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第二章 関守之紀助 前

 ここまで語ると与三郎はふっと息を吐いた。曼済が訊いた。


「関では何があった」


 与三郎は、しばらくしてから静かな口調で再び語りはじめた。


 狛若が思い出したように駆け出し、道ばたにしゃがみ込んだ。


「見て下さい与三郎さま、花が咲いてます」


「花が珍しいのか」


「嬉しいじゃありませんか」


「嬉しい?」


「冬が終わるから」


 寒さはずいぶん弛んできた。与三郎は、しゃがみこんでいる狛若の横に立つと、花に手を伸ばそうとした。その手に手を添えて、狛若が言った。


「いけません」


「そうか」


 与三郎は花を摘むのをやめた。


「行きましょう」


 狛若は花を愛でるだけ愛でて立ち上がった。


 街道を行く二人の前を、ひとりの行商が歩いていた。見るともなく視界に入る行商が、ぽとりと小さな巾着を落とした。行商は気づいていない様子であった。


「ちょっと知らせてきます」


 花を見つけたときのように、狛若は結った長い髪を靡かせながら駆け寄って、巾着を拾い上げると、行商の前に回り込んでこれを手渡した。


 いかにも人の好さそうな笑顔を見せる行商。


「これは……ありがたや、坊」


 行商は少し後ろに佇んで様子を見ていた与三郎に歩み寄ると、


「あれなるお稚児さんの主《あるじ》でいらっしゃいますな。路銀を落としてしまえば商いどころではなくなるところでした。ありがとうございます。些少ではございますが……」


 そう言って幾許かの礼銭を与三郎に差し出した行商。与三郎は断らなかった。


「ではこれにて……」


 行商は先を急ぐようにその場を去っていった。


 しばらく歩くと行列が見えてきた。


「ああ、関所だ」


 狛若はそう呟くと、懐から何かを取り出そうとした。


「無駄だ。よせ」


 与三郎はこれを止めて、続けた。


「本寺の過書《かしょ》など示したところで、ここでは関守に笑われるか、突っ返されるのがオチだ」


 狛若は取り出しかけた過書を、再び懐にたくし込んだ。


 二人は行列の最後尾に並んだ。見ればはるか先を行ったはずの行商。


「いやあ、待たされています」


 追いついた与三郎一行に気づいて、ばつが悪そうに苦笑いする。


 行列の先頭では、関守と通行人との間でなにやらやりとりが行われていた。言葉こそ聞き取れなかったものの、関銭をめぐって通る通さぬのやりとりが行われていることだけは確かであった。


「新関停止やなんや言うてみたところで、実態はこれですわ」


 行商は苛立った様子で呟いた。


 ずいぶん待たされたのち、行商の番になった。


 関所とはいっても、粗末な番所と柵ばかりのものであった。四人の関守がこれを固めている。その姿はといえば、半裸に腹巻、手には鑓や錆刀。或いは鉢金《はちがね》を巻き、或いは半首《はつむり》を着しており、いかにも無頼そのものといった風体であった。


 行商は、直前の通行人が差し出したのと同じ十文を巾着から取り出した。これを関守のひとりに手渡すと


「うぬは行商やな。そしたら十五文や」

「そんな……前のお人は十文やったやございませんか」

「行商は十五文や。文句があるんやったら違う道を通ってもらっても一向に構わんのやぞ」


 関守が言うように他に道がないわけではなかったが、大きく迂回を強いられるうえに、その道にも関所が設けられているかもしれなかった。


 行商は


「分かりました、ああ分かりましたともよ!」


 自棄《ヤケ》を起こしたように更に五文を取り出したが、その手を止めたのは与三郎であった。


「これを」


 見れば五文。


「いや、しかしこれは、あなた様に謝礼として差し上げたもので……」


 行商は断ろうとした。しかし


「なんや、持っとるやないか。ほなら十八文や」


 更にふっかける関守。


「そんな……」


 行商が視線を落とした。

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