11話
前線に来たが、激しいな。
周囲に死んだ連中や怪我で動けない連中がいる。
血の匂いと汗のにおいがきつい。
死ぬ前の俺だったら吐きそうだけど、そうではない。
冷静な自分自身に驚くな。
「殿」
「親次、正則は何処だ?」
「藤堂や京極の先のようです」
「ちっ、邪魔だな…三家の兵も邪魔だ」
「仕方ありません」
「仕方ねぇ、吉継の陣に行くぞ」
「…分かりました」
「吉継!」
なんだ、こっちを見てため息をつきやがったぞ。
失礼な奴だ、ぷんぷん!
(お前がやっても可愛くないんだよ!馬鹿野郎!)
ジンのツッコミが?
まあいいか。
「何ようで?」
「おう、正則を捕獲しようと思ってな!」
「福島殿を?」
「そうだ」
「何故、そのような危険なことを。乱戦の中では流れ矢もあります。また、福島殿を小早川殿が捕縛できるとは思えません。ですので、おやめになり、とっと陣に戻りなさい」
おかしい、最初は気を使っていると思いきや、最後は説教になり命令か!?
手厳しいな!
「お前、眼もほぼ見えず、表情も見えないのに呆れた表情していないか?」
「良くお分かりで」
「かぁ~!やってられんな!俺をなめるなよ!」
「なめておりません、呆れているだけです」
「考えなしでやっている訳じゃない」
「ほう、では?」
「家康の守護神を殴るために必要だんだよ」
「守護神…本多殿ですか」
「ああ」
「個人の武勇は確かにこの国で唯一無二の無双かもしれませんが、率いている兵を潰せば何もできません。かつて、強弓で天下に鳴り響いた源為朝も敗れています」
「まあ、そうだがな。だが、為朝と忠勝には決定的に違うものがある」
「それは…確かに、使える主君が居たか、居ないか。本多殿の忠誠の高さは殿下でさえ唸らせたものです」
「後は、柳生の連中もいるからな」
「兵法者の柳生は確かに手ごわいですね」
「とりあえず、家康を殴るにほそういう連中を排除しないといけないからな。手札は会った方が良い。正則の武勇と配下に槍の使い手もいるから、三人であれば忠勝を捕縛できる可能性がある」
「…危険すぎますね」
「だが、忠勝を排除しなければ、家康にはたどり着けないぞ?」
「確かに…」
なんだ、吉継は考え始めたな。
まあ、俺が正則とやり合っている間、邪魔をしなければ良いけど。
「ところで、小早川殿」
「なんだ?」
「徳川殿をどうなさる気で?」
「ん?殴り倒すだけだけど?」
「…今なんと?」
「だから、殴り飛ばす」
顔を左右に振って、空を見上げたぞ?
「討ち取る気がないと?」
「討ち取ってどうなる?」
「この戦を起こした責任と、豊臣家の安定のためにです」
「ははは、何を言っているんだ。こんな中国…今は、明か。大陸の王朝のような中央集権のような体制でもないのに、安定なんてするわけないだろ」
「何を?」
「個々人が、領地を持って支配し勝手に法制度を整えているんだぞ?例えば、吉継で強盗をしたものが、正則の領地に逃げたらどうするんだ?」
「それは、引き渡しを求めます」
「拒否されたら?」
「豊臣家で裁いてもらいます」
「それも無理だな」
「そんなことはありません」
「大老がバラバラ、その下の中老役立たず、奉行は行政能力のみで権力はない。それで、どうやって捌けると?確かに大陸の王朝には問題もある。だが、全国を共通の法の枠組みで支配し、何処に居ようと適応されるのは良い事ではないか?法が支配する者たちによって、変わるのは不公平だけではなく、民にとっても良くないだろう」
「しかし、長い間この国はそれで成り立っています」
「まあな。かつての朝廷による運営が正しいかもしれないが、公家どものような特権階級を作ると腐敗の温床にしかならないし、在野の人材も登用できない。新しい枠組みが必要だと思うぞ。家康は信長や叔父上のやり方を参考に更に進めて鉢植え支配をしそうだけどな」
