29話
『毛利元康の陣』
「兄上、どうかしたか?」
「ああ、皆を呼んでくれたか?」
「はい」
秀包が首を傾げている。
「ありがとう。これを見てくれ」
「ん?誰からです」
「小早川殿だ」
「ああ」
秀秋の名前を出したら苦笑したな。
酒の無心でも書いて送ってきたと思ったか。
残念だったな、それの斜め上を突破する内容だぞ…っと、驚愕で口が開いておるわ。
「ははは」
「あ、兄上、何を笑っているんです。これは小早川殿が書かれたものですか?本当に?偽りの書状では?字が少し違うのでは?」
確かに字が崩れてもいないし、丁寧に書いている気がする。
楷書で書いたことあったか?
「確かに字は違うが、花押は確かに小早川殿の物だ。真似ても書けるが、こんな事を書いてくる必要があるか?」
「ま、まあ、確かに、書いてきたところで何かの暴力とは思いませんし…」
「まして、あやつなら書いてきてもおかしくはないだろ?」
「否定できませぬな」
秀包も苦笑を浮かべたな。
読んだときは、城攻めあとの疲れで怒りが込み上げてきたが、よく考えたらあ奴に期待するだけ無駄であろう。
如水殿と殿下の策略で殿の養子になる事を防ぐために、隆景兄上の養子となった時にあったが、そこまで愚かではなかったのだがな。
殿下の仕打ちからか、朝鮮での戦の辛さからか、酒を覚えてそちらに逃げて行った時から、様子がおかしかったな。
祖父弘元や伯父興元は酒が原因で亡くなったと言われていたな。
だから父上は酒には注意しろと、しつこく言い続けていたのを思い出す。
秀秋を見て、父上の言葉は事実だと感じたな。
「どうするのです、兄上」
「楽器か?」
「はい」
「まあ、余裕があれば探してみるが、楽器はどこも大事なものだからな貸し出しは無理だろう」
「そうですね。それを理由にして、放置しておきましょう」
「そう言うことだ」
「「ははは」」
「何か良いことがありましたか」
「これは、立花殿」
離していたら、立花殿が来たか。
徳川殿の本多殿と互する立花殿か。
この度の大津城攻めでも大きな働きをしてくれた。
大友との戦いでは、その父である道雪殿に苦労させられたが、味方となると頼りになるな。
元春兄上が亡くなってからは、本多殿や立花殿に五するものが毛利家にはいないのが残念だ。
「良い事ではなく、面白い事がありましてね」
「面白い事?」
不思議そうな表情を立花殿がしているな。
「兄上、小早川殿の書状を見せるのですか?」
秀包が嫌そうな表情をしているな。
小早川殿の恥は、毛利の恥じともなりかねないからか。
毛利両川ではあったが、既に、秀秋が家督を譲られた時点で毛利から離れたようなものだがな。
それでも、世間では小早川家は毛利の一門衆となるか。
「別に構わない」
「しかし」
「いや、別に問題があるならば見なくてもよろしいのですが」
「かまわない。関ケ原の状況は石田殿からの書状で分かるので、こちらは意味がないのですよ。秀包」
「はあ、分かりました」
「では」
秀包は空を見上げてるな。
立花殿は読みながら笑っているな。
馬鹿にした笑いではなく、楽しそうだな。
「相変わらず、小早川殿は愉快な方ですね」
「いやはや、一門としては笑えませぬ」
「ははは、確かに。私の義父殿であれば殴り飛ばされているかもしれませんね」
「確かに、道雪殿であればありえますな」
「ええ」
「「ははは」」
立花殿と顔を向け合って笑った。
剛直である道雪殿であれば、いや、実父である紹運でも同じかな。
「まあ、父紹運ではなく、道雪殿はちゃめっけもある方だったので、笑って済ませそうですが」
「そうなのですか?」
「ええ、多少のことは許してくれますよ。ただ、日ごろの行い次第ですが」
「ああ、それなら無理だな、小早川殿だと」
「確かに」
「「ははは」」
そうか、あの剛直と思われた道雪殿がな…
「どうなさるので?」
「暇がないので、貸し出しを断られたと言いますよ。無駄なことをしている刻はないので」
「そうなのですか?」
「ええ」
「ふむ、なら私の方で動いてもよろしいですか?」
「そ、それは」
「まあ、無理をする気はありませんよ。借りれるか、放置されている物があればということで」
「はあ、申し訳ない」
「いえいえ、こんな殺伐とした状況で、このような書状を書けるのですから器がでかいか、気が大きいのだと思いますよ」
「確かに、無鉄砲ではありましたが、前へ出る勇気はありましたな。若さゆえの行動だったでしょうが」
「なるほど」
立花殿と話しているうちに、諸将が集まってきたな。
「皆様方、良く来られた。明日、陣を畳んで関ケ原に向かいます」
皆、納得されたか。
「先ほど、石田殿から書状が届き、関ケ原にて徳川殿と戦端が開かれたそうだ」
「どうなりました」
立花殿が聞いてきたが、皆もやはり気になるなやはり。
「まだ、戦いが始まった時に早馬で乗り換えで届けてきたようで、結果は不明です。ただ、あの規模である以上、早々に決着がつくとは思えません」
「確かに」
「殿」
「今は軍議中だぞ!」
「秀包よい、どうした?」
「はっ、石田様からの書状です」
秀包に合図して、こちらに持ってきてもらった。
さて、なんて書いてあるか、書状を送れるという事は負けてはいまい。
…ふむ、なるほどな。
「石田殿はなんと」
「立花殿、初日は互角に戦い、一旦休戦になったようで遺骸の引き上げなどをしているようです」
「そうですか、流石に地形的にも有利で兵数が同じであれば、負けることはありまんな」
そうなんだが、秀秋や広家あたりの動きが怪しかったから心配だったが徳川殿を攻めたか。
石田殿や大谷殿から寝返りの可能性を聞いた時、さもありなんとは思ったがな。
秀秋のところには徳川殿に付いた黒田殿と繋がりのある頼勝殿がいるし、広家は元春兄上の関りで豊臣家を憎んでいるからな…
寝返らなくて、ほっとしているぞ。
毛利秀包…秀包
毛利弘元…弘元
毛利興元…興元
立花宗茂…宗茂
大谷吉継…吉継
徳川家康…家康
本多忠勝…忠勝
立花道雪…道雪
高橋鎮種…鎮種、紹運
石田三成…三成
吉川広家…広家
黒田長政…長政




