6話
そう言えば、家康は伊賀の忍者を雇っていたな。
この時代忍者とわ言わないのか。
「行こうと思ったが、正成、頼勝」
「なんでしょうか」
「なにか?」
「うち、乱破や素破、しのびを雇っていたか?」
「十数名ほどなら」
「少ないな…」
「大半の家はその程度だと思います。雇うにしても銭が必要なので」
「家康は雇っているのにな…」
「徳川様は所領もありますし、先代、先々代からのつながりもありますので」
「だよなぁ、正家のところに居そうだが、今更か」
「はい」
「じゃあ、腕が確かな奴と、雇った者たちを三人一組にして、周囲に配置して家康のしのびを防がせろ」
「分かりました」
「俺が毛利に行く際にも二組ほど連れて行く」
「はっ」
「防諜は重要だからな。暗殺されたら目も当てられん」
「分かっておりますが、乱戦になると…」
「それは仕方ないか、行くわ」
「お気をつけて」
「おう!任せたぞ!」
「「はっ」」
と、勇んでいったものの、この山道に足袋と草鞋とか辛いな。
馬で移動したり、降りたり、歩いたり…
急がないと、二時間ぐらいかかるだろうが往復だと四時間か…
もっとかかるかもしれないけど。
この身体の内臓ボロボロの気がするが、結構体力あるな。
「親次か!」
「と、殿なぜこちらに?」
「ちょっとな、親次すまんな。お前だけでは動きそうにないと思ってな」
「なるほど、確かに毛利様や恵瓊様は前向きでしたが、吉川様は抑えていました」
「やっぱりか…、とりあえず、お前たちも一緒にこい」
「はっ!」
「殿、もうすぐ南宮山の麓です」
「家康の物見はここまで来ていないか…」
「しのびを何名か始末したようです」
「そうか、では、正吉!先ぶれとして、向かってくれ!」
「はっ!」
とりあえず、正吉が向かっているからゆっくりと登るか。
『毛利秀元の陣』
「殿!」
「どうした」
「小早川様の使者が来ております」
「は?またか?」
秀元はそれを聞いて眉をひそめる。
元々、小早川家も元就が乗っ取った家だったが、如水と秀吉に奪われたようなものだ。
まあ、祖父元就が乗っ取ったと考えたら、強くも言えないが…
秀包叔父上が継ぐはずだったのだがな。
それに先ほど、志賀親次が使者に来たはずで、またか。
「分かった、広家と恵瓊も呼んで来い」
「はっ」
暫くしたら、二人とも来たな。
恵瓊は汗をかいているが、広家は涼しい顔だが苦い表情をしているな。
まあ、使者なら三成が送ってくると思っていたら、秀秋から来たのだから予想が外れたんだろう。
「よし、来たな。使者を」
「はっ」
ふむ、入ってきたものは見たことはあるな。
「堀田正吉と申します」
「先ほど、志賀親次というものが来たが、今度は何だ」
「はっ、今、我が殿が来られますゆえ、先ぶれとしてきました」
「…は?」
広家や恵瓊、家臣どもをみるとびっくりした表情を浮かべているな。
うん、俺もびっくりしている。
いま、戦っているよな、小早川は?
放った物見からは、小早川は松尾山の麓にいた朽木ら三家と共に藤堂に攻めかかったと報告を聞いたぞ?
それを聞いた広家は苦い表情をして、恵瓊は広家を責める目を向けていた。
「聞き間違いかな?今、小早川殿が来ると」
「はっ、毛利様と話がしたいとのことです」
「こちらの物見から今、小早川勢は攻めていると聞いているが」
「その通りでございます」
「何で大将の秀秋がこっちに来ているんだよ!」
「それは、毛利を動かすためだぞ」
「って、秀秋!?」
「おいおい、驚いているから仕方ないが、呼び捨ては取り合えず止めてくれ、ははははは」
なんで、こんなところにいるんだよ!秀秋!
まして、こんな明るかったか?!
『小早川秀秋』
ははは、ドッキリ大成功!