「鉢植え支配?」
「支配する領地を都度変えていくんだよ。鉢植えの植え替えのようにな」
「前田や島津など大領を持った者たちが納得しますか?」
「納得しなければ潰すだけでは?」
「…」
徳川幕府は海外への進出はせず、ひたすら内にこもったからなぁ。
海外の騒乱に巻き込まれないけど、結局、世界から置いてけぼりになったからな。
参勤交代や手伝い、領地替え、無嗣断絶とか、大名たちを良く統制したと思う。
問題は、内にこもりすぎて外を知らず、いつの間にか自らが優れた者たちと勘違いして、外国は汚らわしいとか頓珍漢な思想で幕末になったことだろうな。
島津や毛利のように、外国との取引の有用性を取りれたものたち有利になったんだよな。
「叔父上は、そこまでの体制を築く前に亡くなってしまったし、秀次を追い詰めたの結果がこれだろ?」
「…」
「秀次が生きていれば、家康に対抗しきれずとも、此処までの混乱は起きていなかったはず。秀次の家臣団も有能なものもいたからな」
吉継が目を閉じている。
「それに、家康の首を落としても、秀次たちや徳川家臣団が納得するか?九州では、如水があばれているんだろ?隙をみせれば、政宗もどんな動きするかもわからない」
「しかし、徳川殿には責任を取ってもらわないといけません」
「だな、だから俺が殴って」
「だなら殴るというのは意味が分からないです」
「喧嘩だから殴られたら殴り返さないと」
「…頭がおかしくなったのか?」
「うっせいぞ!聞こえているんだよ!」
「ふう、それで?」
「家康は秀忠ではなく、秀康に家督を譲って隠居だな」
「ふむ、なるほど結城殿か」
「そうだ、それで三成も重家に家督を譲って、隠居だな。あ、二人とも出家の方が良いか」
「何故、三成まで?」
「だって、責任取ってだろ?ああ、輝元も隠居させるか」
「どういうことです?」
「首謀者は隠居させれば、責任取った事になるじゃないか」
「それでは、戦後処理ができません」
「だから、出家だろ?坊主になったらまつりごとに関わってはいけないという話は無いからな!」
「…中枢から遠ざけずに、取り込めと?」
「おう、使えるものは何でも使わないとな!出家して、秀頼の直臣にすればよいんだよ。もしくは御伽衆か?」
「無茶苦茶な事を、それでは恩賞が渡せなくなりますよ」
「いや、家康に付いた連中は所領を没収か、削減だぞ?」
「納得しないのでは?」
「そうだな、納得しない。だから、日本の外に行ってもらう」
「なるほど、不平分子を外に追い出すと」
「それもあるがな、外国人…南蛮?紅毛?そんな連中が支配している地域は邪魔だし、台湾…高山国か?そこも明は支配していないらしいからな、そっちに行ってもらう。領地は広大だぞ?」
「なるほど…それで、手が足りないから出家した三成らを使うと」
「そうだよ、事務仕事なんて面倒なことを丸投げだ!」
頷いているな。
「分かりましたが、やはり、福島殿と戦う事は賛同できません」
頷いたじゃんよ!
何でだよ!
「分が悪すぎます。いくらあなたが動けても、福島殿には勝てません」
「まあ、馬鹿正直にやり合う気はないよ」
「それがあの大木ですか?」
「おう、正則はひとりでやり合えても、忠勝は絶対に無理だからな…はぁ、なんだ、あの化け物は」
「それは同意します。あなたが討たれたら、小早川の兵はどうなるのですか?」
「正成が最後まで指揮する事になっているから大丈夫だ!俺よりうまく扱う!」
うわ、失礼だな、大きなため息をついて!
失礼しちゃうわ!
(だからぁ、お前がやっても可愛くないんだよ!)
うるせぇ!ジン!




