17話
『徳川家康の陣』
日が暮れてきたか、一旦戦は終わりだな。
忍びを放って、三成や秀秋あたりを始末で切ればよいが。
だが、それをしたらわしの名き傷がつく。
「ふっ、今更か」
「殿、何か?」
「石田らが一時休戦を言ってくるだろうから、受け入れろ。戦場の片づけを明日行わす」
「分かりました…手の者を送りますか?」
「別にしなくても構わん。石田ら如き、そのような手管で勝っても仕方ない。戦で勝ってこそ、諸将が誰が天下人であるかを理解させることが出来る。時世を読むことが出来ぬものは知らぬがな」
「はっ」
だが、年の為に、宗矩には指示は出しておくか。
まったく、長政に騙されたな。
調略がうまくいくかは分からない事ではあるが、ここまで裏目にでるとはな。
広家は、もう少し頭が良いと思ったがな。
それとも、毛利を潰すことを悟られたか?
いや、あやつはそれを踏まえた上で動いていたはずだ。
一体何があったのか…
『毛利秀元の陣』
ふう、参戦が遅れたとは言え、不意を突いても崩れないとは、やはり浅野らは戦人だな。
簡単に敗れると思ったが、手ごわい。
広家も手加減をしているかと思ったが、戦乱を潜り抜けた兵たちを従えているのは強いな。
文弱の先代浅野であっても、やはり、侮れぬか。
「秀元殿」
「どうした、広家殿」
「どうも、停戦になるようだ」
「日が暮れたからか?」
「いや、戦場を片付けるためだそうだ」
「ふむ、時間稼ぎかな」
「それもあると思いますが、戦線の整理と布陣を考える為かと思います」
「そうか、浅野勢で調略に乗りそうな家はあるか?」
広家は目つむり、考えている。
浅野は殿下の親族とは言え、石田殿とは確執がある。
池田殿など、父、兄を小牧長久手で斃されているのに、徳川殿に味方している。
それだけ、徳川殿の器と殿との器の差なんだろうな。
いや、やはり上方での活動の差と、石田殿の嫌われようか。
「難しいと思います」
「池田殿は?」
「厳しいかと」
「父や兄の敵であっても、勝てるなら従うか」
「…そうですね」
「こちらも調略をかけられるだろうが、大丈夫だろうな?」
「ふっ、今更ですし、決断した以上は裏切りませんよ」
「…利用することは無理か?」
「浅野殿、池田殿、山内殿が騙されるとは思いません」
「そうか…世鬼衆は?」
「周囲を警戒しています」
「なら、明後日に再開した際に流言をまくか」
「ないよりましですね。これから仕掛けます」
「頼んだ」
余り時間がかかると、信濃から江戸中納言が来る。
「それと、信濃方面にも物見を」
「江戸中納言殿ですね」
「ああ、放置している挟撃されかねん。それと、上田の真田殿に使者を」
「今からでは間に合わないと思いますが」
「念のためだ。江戸方面への流言もあってもよいだろう」
「なるほど、兵糧などを遅延させることも」
「あちらも考えるだろうが、打てる手は打った方が良い」
「分かりました。石田殿にも話して人を借りましょう」
「そうだな。何も、こちらだけでする必要はないな」
「恵瓊は?」
「供養する手はずをしているとか」
「坊主だからか?生臭なのに?」
「ははは、そう言いなさるな。供養は兵たちも安心することが出来ます」
「そうか、そうだな」
生臭で、気に食わない所があるが、恵瓊は坊主だからな。
坊主としても役目があるか。
『石田三成の陣』
日暮れまで耐えたか。
黒田勢も攻めきれず、こちらも押し返しきれなかった。
左近、郷舎も手傷をおったが、軽い傷で良かった。
忠康たちも疲労がたまっていたな。
結局、持ってきた大筒は使えなかったな。
「殿」
「どうした」
「停戦と戦場の片づけについて、黒田様からの了承が得れました」
「一日、日が伸びた。毛利大蔵大輔殿も明後日には来るかもしれない。それなら盛り返せるはず」
左近は苦い表情をしている。
毛利大蔵大輔殿が来れば、こちらの兵数も増える。
大津での戦いはあったが、戦い続けた我々より力がみなぎっているはずだ。
「そうなると、信濃より江戸中納言様が来られるかもしれません。いくら上田で真田様が留め置いたとしても、陣中には進言する者もいるでしょう」
「ふむ、確かに上田を落とさず、囲っているだけで放置していても問題ない。ここで勝ちを得ればな」
「そうです」
「…真田殿はどう考えているのか。こちらに援軍を送ることがあるのか」
「無理でしょう。江戸中納言殿がこちらに来るならば、抑えの兵は置くはず。それを考えれば、兵は流石に。来れても忍びかと」
「…よし、それでも良いので、送ってもらおう。抑えの兵であれば戦いもあるまい」
「間に合わないかもしれませんが」
「構わない、打てる手は打つ」
「分かりました」
休戦で、徳川殿の事だ、調略を仕掛けてくるだろうな。
こちらは、朽木ら三家は怪しいか。
だが、小早川勢が居る以上、今更寝返り出来ないだろう。
後は、島津殿か。
「左近」
「島津殿の陣に明日向かう」
「分かりました。殿」
「なんだ?」
「くれぐれも島津殿の事を考えて下さい」
「…分かっている」
「島津様のところに行く前に、大谷様と相談してきてください」
「…はあ、分かった」
なんだ、吉継も左近も私を何だと思っているんだ。
丁寧に説明し、腰を低くして話しているではないか。
豊家の為に、私は我を殺しているというのに…
「はぁ、殿は人の心が分かっていない。自らはしているのにと思っているだろうが、それは身近な人たちだけが分かるのであって、付き合いの少ない人たちには分かるわけがない。まして、自らが正しいとして、正論のみを言っている。理想や建前を本気で考えて、相手の利を考えない。人としては、私心なきひとなんだろうが…」
…ここは確か、義弘のじいさんがいるところか。
とりあえず、挨拶するか。
「こんばんわ!」
「何もだ!」
お、槍を構えてきたな1
喧嘩を売ってきたか!?
ちっ、島津は厄介だから嫌なんだが、仕方ない…
「なんだよ、正則!」
「お前、馬鹿なことを考えていただろ?」
「だって、槍を向けてきたんだぞ?」
「当たり前だ!馬鹿野郎!先触れを出して、来ることを伝えるんだよ!」
そう言えば、そうだった。
とりあえず、馬降りるか。
「よっこい、どっこいしょっと」
「なんだ、その掛け声は…はぁ」
「よ!すまんな!俺は小早川だ!俺の歌…痛っ!?何すんだよ、正則!」
「馬鹿なこと言いそうだったのでな。島津殿にお伝えしてほしい。小早川と福島が訪ねてきたと」
「…分かりました。おい!」
お?
誰かが陣に走って行ったな。
さて、何の話しよう?




