43話
『真田昌幸の陣(上田城)』
秀忠が陣を払ってから数日たったが、抑えの兵はそのまま置いているな。
挑発しても動かない。
信幸がいるからか?
これでは、身動き取れないな。
いっそのこと、こっそり、信繁らを関ケ原に送り込むか?
忍びと少数なら問題ないだろうが…
「父上」
「どうした」
考えていたら、信繁が来たな。
何か手にあるが、書状か。
「どこからだ」
「石田様、小早川様です」
「…石田殿は分かる、小早川殿?」
「はい」
石田殿からは関ケ原の状況だろうが、小早川殿?
あの者がなんの用だ?
寝返っている可能性が高いから、投降を進める?
いや、あの者はそんな勤勉なものではない。
「どれ」
書状を受け取って中を読むと、なるほど、真田の忍びを寄こしてほしいか。
確かに、あちらは少ないかもしれないな。
狸の忍びの数には勝てないだろうな。
特に、伊賀や甲賀は敵味方に分かれても繋がっている事があるからな。
だが、石田殿がこのような事を言うか?
後は、戦いは決着はつかなかったか、一時、休戦したという事は今は再開しているか。
日付は三日前か、しかし、よくここまで三日で書状がきたか。
「あと、天候が不順で中山道が荒れているようです」
「そうか、そうなると子狸はすんなりいけぬな」
「そうなりますね」
今から信繁を行かせても、間に合わぬ気がするな。
子狸の嫌がらせをするぐらいか。
だが、要請が来た以上、行かせてもよいな。
そうだ、小早川からも来ていたな。
「これを読んでみろ、わしは小早川殿の書状を読む」
「はい」
さてと…ふむ、なんかまともんだな。
おかしい、小早川のぼんくらが?
「どうされました?」
「ん、いやな、小早川殿の書状の内容がな」
「何が問題ありましたか?」
「いや、石田殿と同じで忍びを送ってくれと、子狸の進軍を遅らせて欲しいと」
「…本当に、小早川様から?」
「だな、わしも首を傾げた」
「父上が首を傾げた理由が分かりました」
「まあ、どうでも良いか。書かれていることはまともだからな。ほれ」
「はい、そうですね」
さて、こちらが遅れる者たちにも限りがある。
確かに石田殿に送ったとしても、どこまで役に立つか。
それなら、小早川殿のいうように、子狸の遅滞をさせた方が良いか。
糧秣あたりを焼いても効果があるだろう。
「よし、信繁」
「はい」
「関ケ原に向かえ」
「分かりました」
「本当はわしが行きたいが…」
「年齢を考えて下さい」
「煩い、まだ若いわ。まあ、わしがここからいなくなれば、信幸に気が付かれるだろうな」
「それは、あんなふざけた書状を送るからですよ。兄上から愚痴がびっちり書かれた書状来ました」
「おう、わしのところにも来たぞ」
「はあ、いい加減落ち着いてください」
「ははは、まあ良いだろう。ここはもう動くことはない。関ケ原が決着するまではな」
「はい」
「小早川殿の書状のように、関ケ原に間に合うかは微妙だ。どれぐらい長引くか分からぬからな」
「はい」
「であれば、子狸の糧秣を焼いて、関ケ原に付くのを更に遅らせて、その間に関ケ原に向かえばよい」
「分かりました。多分、そこまで警戒はしていないでしょう」
「ああ、反抗的なのはわしのところぐらいだからな。糧秣を焼けば、それを集めながらなら時間がかかるからな」
「では、行ってまいります」
「頼んだぞ、石田殿のよろしく言っておいてくれ」
「はい」
信繁が出ていこうとする後姿を見ていたが。
「そうだ」
「なんです」
振り向いた信繁が不思議そうな表情をしているな。
「出来ればよいが、小早川殿を見てきてくれ。どうも、まともになりすぎて、本人かどうか」
「ああ、偽物かどうかですね」
「そうだ」
「いや、流石に石田様も居ますし…」
「分かっているが、念のためにな」
「分かりました」
忍びが減れば、諜報活動が減るが、それは村の者たちを使うか。
どうせ、こちらで戦が起きることはないからな。
