20話
『島津義弘の陣』
「話は、それだけか?」
「そうだね、本当はどうすれば家康のところにぶっ込めるか聞きたいけど…」
「ふむ、それならば、皆死兵となり一直線に突撃すれば良いのではないか」
「そうなるよなぁ、無理だわ。家康の前には守護神の忠勝がいるし、周囲には大島のじいさんみたいなスナイパーがいて、身近には宗矩とか柳生がいるんだよなぁ」
「そこまで分かっているなら、家康殿を殴るのでは無理なのではないか?」
「ですよねぇ~。もっと、家康が前線に来たらワンチャンありそうなんだけどなぁ」
「わんちゃん?」
「奇跡的瞬間が一回あるってことかな?」
「なるほど、乱戦であれば周囲に気を配る必要があるからな」
「そうそう、兵を整理するだろうから難しいかなぁ」
しかし、徳川殿の陣に突撃するのか。
これは面白いな。
このままでは、島津が動くことなく戦が終わればここにいる意味がない。
ならば…
「石田殿の陣に行くなら、わしも行こう」
「叔父上!?」
「殿?」
「え?なんで?」
「徳川殿の本陣に突入する。面白いではないか。三河武士と島津の兵のどちらが強いか試したいではないか」
「甲乙つけがたいよな…」
「叔父上」
「殿…分かりました」
このままでは、兄上と忠恒の思惑通りも面白くないな。
まあ、我々が全滅したとしてもかまわないか。
兄上、忠恒もいるから徳川殿が勝ってもどうとでもするだろう。
『石田三成の陣』
一旦仕切り直しか。
黒田、細川の猛攻は厳しかった。
細川はガラシャ殿の件があるからな…
「殿」
「どうした、左近」
「小早川様が来られました」
「…はぁ、何を考えているのだ。とりあえず、こちらに」
「…それと」
左近が言いよどんでいる。
何かあったのか?
「どうした?」
「福島様と島津様も…」
「…今、なんと?」
「福島様と島津様も…」
「と、殿!」
「大丈夫だ」
膝から崩れ落ちたぞ。
小早川殿はなんかおかしくなったと吉継からの伝令で知っているが、何故、正則と維新殿が?
維新殿は分かる。
家臣が下馬しなかったことを叱りつけられたと聞いたから、その話か?
しかし、正則は…
「まあ良い、こちらに」
「はっ」
何が一体起きたんだ?
吉継や左近からは、小早川殿は裏切る可能性が高いと言われていたが、裏切ることはなかった。
やはり、豊臣一門としての自覚があったのだろう。
正則も豊臣へ忠誠を思い出して寝返ったのか?
「殿」
「こちらに、何か飲み物を」
「はっ」
小早川殿は笑顔、維新殿は無表情だな。
そして、正則は苦虫を嚙み潰したよう表情だな。
「さて、どのようなご用件で来られたのですかな」
「悪いな、三成」
「なっ…」
小早川殿が謝罪だと?
頭でも打ったのか?
「何驚いているんだ?」
「いや、謝罪を言われるとは」
「な!?急に来たんだから謝るだろ!」
「いやいや、お前はそんな事するようなやつじゃないぞ?」
「正則!?ひでぇな!」
「…」
「維新さん何か言いたいのか?」
「別に、わしはそこまで知らぬからな」
「そうか…はぁ、なんていうネガティブな意見ばかりだ…」
「ねがてぃぶ?」
「悪い印象だよ!俺はもっとビッグなスターなロックなんだよ!」
「…何を言っているんだ?」
「三成、気にするな。こんなこちしか言ってねぇよ、こいつは」
「あなたに同情される日が来るとは」
「お前は嫌味ごとしかいえないのか」
「いや、嫌味ではなく、しみじみしているだけだ」
「そうかよ」
正則だけじゃなく、維新殿も良く分からないって表情しているな。
やっぱり酒に毒されたか?
だが、話は通じるのが恐怖だな。
「それで、何用で?」
「おう、お前に一度言っておかないとって思ったな」
「何か?」
「お前、諸将の話をちゃんと聞けよ?今回の状況はお前が作り出した状況だからな?」
「…今言う事か?」
「今だからな。明日は休戦だ。その間に諸将と話をするなり情報交換して意思疎通をしっかりしておけ。このままだと、確実に負けるぞ?」
「何を根拠に?」
「船頭多くして船山に上るという言葉知っているか?」
「知りませんな」
小早川殿がやれやれと言う表情している。
何故、肩を上げて両手を上にあげるのだ?