意表を突くことによって、場の主導権を握る…とは思えないが、多少は有利に働くだろうと思いたい。
「まあ、呼び捨てでも良いぞ、秀元」
「あ、いや」
「ここは腹を割って話さなければならんからな。それに俺の方が年下だからな、立場と差し引いたら対等だ!」
「…はぁ、分かった」
「よう、広家!渋い顔しているが、何が厄介なことがあったか?」
「いえ」
「恵瓊頭光ってるな!ぴかぴかだ!だが、兵を率いるのは大丈夫か?」
「はぁ、問題ありません。ところで、何の用でここに」
「そりゃ、遊んでいるお前らのケツを蹴りに来たんだ!」
「これはこれは」
恵瓊は頭をなでながらこちらの意図を感じたか、目線が広家にいっているな。
「秀元よ」
「なんだ」
「なんで、徳川に攻めかけない?」
「それは…」
目線が広家に行くな。
まあ、毛利と言っても分家だからな。
両川のひとつ吉川の当主で、年上の広家には強く言えんか。
元康ならいえるかもしれんが。
「で、広家、何故攻めかけない?」
「それは、機が熟しておりませんので」
「はあっはははは、何だ機って、遊んでいるのが機を待つのか?」
「そうですな」
挑発しても表情を変えないか。
元長が亡くなり、次子元氏ではなく、三男の広家が何故家督をついたかはよく分からないな。
病弱だったと言われても、次子で功績もあるはずの元氏を差し置いて家督をつけば不和になるのは当たり前だろうに。
「それで、お前が黒田長政と約束したことが履行されると思っているのか?」
「…」
「な!?それは本当か、広家!」
恵瓊は騒がず、じっと広家をみちえるが、広家は顔色を変えないな。
流石に、老練と言えるか?
「何のことか分かりませんな」
まあ、否定するよなぁ。
交渉の手札として、まだあとの方が良いだろうけど。
だが、断る先手必勝だ!
「隠すな、隠すな。家康なら調略なんざお手の物だろ。叔父上が亡くなって、禁止されている婚姻関係を強引に進めるような狸だからな。有力な者たちには話は来ているだろう」
「ほう、それでは小早川様も?」
「おう!そうだな!来ていたぞ。追い出したが目付もいたぞ!」
「は!?」
恵瓊は眉を顰め、何度も頷いているな。
秀元、さっきから驚きすぎだぞ?
流石に広家でも、顔色を変えたな。
認めて、内情を話すと思っていなかっただろうがな
「お、お前、裏切るのか!?」
掴みかかってくるなよ、お前は馬鹿力なんだから脳筋め。
「ははは、慌てるな秀元、裏切っているなら小早川が藤堂らを攻めていないだろ?」
「ん?そうだな…だが、目付までいたなら裏切るはずだったのでは?」
「まあ、家臣たちが動いていたからな。でも、家康は俺に喧嘩をうったんだよ、俺に!」
「喧嘩?そりゃ、戦する以上、喧嘩と言えば喧嘩だろ?」
「家を残すなら三成より家康だと思ったんだろうけどな。長政の家臣が俺を小ばかにしてな、その後、藤堂が鉄砲を撃ってきた。配置的には遠いけど、なんか、癪にさわった」
「癪にって、お前は子どもか」
「ほっとけ!」
「はぁ」
「長政からの目付だからな、お前のところにもいるのか広家?」
「そうだ、広家!どういうことだ!」
「そんな根も葉もないことを言う為に?」
「罪を犯した者が犯したとはいわないな」
「…」
冷めた目でこっちをみるなよ、広家。
そんな目は美女だけが許されるだぞ!
「確かに、広家がいうように何を根拠に?」
「根拠も何も、お前が攻めるの邪魔しているのは誰だ?」
「…確かに」
「広家、お前が内通していないならよけろよ、邪魔だからよ」
「小早川様に命じられるいわれはありません」
「はははは、これでも一応は両川の小早川だぞ?お前、なめてんのか?それとも、お前は毛利家の大将か?輝元殿を下に見ているのか?」
「何を馬鹿なことを」
「輝元殿は九州や四国にも手を伸ばしているんだろ?お前が言うような恵瓊の策略というのは筋が通らないぞ、分かっているのか?」
「知りませんな」
「おお、知りません、分かりませんとか、お前こそお子様だな!」
広家の家臣がこっちを睨んでいるな。
でも、広家は表情を変えないな。




