37話
『本多忠勝の陣』
なんだ、小早川の方から太鼓の音が大きくなっているな。
いや、小早川だけではなく、朽木、小川、赤座の陣からも太鼓の音が鳴りだしている。
ん?
大谷からもなり始めているのか?
石田の方からも、宇喜多からもか?
攻勢に移るのか?
そこまで有利ではないはず、わざわざ陣を放棄するのか?
「おい!」
「はっ!」
「前線と他の場所の様子を見てこい!」
「はっ」
太鼓の数が尋常ではない。
せいぜい全体で十数個程度なら分かるが、これは数十はある。
ただ、この音は通常の皮の太鼓ではない気がする。
いつまでも鳴り止まらない。
朽木らも士気が低かったが太鼓の音で士気が回復したように思える。
こちらも押していたが、押し返されている。
永井殿らも太鼓の音の後から士気が変わったと言っていたようだな。
それと同時に、大谷と小早川からの後詰が来たと。
太鼓だけで士気が上がったわけではないだろうな。
「殿」
「どうした」
「他の陣でも太鼓の音がなり、敵の士気が上がったと」
「ふむ」
「あと、太鼓の音で攻勢が来ると感じて、一旦陣を引いたところもあるようで、一時混乱が起きたようです」
敵の策か?
こちらを混乱させる為の?
大谷が考えたものかもしれんな。
だが、それだけで、攻勢に出ないと分かれば、また攻め寄せられるだけ。
いったい何を考えているのか。
まさか、大津や宮津の兵がこちらに来たのか?
「おい、殿の元へ確認に行ってくれ」
「はっ」
「敵の増援か来ているかの確認を」
「分かりました」
もし、近くまで来ているなら、殿も何かをつかんでいるはず。
伊賀者や甲賀者、柳生の者が探っているはず。
敵の増援がすぐに来るならば、戦況が悪化する。
「殿、敵の増援はまだのようです」
「そうか…」
なら、いったい何のための太鼓なのか?
分からぬ、分からん。
『大谷吉継の陣』
小早川殿の行動は一見脈絡がないと我々も感じるだろう。
本当に脈絡はないんでしょうが、馬鹿なんでしょうね。
こちらも疑問に思うなら、敵も思うでしょう。
何かの策があるか、大津や宮津の兵が来ているのかと。
徳川殿であれば、忍びを使って情報を集めているでしょうが、他の者たちはそのような余裕がないでしょう。
「殿、太鼓はこのままで良いのでしょうか」
「良いです。敵も混乱している間は、そのままで良いでしょう」
「分かりました」
「何度か繰り返し、相手が気を許した時に、攻勢を行い度肝を抜いてやりましょう」
「はっ」
何度も、繰り返せば、相手もないと思い気にも留めなくなるでしょう。
そのタイミングで、攻勢に出れば相手も混乱が広がるはず。
三成もそれを感じてもらえば良いのですが…
黒田殿は引くでしょうが、細川殿はより反撃に出そうですね。
『徳川家康の陣』
太鼓の音が響いているな。
これは、数十はあるはず。
皮で作られてモノではない音だな。
攻勢に出るとは思えんが、いったい何のために?
士気を上げるというのは当たり前だが…
さて、何を考えているのか。
もしや、大津を落とした兵が来たか?
宮津はもう少し刻がかかるだろう。
「宗矩」
「はっ」
「大津の方はどうだ?」
「つい先ほど、落城したとの報告がありました」
「そうか、いつだ。一昨日とのことです」
「そうか」
そうなれば、こちらに到着するのも間もなくだな。
今日か、明日あたりか?
だが、到着して直ぐに戦いに参加は出来まい。
「秀忠はどうなっている」
「父からの書状では、上田に抑えの兵を置いて、こちらに向かったとこちら先ほど報告がありました」
「ならば、同じぐらいでこちらに到着するか」
「そう思われます」
秀忠の愚か者が、真田ごときに手間を取りおって。
あんな小城、抑えを置いて、さっさとこちらに来ればよいものを!
正信も秀忠を抑えきれな何だか…
秀忠も正信を嫌っておったな、後継ぎでは正信は秀康を推していたからその影響か?
情けないわ、嫌な家臣でも使いこなすのが当主の器ぞ。
いったい誰に似たのか。
「引き続き、調べよ」
「はっ」
無理とは思っておったが、やはり、暗殺は無理であったか。
何名かの手練れを失ったようだが。
上手くいかぬものよ。
やはり、小早川の小僧が寝返らなかったせいだな。
秀忠が来てから戦い方を考え直すか。
持久戦になれば、各地の情勢も分かってくるだろう。
後方の者たちにも書状を書かねばな。
『石田三成の陣』
ふむ、小早川殿の話を聞いて、太鼓を鳴らしてみたが案外面白い効果があったな。
「左近」
「はい」
「前線の士気はどうだ?」
「太鼓の音と共に上がっております。また、小早川殿の言われたように、兵を定期的に変えている事によって、心身ともに良い状況です」
「そうか」
あの小早川殿の意見だから、どうなるかと思ったが、左近が言うように良い傾向のようだな。
確かに、疲れたり、傷を得たものと、気力が充実したものを入れ替えれば、戦線も維持もしやすいようだな。
しかし、アレな小早川殿がこんなことを言ってくるとはな。
傷ついた兵を入れ替えるのはあるが、部隊ごとに入れ替えるという発想はなかったな。
「大筒を使うのはどう思う?」
「相手の混乱を広げるには良き事かと」
「では」
「はっ」
今でも木砲を作り続けているから、つぶれても問題ない。
『黒田長政の陣』
太鼓の音が聞こえたから、陣を出て攻撃を仕掛けてくるかと思って、兵を下げたが来なかったか。
石田の策であったか。
ん?
大筒の音か!?
「殿!」
「大筒か!」
「はっ!」
兵を下げた事が良かったかもしれん。
あのままであれば、被害が受けたかもな。
又兵衛め兵を退くことを拒否していたが、判断が正しかったではないか。
「殿!」
「どうした!」
「大筒の玉が此処まで来ています!」
「そうか、ならば、もう少し陣を下げよ」
「はっ」
「殿は、大筒の玉に怯えておいでか?」
「何だと、又兵衛!」
「細川様は攻撃を止められていませんぞ」
「細川殿は細川殿だ!被害を抑えねば意味がなかろう!」
「確かに言われる通りですが、所詮は大筒は大筒、被害が広がるとは思えませぬが。城攻めであれば違いますが」
「煩いわ!指示に従え!」
「…はっ」
生意気な奴め!
父も又兵衛の武勇を褒めるが、匹夫の勇ではないか!
腹立たしい。
朽木元綱…元綱
赤座直保…直保
小川祐忠…祐忠
大谷吉継…吉継
石田三成…三成
宇喜多秀家…秀家
真田昌幸…昌幸
島清興…清興、左近
永井直勝…直勝
阿部正次…正次
内藤清正…清正
本多康俊…康俊
徳川家康…家康
徳川秀忠…秀忠
黒田長政…長政
細川忠興…忠興
柳生宗矩…宗矩
本多正信…正信
後藤基次…基次、又兵衛




