして置いておくはずだが、こちらを攻撃する口実か?
「それで、喧嘩をする気がなければ、京極様らを攻めろと。そうでなければ敵で、踏みつぶすと」
「なんだと!?」
馬鹿にしやがって、あの飲んだくれのクソガキが!
こんな屈辱はない!
「分かった!我々は」
「殿!」
「だから何だ!」
「こちらに来た軍勢から使者が来ております」
「なんだと?くそ!所で兵数は同だ?」
「見たところ、こちらの倍以上あるかと」
くそ、此処で対峙しても勝てない。
下手をすると後方からだから、陣替えも必要になり混乱しかねない。
「使者を呼べ!」
「はっ」
どうする?
此処で反転して長曾我部を攻撃すれば、側面から小早川が攻撃してくる可能性もある。
徳川方は士気も高く精強だから耐えているが…
「こちらです」
使者が来たか。
「何用か」
「はっ、盛親様より京極らを攻める為、ご協力をお願いしたいと」
やはりそうか、長曾我部か…
我らの兵も強いが、長曾我部の兵は精強だ。
勝てぬ、本多様が来れば勝てるかもしれんが、それまで耐えれるか?
目付の役割もある本多様が…
「少し待ってほしい。こちらも移動したばかりで陣が整っていない」
「盛親様からは、小早川様への無礼を働いている以上、敵対行為が既に行われている。京極らを攻めるか、我らと戦うかと今すぐ判断してほしいとのことです」
くそ、時間稼ぎも無理なのか…
どうする…
「と、殿。長曾我部の兵が止まりません!」
「何?こちらには使者がいるんだぞ?使者の命は要らぬか?お主、それで良いのか?」
「構いません。私の敵は皆が取ってくれるので」
眼が座っている。
討ち取ろうとしたら、こちらも被害が出るが…
「ふぅ、分かった帰られよ」
「分かりました、戦場でお会いしましょう」
使者が帰って行ったな。
これで後戻りできん。
ここで、石田が勝ったとしても自力では徳川様が上だし、石田は所詮、豊臣あっての存在。
毛利の存在もある。
何れ対立し分裂し、混乱が起きるのは明白だ。
此処で徳川様を裏切れんし、まだ、信州から分隊がくる。
それまで耐えれば、勝機がある。
「おい!徳川様と本多様に使者を出せ!」
「はっ」
「長曾我部を向かい撃つぞ!」
『小早川秀秋の陣』
や、やっと着いた…
強行軍過ぎる!
「殿、大丈夫ですか」
「おう!正成、話はついたぞ。広家は動く気になったらしい。あの狸が大領の毛利を見逃すはずないだろうに。それを見越したうえでの行動だろうが。秀元は大将としてまとめ切れていないな」
「まだ、お若いですから、老練な吉川様を抑えることは難しいでしょう」
「そうだな。あと、安治は旗幟を鮮明にしたぞ」
「それは?」
「家康に付いて、盛親と戦うんじゃないか?」
「そうですか」
「だから、安治を監視している部隊に、盛親の動きと合わせて攻撃しろと伝えておけ」
「はっ。しかし、何故、そう思うのですか?」
「物見が喧嘩売ってきたからな!」
「喧嘩?」
「そうだ、俺たちを攻撃しようとしていたし、俺が正体を明かしても態度は変わらなかったからな。下馬もせずにな」
「それは戦場の習いと思いますが」
「裏切らないなら、家臣も下馬をすると思うが?まあ、迷っているのかもしれないが、喧嘩に不確定要素はいらないぞ。何時裏切るかわからん奴が近くにいるなら、側面を攻撃されて混乱することになるからな。邪魔な奴は排除しないと」
「はぁ、無駄に敵を作る必要はないと思いますが」
「平時ならそれでもいいが、喧嘩の時にまで、そんな事に気を配る余裕はない」
「確かにそうですが」
「頼勝は?」
「前線に行って差配しています」
「そうか…さて、小細工をしないといけないから、頼んでいたものはあるか?」
「紐は用意しています。後はお守やかぎ爪も」
「おう、それじゃあ、引き続き指揮を頼む。親次来い」
「はぁ、分かりました」
「はっ」
とりあえず、捕縛用の道具をつくならないとな。
正則と忠勝対策が必要。
まあ、それでも狸の周りには武勇の高い連中が多いからな…
あ、そういえば、弓がすごい爺が本陣にいるんだよなぁ。
スナイパーを躱すのは難しいから、どうするべきか。
「どうかしました?」
「いや、すごい矢を放つ爺が狸の近くにいるからどうしようかと思ってな」
「大島殿ですな。確かに強弓の方。でも、徳川家中には弓を良くする方々も多くおられますよ」
「そういえば、そうだった…狙われるとやばいなぁ」
「殿が前線に行かなければ良いだけです」
「まあ、そうだけどな。だが、相手方では、まだ正則は話が通じそうだしな」
「確かに、他の将と違いますな。後は浅野様ですか」
「幸長は毛利の前だから、何ともできねぇ。あいつなら俺でも捕まえれそうなんだけど。でも、忠勝には勝てない」
「いや、私も見たことがありますが、本多様に勝てる方はいないのではないでしょうか?」
「確かになぁ、あれ、本当に人が?人外じゃないのか?」
「それは流石に失礼ですが、あの強さは人の枠を超えています」
「まあ、乱世だから勝てるやつもいるかもしれないし、知られてないやつもいるだろう。後は宗茂ぐらいか?」
「あの方は確かに本多様と比肩される方ですね」
「ああ、そうか。宝蔵院の連中がいればあるいは勝てたか?」
「槍を使うだけというなら、可能性はあるかもしれません。ああ、そういえば、福島様の家臣に居た気がします」
「吉長とかいう、可児だな」
「そう、そうれですね」
「正則を捕縛して、吉長と二人を当てれば勝てるか?」
「分かりませんな…」
正則は何とか挑発して、冷静な判断が出来なくすれば捕縛できる可能性はあるが、忠勝は無理だろうなぁ。
なんで、そんば化け物がいるんだよ。
鬼武蔵の長可が居ればあるいは…だけど。
ため息しか出ない。