本当であれば、関ケ原に行きたかったが仕方ないな、子どもに花を持たせよう。
『徳川秀忠の陣』
道のぬかるみが酷いな。
川も氾濫していたり、増水している所もあるらしいが…
「殿」
「忠隣か、何かあったか」
「小荷駄が土砂崩れに巻き込まれ、その直後に盗賊が現れ糧秣を奪ったり、燃やしていきました」
「何!護衛は何をしていた!?」
「土砂崩れに巻き込まれたり、仲間を助けようとしている時に襲われて…」
「ぐっ」
そんな状況では、叱りつけることもできない。
「分かった、糧秣を周辺の村々から集めてこい」
「分かりました」
「後は、埋まった糧秣や兵たちの救助を」
「はっ」
「ちょっと待て」
これでは、さらに遅れてしまうな。
康政に伝令を出すしかないか。
「家次らに兵を纏めさせ、康政の後詰として発進させろ」
「それは」
「このままでは、更に遅れる。ならば、それならば進めれる兵を更に送るべきだろう」
「しかし」
「それは良い案と思います」
「正信か」
「戦も分からぬものが…」
「忠隣」
「…申し訳ございません」
忠隣が苦々しい表情を浮かべておるが、そんなことをやっている場合ではない。
なるべく、多くの兵を父上の元に送らなければならん。
だが、糧秣が減れば集めるのに時間がかかる。
ならば、行けるものだけでも進めるべきだ。
「遂次に送るのは愚策かもしれんが、現状では仕方あるまい」
「…そうですね」
「使える糧秣や近くの村々から挑発したものを併せれば、ぎりぎり関ケ原まで持つでしょうが、それを集める時間も惜しいです」
「では、正信どうする」
「酒井殿らを榊原殿の後詰として送りつつ、合わせて、糧秣を集める部隊も先行させ、村々から糧秣を集めさせるべきです」
「なるほど、それは良いな。忠隣どうだ」
「…良き事かと」
はあ、確かに豊臣を馬鹿にできぬは。
三河一向一揆が此処まで引っ張るとはな。
「頼水、忠政は信濃や美濃に土地勘があるだろうから、兵糧を集めさせよう。直ぐに出発させろ」
「はっ分かりました」
忠隣にも困ったものだ。
私をずっと支持してくれているんだがな。
「さて、それ以外にすることはあるか」
「土砂崩れにあった者たちの救助には村の者たちを使いましょう」
「糧秣は」
「そこは使えるものだけで、あとは掘り出した者たちに与えればよいかと」
「まあ、どろにまみれているから、食べれるようにするのは面倒だな」
「はい、それと多分ですが、複数個所で同じようなことが起きていると思われます」
「なんだと」
「土砂崩れ、盗賊は都合がよすぎます。いくら天候が悪くても、起きて直ぐに動くなど無理です」
「山の民ならば分かるのではないか?」
「確かにそうでしょうが。彼らはわざわざ我らを襲って身の危険を引き寄せることはありますまい」
「確かにな…では、誰が?石田方の者たちはここらにはいないと思うが…まさか、前から石田が仕掛けを?」
「そんなことはありますまい。天候不順まで予測できるとは思えません」
「ならば?」
「真田でしょう」
「またか!」
「我々に殿からの書状が来ている以上、あちらにも書状が送られているはずです」
「それは確かに…そうか、こちらを更に遅らせる為か」
「はい」
「だからこそ、中納言様が言われた酒井殿らを送るのは有効な手だと思われます」
「そうか」
「おちつけば、更に先行させるのも良いと思います。ただ、残る部隊は糧秣に苦労するとは思いますが…」
「構わない、私が残って糧秣などを康政らに送り出す」
「分かりました」
正信も納得しているな。
ならば、この判断は間違っておるまい。
「少し離れた場所からも糧秣を集めるように手配してくれ」
「はっ」
はあ、これでますます遅れる。
父上が激怒するのが目に浮かぶな。
石田三成…三成
真田昌幸…昌幸
真田信繁…信繁
徳川家康…家康、狸
徳川秀忠…秀忠、子狸
真田信幸…信幸
本多正信…正信
大久保忠隣…忠隣
榊原康政…康政
酒井家次…家次
森忠政…忠政
諏訪頼水…頼水




