28話
『毛利元康の陣』
やっと、大津城を落としたか。
まさかここまで手子摺るとは、情けない事だ。
秀包にも無理をさせたな。
宗茂殿の武勇は見事だった。
さて、陣を整えて、少し休んだのちに関ケ原に向かうか。
秀元、広家もいるし、負けることはあるまいが膠着状態かもしれぬな。
殿に何を言われる事やら。
日頼様は天下を望むなと言われたのに、殿は野心をむき出しにして、九州や四国へ兵を出しておられる。
広家あたりは、恵瓊あたりの入れ知恵と思っているかもしれぬがな。
あの徳川殿と比較すれば、殿は経験と苦労がなさすぎる…
徳川殿自身ではなく、家臣も使って方々に手紙を送って誼を通じているが、殿はそのようなことはしておらぬ。
石田殿や上杉殿でさえ、殿は書状のやり取りは話し合いぐらいで、挨拶のようなものは送っておらぬだろうな。
日頼様であれば、方々に書状を送り繋ぎを作り、情報を集めてられたろうが…
そんな前段階の行動が一切ない状況で動いたところで、周囲が協力も従うわけがないだろうに、殿は気がついておられぬ。
隆景兄上が存命であればな…
徳川殿と向かい合ったであろうか?
元春兄上と隆景兄上の存在が大きすぎた。
わしらでは、殿を輔弼することは難しすぎる
秀包であればだが…
そう言えば、朝倉家も宗滴と言う御仁が亡くなられて、兵の差配が落ちて行ったという話を聞いたな。
まあ、そこまで毛利は落ちてはいないが、やはり人がいない。
良きにしろ、悪きにしろ、戦乱が落ち着いたからなのか、才が芽吹くものがいないな。
「兄上、ため息ですか、大津を落城させたのに」
「秀包か、いや、我が毛利も大領を持っても、元春兄上、隆景兄上のような殿を輔弼してくれるものが居ないと思ってな」
「それは…稀有な話でしかないのでは?普通、兄上たちのような才があれば、独立なりしますから」
「そうだな。聞いている島津、北条、長曾我部のように有能な兄弟が支えるのは乱世では稀有だな」
「ええ、まして、上の兄上たちの才はこの国でも最高の位置にいる人達ですから」
「自らの無才がうらめしいな」
「何を言われる。大兵を率いて大津を落としたでありませんか」
「それも、立花殿らやお前が居たからだ、わしの功ではない」
「あまり、上の兄上たちと比較しすぎると気がめいりますよ」
「そうだな」
秀包の言う通りだな。
落城させて気が落ち着いたからいらぬ事を考えてしまったかもしれん。
「騒がしいな、どうかしたか?」
「少し見てきましょう」
「頼む」
一緒に行こうと思ったが、待った方が良いだろう。
帰ってきたようだな。
「何があった」
「石田殿からの伝令が来たようです」
「そうか…関ケ原で戦いが始まったか?そうなると、遅れたことになるな…」
田辺城を攻めた、小野木殿はどうなったのであろうか。
京からの横やりで面倒な事になっていると書状を送ってきていたが、流石に落としているんじゃないか。
「それで、石田殿からは」
「昨日、徳川殿と戦いが始まり日没になり休戦しているとのことです」
「休戦?」
「はい、負傷者や亡骸の処理をすることで休戦しているようです」
成程、激戦だったのか、予想以上に死傷者が多かったのかもしれないな。
福島殿や細川殿あたりは被害を顧みず猛攻を仕掛けていそうだ。
「それと、兵を二手に分けて欲しいと」
表情が曇ってしまった。
兵を分けるとか…
「関ケ原の陣を構える場所を考えると、狭くまとまってくると詰まる恐れがあるとのことです」
ああ、そうかもしれんな。
こちらは防備を固めて、山の上などに陣を構えているらしいから、その後ろから進めるのも困難で、兵を配置するのも難しいか。
山間は狭いだろうし、言われてみればそうか。
「我々本体は、北國街道から笹尾山の石田殿の陣と天満山の宇喜多殿、小西殿の間の池寺池のあたりに布陣してほしいと、別動隊は立花殿が率いて中山道を進み天満山の大谷殿、松尾山の小早川殿の間に陣を構えて欲しいとのことです」
「そうか」
しかし、こちらから向かうとしても、立花殿は二日ほど、こちらは少し回るので三日ほどかかるか。
それまで、耐えれるのか?
耐えれねば、撤退を支援する事になるが…
「そう言えば、信州はどうなっている、何か言っていなかったか?」
「未だに、江戸中納言殿は来られていないようです」
「ふむ」
真田殿が抑えているのか?
それとも、江戸中納言が抑えきれないのか?
上田城に籠っているなら、抑えの兵を配置して関ケ原に向かえば良いものを。
「来ていないとは流石、戦上手の真田殿ですね。大軍の江戸中納言を抑えているとは」
「山岳での戦いなれているのだろうし、大軍で城を攻めるには、被害を無視して攻めるしかないが、そんな手を江戸中納言殿は行うわけがない。そこで兵を損ねては、関ケ原に来た時に役に立たなくなる」
「日頼様が吉田郡山城で尼子勢を破ったようですね」
「確かに、真田殿は日頼様に負けぬ才があるように思える。ただ惜しむべきは、今はその才があっても日頼様のようにはなれぬだろうな」
「そうですね。南には徳川殿が居ますし、許しない勢力拡大も難しいでしょう」
「越後や木曽、甲斐あたりは取れそうだがな。ただ、短時間に抑えるだけの兵力はあるまい」
「生まれる時期が悪かったですね」
「では、皆を読んで欲しい」
「分かりました」
秀吉様からも才を認められ、二度も徳川殿も跳ね返した武略は称賛ものである。
日頼様も、尼子、大内を相手にやり合っていたからな…
ただ、徳川殿が直接攻めておらぬからな…
先は家臣が、今回は江戸中納言殿が攻めただけ、徳川殿が攻めていたらどうなっていた事やら。
「殿」
「どうした?」
「小早川様から書状が…」
「分かった」
秀秋からの書状を受け取って、中を見たが…
「あいつ何を考えているだ!」
「と、殿」
「いや、何でもない」
「はっ」
思わず口に出してしまったが、秀秋は何を考えているんだ?
大津の後始末と、今後の再編の忙しい時に!
酒で頭がおかしくなったのか?
何が、太鼓や笛、琴とかそっちにないかだ!
京極家ならそんなものがあるんじゃないかとか、寺や神社から楽器を借りてきてくれとか!
あいつは、いったい何を考えているんだ!
そして最後に「ロックロール!」って、何なんだよ!
立花宗茂…宗茂
毛利秀包…秀包
毛利秀元…秀元
吉川広家…広家
小野木重次…重次
福島正則…正則
細川忠興…忠興
黒田長政…長政
宇喜多秀家…秀家
小西行長…行長
大谷吉継…吉継
真田昌幸…昌幸
毛利元就…日頼様




