41話
『山内一豊の陣』
嘗ての毛利家の威勢を思い出すと、今はあまり脅威に感じぬな。
吉川も元春や元長が居た頃に比べたら、脅威を感じん。
手堅いが、怖さを感じぬ。
このまま防いでおれば、江戸中納言殿も中山道からこちらに来るだろうし、戦力差はこちらが有利になる。
江戸中納言殿は戦下手だから、真田如きに翻弄されるだろうと思っていたが、関ケ原への着陣が遅れている事を考えると予想は当たっているな。
真田などは、小勢で山などを使った戦いは得意であろうが、大軍を率いた戦いでは大した事はないだろう。
謀略を仕掛けても、所詮は大軍の前では踏み潰されるだけ。
徳川殿はその点、大軍を率いての戦には慣れておられる。
江戸中納言殿ももう少し、戦を学ばれれば良いものを、やはり苦労を知らぬが故かな。
徳川殿の傍らには、本多の息子がいたから正信は江戸中納言殿の元にいるのか。
正信を嫌っている江戸中納言殿は諫言も聞く耳持たんだろうな。
いや、徳川殿は江戸中納言殿の軍勢が居なくても勝てると思い、失敗をさせて経験を積ませようとしているのかもしれんな。
このままでは、徳川殿の力を自らの力と江戸中納言殿が勘違いする恐れもある。
後は、江戸中納言やその周辺にいる者たちが、調子に乗らないようにする策かもしれないな。
殿下の親族とは思えないほどの小早川は愚鈍だから、調略して寝返らせていると思っていた。
それに、庇ってくれた恩もあるから、小早川はこっちにつくと思ったが…
「と、殿!」
なんだ、慌てて、為重、一秀が駆け込んできた。
「何だ、その慌てようは、落ち着け!」
「はっ」
一喝して落ち着かせたが、何があったんだ?
「で、為重どうした」
「それが、吉川勢から大筒の砲撃を受けて、池田勢が混乱しております」
「なんだと!」
吉川は大筒を隠し持っていたのか!
いや、そんな話は、徳川殿からも忍びからも話は来ていなかったぞ!
「だが、高々、一門か、二門ていどなら退けば躱せるだろう?」
「そ、それが十数発撃ち込まれております!」
「な、なんだと!そんなにも…いや、そうであっても、加熱するからしばらくすれば収まるのではないか?」
「撃ち終わると同時に、吉川勢が突撃を仕掛け、混乱している池田勢に突入して混乱が大きくなり陣が乱れております」
「まさか…」
「それと」
「なんだ、一秀」
「池田勢へ突入した後ろから毛利勢が攻め寄せ、浅野勢に炮烙を投げ込み、巻き込まれた兵たちに甚大な被害が出ており混乱しております」
「なんと!?」
炮烙だと!
確かに、船だけではなく地上でも使える。
中に入れるものを替えれば、小石でも入れれば被害も増えるかもしれないか…
「分かった、池田殿、浅野殿は無事か」
どうした、二人とも顔を左右に振って、沈痛な表情しているが…まさか!?
「討ち死にされたのか!?」
「いえ、混乱した兵と、炮烙の爆発音で馬が暴走し落馬されたようで、後方に引いております」
「意識はあるのか」
「ないようですが、呼吸はしておられるようです」
意識を失っただけかもしれん。
討ち死にすれば、池田と浅野の兵が使い物にならなくなる。
「直ちに兵を整えて、後詰に行くぞ!」
「はっ」
「有馬殿、蜂須賀殿にも伝えよ!」
「はっ」
後詰で行くのは良いが、混乱している所に行けば巻き込まれかねない。
敵の側面を突くしかないが…
「吉川や毛利はその場に留まっているか?」
「いえ、突入を繰り返しているようですが…」
「我々が行った時には戻っているか」
「そう思われます」
「一秀」
「はっ」
「お前は、此処に残り前面に居る坊主の兵を警戒しておけ」
「はっ」
くそ、坊主がこちらに陣を構えたのは牽制だと分かっていたが、このような策があるとは…
『毛利秀元の陣』
小早川から来た木砲と炮烙は良い働きをしているな。
技術者もこちらにひとりこちらに来ているから、兵たちに作らせよう。
今日明日で終わる戦でもない。
江戸中納言が中山道から来る際に、お見舞するのも面白いだろう。
「広家、上手くいったな」
「ええ、行き過ぎですね」
「池田と浅野は討ち取れたと思うか?」
「分かりません。家臣が落馬したのを見たものが居ますが、落ち方が悪くない限り命に別状はないでしょう」
「そうか…深入りは危険だからな」
「そうです、山内の手勢が来たら挟撃されますので」
「恵瓊で牽制していても、奴では抑えることは無理だろうしな」
「はい」
広家は苦笑を浮かべるな。
恵瓊とは元春叔父上の頃から仲が悪いからな…
外交も内政もそつなくこなすんだが、元は武田の出だから、どうしても信用できないんだろうな。
後は、相性なんだろうな…
「火薬は手配しているが、鉄砲の火薬も使うか。嫌な顔をするな」
「確かに、弓の方が良いでしょうが、やはり、あの音は使い勝手がよいので」
鉄砲の命中精度は悪いが、弾幕とうまくいけば討ち取れるからな。
発砲の際の音は、馬だけでなく人も恐怖するのが良いが、雨が降ったら使い物にならん。
「分かりました。恵瓊殿にも伝えて、火薬をこちらに持ってきてもらいましょう。その分、弓矢が必要になりますが」
「そちらも、秀秋に頼んでいるし、多少の歪みがあってもよいからと、近くの村に矢を作る事を頼んでいる。あと、中山道の監視を怠るなよ」
「分かっています」
くくく、後は江戸中納言を驚かせてやろうか。
毛利秀元…秀元
吉川元春…元春
吉川元長…元長
吉川広家…広家
真田昌幸…昌幸
恵瓊…坊主
徳川家康…家康
徳川秀忠…秀忠、江戸中納言
本多正信…正信
本多正純…正純
山内一豊…一豊
五藤為重…為重
祖父江一秀…一秀
池田輝政…輝政
浅野幸長…幸長
有馬豊氏…豊氏
蜂須賀至鎮…至鎮