すこし、腹立たしい。
「意思統一が出来ないから、諸将が勝手に動いているのが問題なんだよ。家康みたいに指示系統が一括であれば統一した行動がとれるが、こちらは諸将が好き勝手に動くしかない。まあ、防戦だから構わないが、もし、元康が来た場合、だれが上に立つんだ?寄り合い所帯ではばらけるぞ?」
「…」
「まして、総大将のはずの輝元が此処におらず、大坂城にいる。それに、九州、四国に手を出している。中途半端なんだよ、今の状況は」
「宇喜多殿がおられる」
「はん、おめぇ、本気で言っているなら馬鹿にしているとしか思えんが?」
「…」
「防衛から攻めに転じた時、どうする気だ?秀忠が信州から来たら南宮山の毛利勢は苦戦するぞ?お前考えているのか?」
「…」
「もし、中山道、伊勢街道から進軍させるか、南宮山を回り込んで秀忠を抑えるか、考えているか?」
「予定では中山道から来る予定です」
「なら、吉継の陣と重なり混雑するな」
「そうだな」
「それでは、防衛体制の再編を考えているか?」
「それは、考えていますよ。吉継らの兵を下げて、毛利大蔵大輔殿と入れ替える予定です」
「あんな狭いところでか?」
「問題ありません」
「はぁ」
「それなら、我々が陣を移動しよう」
「維新殿?」
「維新さん?」
「我々が引いたところに、毛利大蔵大輔殿を入れればよいだろう」
「いえ、それは…」
「ふん、石田殿は我々の兵が少ない事に不満があるのだろう?なら、別にいなくても構わないだろう?」
「そ、そんなことありませんぞ」
「ではなぜ、我々が進言した奇襲を断った後に、島左近に奇襲をさせた?」
「…時期が合わなかったのです」
「ふん、誰がそんな話を信じると思っているんだ?」
これは、あの時の進言を退けたことを根に持っているな。
だから、下馬しなかった伝令に激怒したのか。
「島津様」
「なんだ?」
「私が殿に進言したのです。申し訳ございません」
「さ、左近!?」
左近が土下座しただと!?
確かに、此処での不和が問題なるのは分かるが…
すまぬ。
「おい、三成」
「なんです。小早川殿」
「家臣が頭下げているのに、お前は何もしないのか?」
「何を?」
「お前、頭だろ?下のものが頭下げているのに、お前の頭は何処にあるんだ?頭なら責任取るもんじゃないのか?」
「小早川様、あの件は」
「うっせぇ!だまれや、下のもんが頭下げていて、平然として責任をとらない頭に従うやつがどこまでいる?下のもんは上が責任取るから、責任持っているから命かけるんじゃねぇのか?」
「…」
「お前は、正成にすべて押し付けているけどな」
「黙れよ、正則!ここでちゃちゃいれるな!?」
「くくく」
「維新さんも笑うなよ!?」
「…」
「三成、お前は豊臣に尽くしているのも分かるし、正しい事を言っている事も分かる。だがな、俺たちは人間だぞ?感情があるんだぞ?得することがなければ動かないぞ?人の欲をお前は軽視し過ぎている」
「そんなことはありません」
「そうだな、お前は仲間に甘い、そうでなければ厳しい」
「公平にしております」
「確かに、我ら島津への配慮は忘れておらぬ」
「その公平が曲者なんだよ」
「それは?」
「利があった者は公平と思うだろう、しかし、思い通りにいかなかったものは不公平と思う」
「豊家に仇なすものは処罰するしかありません」
「お前の忠義は熱い、正しい、だが、すべての者たちがそうではない。お前でさえ、その忠義に溺れすぎている」
小早川殿は何を言っているのだ?
豊家に忠誠を誓わぬものは排除するしかないではないか。
そして、忠誠を誓うものには優遇するべきだろう。
黒田長政…長政
島清興…左近、清興
島津義弘…義弘、維新
毛利元康…元康、大蔵大輔
毛利輝元…輝元




