57話
『宇喜多秀家の陣』
俺の筋肉にかかれば、これぐらいの巨木でも持ち上げて!
「殿、おやめください。体が耐えれません」
「だがな、これを投石器に乗せれば!」
「そのような大きな木は乗せれません。もっと切り分ける必要があります」
「…ちっ」
「これをそっちに持っていって、切り分けろ」
「はっ」
「筋肉が足りないか…」
「いえ、指揮をしてください」
「分かった分かった。どうだ、戦況は?」
「投石器の攻撃で、馬房柵の敵は混乱していますが、流石、井伊直政と言ったところでしょう。混乱しつつも崩壊しないようにまとめています」
「全登から見てもか?」
「はい、赤備えと言えば、攻撃に特化したと思っていましたが、守りにも強いようです。隣の松平忠吉は乱れたままですし、筒井は先代順慶殿に比べれば兵の扱いは上手くないようですな」
「順慶殿は上手かったか?明智や殿下のどちらに付くかの様子見をしたのは知っているが…」
「確かにそうですが、あの複雑怪奇で寺社の力の強い大和で勢力を維持したことは、才がなければ無理な事です。家臣も離反する可能性もある状況で、松永久秀らと争い生き残ったのは称賛に値するものです」
全島の言葉は、俺の采配で戸川らが離反した事を言われているようで突き刺さるな。
そうか、大和は寺社の力が強いから氏子、信徒が寺社から要請があれば離反する可能性があっただろう。
松永らによって、争い一時は没落したのち、復活したその手腕を考えれば、順慶殿は尊敬できるな。
離反した者たちも戻ってきただろうし…うっ、辛いな。
やつらは徳川方になっている事を考えると、やりにくいが…
「殿、今、鍛えないでください」
「いや、ちょっと、嫌な事を思い出したから、筋肉を鍛えようと。筋肉はすべてを解決するからな」
「解決しません」
「ん?」
前線で喚声があがったな?
「何があった?」
「井伊が打って出てきました!」
「全登」
「はっ」
「正次!後詰の兵を!」
「はっ!」
「義則!投石器を守れ!」
「はっ!」
「前線は大丈夫と思うか?」
「赤備えの井伊である以上、まっ正面から戦えば、厳しい戦いになると思われますが、小早川様から渡されている炮烙を使えば、出鼻はくじくことが出来るかと」
「そうだな。そのせいで鉄砲が使えなくなったがな」
「それはそうですが、所詮鉄砲は弓に比べれば敵を討ち取る数が違いますので」
「まあ、言う通りではあるが、あれは弾幕と、馬を驚かすには有効だがな」
「はい」
井伊が打って出てきたか。
確かに、このままでは攻撃し続けられるからな、打って出て、投石器を潰すしかない。
田中や生駒は混乱し、筒井も含めて逃げ出す兵も居る状態では、それに巻き込まれ崩れる可能性がある。
ならば、打って出るしかない。
「松平も合わせて出てきました!」
「井伊に引きずられたか?」
「そうと思います。松平は血気盛で井伊は舅になりますので、歩調を合わせたのでしょう」
「そうか、ならば、俺も出るか」
「殿?」
「そんな顔をするな。松平は徳川殿の息子だ。殿下の養子とは言え、子であるわしと釣り合うだろう」
「何をこじつけているのですか?危険を犯すほど、追い詰められておりません」
「ははは、お前には井伊を任せる」
「はぁ、面倒な」
「穴から出てきた兎を狩るようなものだ」
「確かに、守り続けられても面倒ですね」
「そう言う事だ」
「分かりました」
「出るぞ!」
さて、松平忠吉はどのような差配するのかな。
俺も若いが、それなりの場数を踏んでいるぞ。
『井伊直政の陣』
やはり、投石器で攻撃してくるか。
このまま守っていても限界がある。
木の盾では、小さいものは防げても大きなものは押しつぶされるだけだ。
…ならば、打って出て、投石器を破壊しつつ、宇喜多の首を取るしかない。
「出るぞ!」
「殿!?」
「このままでは、兵が倒れやられ続けるだけだ。兵を下げたところで、敵が前進すれば意味がない」
「分かっておりますが、相手も相応の手当をしているはずですが」
「前に進めば、投石器の範囲から逃れられる。早々動かせるわけでもあるまい」
「確かに…」
「私たちは、徳川の先陣であり、死を恐れぬ赤備えぞ!」
「はっ」
「策を出て打ち出るぞ!狙いは投石器と宇喜多の首!徳川の武威を見せつけるぞ!」
「「「おう!」」」
投石器は所詮、距離を持って使う武器であり、懐に入れば仕えまい。
守りを固めているであろうが、こちらの攻撃を耐えれるほどの守りがあるとは思えない。
身に守ってもじり貧だ、打開する!
『松平忠吉の陣』
む、舅殿の陣が騒がしいな。
もしや、打って出るのか?
兵たちが混乱し、乱れて纏めれない!
くそ!なんという体たらくだ。
関ケ原に来ない兄上を馬鹿にできぬ!
「舅殿が打って出るのか、確認してまいれ!」
「はっ!」
もし、舅殿が打って出るなら我も合わせて打って出る。
このままでは混乱して崩れるかもしれぬ。
ならば打って出るしかない。
「おい!もし、舅殿が打って出るなら、筒井、田中、生駒らにも声をかけるぞ」
「はっ」
「殿!」
「どうだった!」
「打って出るようです!」
「そうか、ならば、筒井らにも打って出ることを伝えよ!舅殿が既に伝えているかもしれんが、混乱して動けないと置いておかれているかもしれんからな」
「はっ」
打って出るか、これで宇喜多の首を取れば、功績は大きい。
もしかすれば、兄上の代りに…いや、今はそんなことを考えている暇はない。
明石全登…全登
戸川達安…達安
進藤正次…正次
本郷義則…義則
松平忠吉…忠吉
筒井定次…定次
田中吉政…吉政
生駒一正…一正
明智光秀…光秀
筒井順慶…順慶
松永久秀…久秀




